Mr. Perfect(灰谷竜胆/長編夢)

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 灰谷君は何も言わずに車を発進させた。どこに向かっているんだろう? 明らかにマンションとは反対方向だ。しばらく行くと、なんだかイヤな予感がする。

 案の定、私の高校が見えてきた。えーっ。なんで?? ちょうど下校時刻だから、生徒たちがわらわらと出てきている。

 彼は校門のそばに車を停めると、淡々とした口調で言った。

 「誰か友達つかまえて、オマエが無事なの伝えてこいよ。それから今日の授業のこととか聞いてきたら?」

 それは有難い……多分欠席連絡は親が入れてると思うけど、やっぱり友達は心配しているだろう。今日は英語でグループワークの準備もあったから、きっと迷惑をかけちゃったに違いない。ずっと携帯も見ていないし、実はすごく気がかりだったのだ。

 車を降りると、皆んなこちらを見て驚いている。そりゃそうか。校門の前に、こんな高級外車が停まってるんだもん。う、うわぁ。ほんとに私、なんか注目浴びちゃってる! 早く友達を探さないと!


 すぐに友達はつかまって、要件を話し、親しい友達に伝えてもらえることになった。安心して車まで戻る。

 「どうも有難う。ちゃんと友達に伝えてきた」

 「オマエ、まだ家出続けるのか? もう気分も落ち着いただろ。そろそろ帰れよ」

 私はそのときハッとした。彼は本当に、おととい出会ったときからずっと、一貫してこの態度だ。折に触れて家に戻れ、学校に行け、帰れ、と言ってくれている。私を不良にするなんて言っておきながら、実はずーっと帰るよう促してくれていたのだ。挙げ句の果てに、こうして学校まで連れてきてくれたのだった。

 や、優しい……

 私は気がついてしまった。そうだ、彼は優しい。ビックリするほど優しい人なんだ。

 なんだか胸がドキドキして、落ち着かなくなってきた。なんだろう? この気持ちは。たしかに私は、今すぐ帰るべきだろう。きっと両親も心配しているし、ずっと家出を続けることは出来ない。でもこのまま彼と別れてしまうのはイヤだった。

 「……もうちょっと、灰谷君といたいんだけど、ダメ?」

 「じゃあ日付けが変わるまでは付き合ってやるよ」

 灰谷君は穏やかに微笑んだ。私はその笑顔が眩しくて、やっぱり心臓がドキドキする。一体どうしたんだろう?


 それから彼はまた車を走らせて、次はミッドタウンへ行った。少し早いけど、夕食に行くことにする。

 なんだか彼は、また敷居の高い所へ連れてってくれそうだ。例えばここの、高層階のレストランとか。地元民は絶対に行かないようなお店だ。今回は1階のカジュアルなレストランにしない? と私から誘い、そこに行くことになった。はぁ。良かった。もうこれ以上、彼にお金を使ってほしくない。

 「ねぇ、灰谷君ってさ、私のこと不良にするって言ってたけど、実際は全然違ったよね。私のこと泊めてくれて、親に連絡してくれて、話を聞いてくれて、遊びに連れ出してくれて、学校にまで連れてってくれて。なんか……めちゃくちゃお世話になっちゃった。ほんとに有難う」

 私は注文したドリアを食べながら彼にそう切り出した。ほんとに、彼には感謝してもしきれないなぁ。

 「そうか? けどオマエ、酒も飲んだし、家ではエロい衣装で過ごしたし、学校サボってオレと遊びに出かけたじゃん。だいたい男んとこに泊まってる時点でアウトだし」

 彼はパエリアを食べながら淡々と言った。でもやっぱりちょっと嬉しそうだ。

 「はは。確かにそうだね。でもそれが灰谷君で本当に良かったよ」

 レストランを出るともう日は落ちていた。あぁ、彼との時間ももうすぐ終わっちゃう! そう思うと、すごく寂しい………
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𝓁𝒾𝓀ℯ