第8話 引っ越し祝い
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それからヤノくんはしょっちゅう連絡をくれて、私たちは頻繁に会えるようになった。昔の彼からは想像もつかないけれど、ヤノくんは私が行きたいところを聞いてくれ、どこへでも連れていってくれた。
遊園地、水族館、映画館、ショッピングモール、ダーツバー。それに服や靴を買ってくれたり、美味しいお店に連れて行ってくれる。どこへ行っても何をしても、何を食べても何を見ても楽しかった。
今日も私の希望を聞いてくれ、動物園に来ている。
「あっ!ヤマアラシです!可愛い!私は今日、この子が1番見たかったんです!」
私はハイテンションだが、ヤノくんは恐ろしく無表情のまま檻の中を見ている。
「むしろキモいだろ、こいつ」
ヤノくんは動物に興味がないようだ。まぁ、魚にも興味なかったが。
「このツンツンヘアー、ヤノくんに似てませんか?」
「はぁ〜?似てねぇよ」
彼はいつも通りのスリーピーススーツだが、ここではちょっと浮いている。そりゃあそうだろう。動物園では私服がいいと思うが、ヤノくんはこのあと仕事がある。最近も彼はとても多忙らしく、仕事の合間を縫うようにして会ってくれていた。
ほかにもシロクマやセイウチ、キツネ、ゴリラ、アルパカ、ピューマ、シロテナガザルなんかを見て、最後にミーアキャットを見に行った。
「実は私、動物ではもともと、ミーアキャットが1番好きなんです。この可愛い瞳と愛くるしい身体のラインがたまりません」
「不気味だろ、こいつ」
ヤノくんはあからさまに嫌そうな顔をして舌を出したので、私は笑った。
園内のカフェで休憩をしていると、ヤノくんが思い出したように言った。ヤノくんはメロンソーダを、私はアイスコーヒーを飲んでいる。
「そういや言ってなかったけど、俺、引っ越したんだ」
「そうなんですね。どちらに行かれたんですか?」
ヤノくんのあのアパートは沢山思い出があったから、ちょっと残念だ。
「お前の最寄駅のマンション」
「じゃあ前より近くなったんですね。嬉しいです!それで、どのマンションですか?」
「駅直結のやつ」
「ほんとですか?北口改札から直結している、あの重厚なグレーのマンションですか?」
「そう」
ヤノくんは美味しそうにメロンソーダを飲んでいるが、私はビビっていた。だってそのマンションはお家賃がめちゃくちゃ高いことで有名なのだ。
「いいですね……あそこは駅直結ですから、雨の日や寒い日は特に羨ましいなぁって思いながら見てます」
「じゃあお前も一緒に住むか?」
私はキョトンとしてしまった。今ヤノくんは、何と言ったのだろう?
「一部屋空いてるから、そこに住めばいい。家賃はいらん。掃除だけ頼む」
淡々と言って、メロンソーダを飲み干した。私はだんだん顔が熱くなってくる。
「それは……すごく魅力的な提案ですが、やっぱり一緒に住むというのは……」
「友達同士のルームシェアって普通なんじゃねぇの?」
「そうかもしれませんが……」
多分男女のルームシェアはあまり聞いたことがない。ヤノくんは気にしないのだろうか?
