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【急募!!】
6月の土日のみ、アシスタント募集!!
詳細は事務所まで
TAKASHI MITSUYA
デザイナーズ事務所
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここ、アシスタントを募集してるんだ。それも土日だけ………
6月2週目の金曜日。午後6時半。仕事帰り、私は毎日通りかかるその事務所に、そんな貼り紙がされていることに気づいた。黒い太マジックでただ殴り書きされただけのそれは、まさに人手不足なことをありありと伝えている。
その文字を眺めていると分かった。きっとこれは、物凄く困っているんだろう。すぐにピンときた。私はいま、心から忙しくなりたい。とにかく休みの日も、ずっと予定を入れていたかった。
よし、応募してみよう。緊張するけど、私は覚悟を決めて顔を上げた。
事務所のドアを叩くと、ものすごい光景が目に飛び込んできた。中はめちゃくちゃだ。本当に散らかっていて、汚い。書類やら洋服やら仕立て途中の原型やらなにやら、とにかく色んなもので埋め尽くされている。奥のデスクに座る男性が、疲れた顔で私を見た。
「……あれ、何か御用ですか?」
彼は目の下にくまができている。私は緊張しつつ答えた。
「えっ、と……アシスタント募集の貼り紙を見て、うかがったんですけど……」
「えっ! マジで?!」
彼は目を見開いた。実は彼のことは一度、コンペの会場で見たことがある。彼はその日、デザイナーの登竜門と呼ばれる、日本服飾文化新人賞の最優秀賞に輝いた。彼の作品は"双龍"。美しい2匹の龍をモチーフにしたその作品は、ダイナミックな情熱と繊細な技術が融合し、見事な存在感を放っていた。彼は私と同い年なのに、素晴らしい才能を持っている。さらに彼は、ビックリするほどのイケメンだった。正直デザイナーだけでなく、モデルにもなれるのではないだろうか?
「あのさ、もううち、めちゃくちゃ大変なんだ。だから良かったら、面接とか無しで明日から来てほしいんだけど」
彼は私のそばまで来てくれて、私の目をまっすぐに見てそう言った。
「わかりました! あの、一応これ、お渡ししておきます。私は苗字名前と申します」
履歴書は持ってないけど、代わりに名刺を手渡す。
「あぁ。オレは三ツ谷隆。って、えっ!? ×××××デザイナーズ事務所所属って、大手じゃん。なんで君、うちなんかでバイトやりたいんだ?!」
「……ちょっと理由があって、土日も仕事したいなって思っていたんです。それにこちらは、私の家からも近いですし」
そのとき電話がなって、彼はごめん、と言いデスクに戻った。ところが彼は何か揉めているようで、いきなり大声で怒鳴った。
「ちょっと待ってくださいよ! それじゃあ話が違うでしょ!!」
わ、わぁ……! 私は思わず、ギョッとして固まった。彼はなかなか、ドスのきいた声を出している。そういえば彼はその授賞式のときに、昔暴走族だったと言っていた。なんでもその双龍という作品は、その暴走族時代の親友との友情をモチーフにしたらしい。たしか、チーム名は、東京……なんだったかな?
昔暴走族だった人に会うだなんて、多分人生で2人目だ。意外に居るんだなと思った。
彼は電話を終えると、大きなため息をついてうなだれた。
「すまねぇ。ちょっと今、取引先と揉めててさ。納品時期が遅れるって、あっちのミスなのに謝らねぇし、値段も下げねぇとか言い出して」
私はまだドキドキしながら答えた。
「……それは大変ですね」
また電話が鳴ったので、彼は乱暴に受話器を掴み取った。
「……はぁ?! だからそれは、そっちのミスだって言ってんでしょうが!!」
どうやら罵り合いが始まったようで、受話器からも怒声が聞こえてくる。でもこういうことは、私達の世界では割とあることだった。納期が全ての業界だから、スムーズにいかないことは多い。
彼はまた受話器を乱暴に置くと、さらにげんなりした表情になった。
「ほんとにごめんな。いきなり。けどうち、マジで小さい会社だから、足元見られてこんなんばっかでさ」
「いえ。このような感じのことは、私の会社でもよくあることですから」
「ほんとか?」
「はい。良かったら、先方のミスを整理して、私が交渉してみましょうか? 実は前にもこんなことがあって、その処理を私が担当したことがあるんです」
「……え、君が?」
彼はビックリしたようだ。その反応は仕方ない。だって私、どこからどう見ても仕事が出来そうには見えない。けど私はこの仕事が大好きで、結構向いている自負がある。
私は彼に資料をもらい、先方のミスを分析し、全て時系列にまとめあげた。さらにそこから損害分を差し引き、ぎりぎりで折り合いをつけた値段を割り出した。そこでもう一度私から電話したところ、値引き交渉が成立した。
彼はずっと目を丸くして私を見ている。私はすごくホッとした。今のやり取りだけでも、どうやら彼とは馬が合いそうだと分かったからだ。
「……苗字さん、君、ほんとに有能だな。なんでうちなんかでバイトしたいの? 悪いけどうちは、普通のバイト代しか出せないんだけど」
「ちょっと事情がありまして……経済的な理由ではなく、休日も忙しくしていたいんです。だから今月は、こちらに来られると助かります」
「こっちこそ君が来てくれたら助かる。明日から頼むよ」
彼は爽やかに笑ったので、私もとても嬉しくなった。彼はとてもいい人のようだ。私はちょっとだけ心が軽くなった。
【急募!!】
6月の土日のみ、アシスタント募集!!
