ある日突然、稀咲君が豹変した。いきなりガン黒で金髪、耳にはピアス、変形した制服、ギラついた派手なメガネ！なんと彼は、不良になってしまったらしい！！う、うわぁ！一体彼に、何があったの？！　　

　もう学校中がドン引きだ。この有名私立中に通う全国模試1位の神童が、いきなりグレてしまったのだ！！

　もうあんなの、稀咲君じゃない……私はいつものように彼を物陰から眺めながら、密かに号泣していた。彼はこれまで黒髪にダサいメガネ、ボサボサの髪型、ボソボソした喋り方、ヒョロヒョロの身体……勉強だけが取り柄の、友達皆無の非リア充だったはずだ。その彼が、一体どうしてこんなことになっちゃったの？！

　そこからの私は、トンデモナイ地獄を見た。彼はどうやら、マジで不良になりたいらしい。というか、最終目標を、"日本最大の犯罪組織の形成"にしている。えぇーっ？！

　橘さんのことを好きなのは知ってるけど、その彼女の彼氏が不良だから、その人をこえるために、そんな突き抜けた目標を立てたらしい。アホだ！アホすぎる！！だって橘さんはそんな奴、絶対に好きにならない。お父さんも警官だし、曲がったことが大キライな子じゃない！！

　彼は一体、彼女の何を見ているというのだろう？？？？？？？？

　そこからはもうめちゃくちゃだった。ガラの悪い奴等とつるみ出し、年上の不良に声をかけ、数々の暴走族を渡り歩く。ヘラヘラしてラリってそうな長身の変態と仲良くなり、彼に守って貰いながら、権謀術数を張り巡らす。チームのトップを懐柔し、副リーダーを殺させようと仕向け、裏から別のチームを操り、嘘の情報を流して殺し合いをさせ、失敗したら別のチームに乗り換え、またそこで同じようなことをやり、敵チームのリーダーの妹に手をかけ、拳銃まで持ち出し、結局八方塞がりになって逃走。最期はあっけなくトラックに轢かれて、「死にたくねぇ」と呟いて死んでしまった。
　
　わ、わぁ…… 私は彼のむごたらしい死に様を見て、涙が止まらなかった。彼は本当にアホだ。誰かが亡くなるよう仕向けたり、実際にその手で人を殺したり。もう救いようがないアホなのだ。

　けれども私はやっぱり彼が好きだった。橘さんが好きで、橘さんが好き過ぎて、その天から与えられた頭脳をこんなアホなことに使ってしまった彼が。

　もう一度、やり直したい！私が小学生のころに戻って、彼が暴走するのをやめさせたい！！！

　でもそんな願いが叶うはずもない。私は彼の死を引きずりながら、色のない日々を送った。

　ところがその数年後、いきなり私の人生は変わった。