詳細は事務所まで
TAKASHI MITSUYA
デザイナーズ事務所
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ここ、アシスタントを募集してるんだ。それも土日だけ………
6月2週目の金曜日。午後6時半。仕事帰り、私は毎日通りかかるその事務所に、そんな貼り紙がされていることに気づいた。黒い太マジックでただ殴り書きされただけのそれは、まさに人手不足なことをありありと伝えている。
その文字を眺めていると分かった。きっとこれは、物凄く困っているんだろう。すぐにピンときた。私はいま、心から忙しくなりたい。とにかく休みの日も、ずっと予定を入れていたかった。
よし、応募してみよう。緊張するけど、私は覚悟を決めて顔を上げた。
事務所のドアを叩くと、ものすごい光景が目に飛び込んできた。中はめちゃくちゃだ。本当に散らかっていて、汚い。書類やら洋服やら仕立て途中の原型やらなにやら、とにかく色んなもので埋め尽くされている。奥のデスクに座る男性が、疲れた顔で私を見た。
「……あれ、何か御用ですか?」
彼は目の下にくまができている。私は緊張しつつ答えた。
「えっ、と……アシスタント募集の貼り紙を見て、うかがったんですけど……」
「えっ! マジで?!」
彼は目を見開いた。実は彼のことは一度、コンペの会場で見たことがある。彼はその日、デザイナーの登竜門と呼ばれる、日本服飾文化新人賞の最優秀賞に輝いた。彼の作品は"双龍"。美しい2匹の龍をモチーフにしたその作品は、ダイナミックな情熱と繊細な技術が融合し、見事な存在感を放っていた。彼は私と同い年なのに、素晴らしい才能を持っている。さらに彼は、ビックリするほどのイケメンだった。正直デザイナーだけでなく、モデルにもなれるのではないだろうか?
「あのさ、もううち、めちゃくちゃ大変なんだ。だから良かったら、面接とか無しで明日から来てほしいんだけど」
彼は私のそばまで来てくれて、私の目をまっすぐに見てそう言った。
「わかりました! あの、一応これ、お渡ししておきます。私は苗字名前と申します」
履歴書は持ってないけど、代わりに名刺を手渡す。
「あぁ。オレは三ツ谷隆。って、えっ!? ×××××デザイナーズ事務所所属って、大手じゃん。なんで君、うちなんかでバイトやりたいんだ?!」
「……ちょっと理由があって、土日も仕事したいなって思っていたんです。それにこちらは、私の家からも近いですし」
そのとき電話がなって、彼はごめん、と言いデスクに戻った。ところが彼は何か揉めているようで、いきなり大声で怒鳴った。
「ちょっと待ってくださいよ! それじゃあ話が違うでしょ!!」
わ、わぁ……! 私は思わず、ギョッとして固まった。彼はなかなか、ドスのきいた声を出している。そういえば彼はその授賞式のときに、昔暴走族だったと言っていた。なんでもその双龍という作品は、その暴走族時代の親友との友情をモチーフにしたらしい。たしか、チーム名は、東京……なんだったかな?
昔暴走族だった人に会うだなんて、多分人生で2人目だ。意外に居るんだなと思った。
彼は電話を終えると、大きなため息をついてうなだれた。
「すまねぇ。ちょっと今、取引先と揉めててさ。納品時期が遅れるって、あっちのミスなのに謝らねぇし、値段も下げねぇとか言い出して」
私はまだドキドキしながら答えた。
「……それは大変ですね」
また電話が鳴ったので、彼は乱暴に受話器を掴み取った。
「……はぁ?! だからそれは、そっちのミスだって言ってんでしょうが!!」
どうやら罵り合いが始まったようで、受話器からも怒声が聞こえてくる。でもこういうことは、私達の世界では割とあることだった。納期が全ての業界だから、スムーズにいかないことは多い。
彼はまた受話器を乱暴に置くと、さらにげんなりした表情になった。
「ほんとにごめんな。いきなり。けどうち、マジで小さい会社だから、足元見られてこんなんばっかでさ」
「いえ。このような感じのことは、私の会社でもよくあることですから」
「ほんとか?」
「はい。良かったら、先方のミスを整理して、私が交渉してみましょうか? 実は前にもこんなことがあって、その処理を私が担当したことがあるんです」
「……え、君が?」
彼はビックリしたようだ。その反応は仕方ない。だって私、どこからどう見ても仕事が出来そうには見えない。けど私はこの仕事が大好きで、結構向いている自負がある。
私は彼に資料をもらい、先方のミスを分析し、全て時系列にまとめあげた。さらにそこから損害分を差し引き、ぎりぎりで折り合いをつけた値段を割り出した。そこでもう一度私から電話したところ、値引き交渉が成立した。
彼はずっと目を丸くして私を見ている。私はすごくホッとした。今のやり取りだけでも、どうやら彼とは馬が合いそうだと分かったからだ。
「……苗字さん、君、ほんとに有能だな。なんでうちなんかでバイトしたいの? 悪いけどうちは、普通のバイト代しか出せないんだけど」
「ちょっと事情がありまして……経済的な理由ではなく、休日も忙しくしていたいんです。だから今月は、こちらに来られると助かります」
「こっちこそ君が来てくれたら助かる。明日から頼むよ」
彼は爽やかに笑ったので、私もとても嬉しくなった。彼はとてもいい人のようだ。私はちょっとだけ心が軽くなった。
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