「まぁいいけど。今度部屋を見に来いよ。結構眺めがいい」
「有難うございます!是非行きたいです!引っ越し祝いを持って伺いますね」
「いや、別に何も持ってこなくていい」
「手ぶらというわけにはいきません」
「だめだだめだだめだ!お前はもう俺に何も買ったり渡したりしなくていい!」
珍しくヤノくんがむきになるので、私はそれじゃあ何か、料理を作って持っていきますね、というと、それならいいと言った。
翌週の週末の夜、私はヤノくんからリクエストされたオムライスを作って、ヤノくんのマンションに来た。
こんな高級なマンションに来るのは初めてだ。エントランスのインターフォンから解錠してもらい、エレベーターを上がって部屋に着いた。中に入ると、びっくりするぐらい広い。それに眺望も抜群だった。
リビングのテーブルに持ってきた食材を並べる。
「ヤノくん、飲み物は何がいいですか?私、すぐにそこのスーパーで買ってきますよ。ほかにも必要なものはありますか?」
駅のすぐ前にスーパーがあるから、本当にここは便利だ。鞄からマイバッグを取り出す。
「俺もドロップが切れたから下のコンビニに行く」
「それならスーパーで買った方がお安いので、買ってきますよ」
「そうなのか?じゃあ俺も行く」
ヤノくんとスーパーに行くのは初めてだ。ちょっとワクワクする。
買い物を済ませると、そういえば特売のチラシを貰い損ねたことに気づいた。すぐに取ってくるので、ヤノくんには先に外に出ておいてもらうことにした。
外に出ると、とんでもない事態に陥っていた。あ、あれは……!なんと、ヤノくんが警察官に話しかけられている。あれは所謂、職務質問、"職質"というものではないか?!ヤノくんは見た目は落ち着いてはいるものの、かなり焦っているのがわかる。ヤバい。彼は以前、この世で何が恐ろしいって職質が1番怖い、と言っていた。助けなければ……!!
確かにスーツ姿の男性がレジ袋も持たずにスーパーの前に突っ立っていたら、ちょっと異様だったかもしれない。
「すみません、彼は私の友達なんです。何かありましたでしょうか?」
やっぱりヤノくんはちょっと青い顔をしている。警察官の男性が私をジロリと見た。
「あぁ、君が彼の友人ですか。これからどこに行くの?」
そのお巡りさんの顔を見て私はちょっと驚いた。彼はなんとなく、雰囲気がミーアキャットに似ている。けどめちゃくちゃ鋭い眼光なのだ。怖い。怖すぎる。この前ヤノくんがミーアキャットを不気味と言っていたが、成程これは恐ろしい。口調も高慢で威圧的で、何も悪いことはしていないのに内心焦ってしまう。
「彼のマンションに帰ります」
「マンションはどこ?」
「そちらです」
お巡りさんは私の顔を暫くじっと見たあと、そうですか、ご協力有難うございました、と言って去っていった。
「なんだか怖かったですね。職質なんて初めてされました」
「俺は生きた心地がしなかった……」
ヤノくんは今になって汗だくになっていた。私は苦笑しながら、彼を助けられて本当に良かったと思った。
遊園地、水族館、映画館、ショッピングモール、ダーツバー。それに服や靴を買ってくれたり、美味しいお店に連れて行ってくれる。どこへ行っても何をしても、何を食べても何を見ても楽しかった。
今日も私の希望を聞いてくれ、動物園に来ている。
「あっ!ヤマアラシです!可愛い!私は今日、この子が1番見たかったんです!」
私はハイテンションだが、ヤノくんは恐ろしく無表情のまま檻の中を見ている。
「むしろキモいだろ、こいつ」
ヤノくんは動物に興味がないようだ。まぁ、魚にも興味なかったが。
「このツンツンヘアー、ヤノくんに似てませんか?」
「はぁ〜?似てねぇよ」
彼はいつも通りのスリーピーススーツだが、ここではちょっと浮いている。そりゃあそうだろう。動物園では私服がいいと思うが、ヤノくんはこのあと仕事がある。最近も彼はとても多忙らしく、仕事の合間を縫うようにして会ってくれていた。
ほかにもシロクマやセイウチ、キツネ、ゴリラ、アルパカ、ピューマ、シロテナガザルなんかを見て、最後にミーアキャットを見に行った。
「実は私、動物ではもともと、ミーアキャットが1番好きなんです。この可愛い瞳と愛くるしい身体のラインがたまりません」
「不気味だろ、こいつ」
ヤノくんはあからさまに嫌そうな顔をして舌を出したので、私は笑った。
園内のカフェで休憩をしていると、ヤノくんが思い出したように言った。ヤノくんはメロンソーダを、私はアイスコーヒーを飲んでいる。
「そういや言ってなかったけど、俺、引っ越したんだ」
「そうなんですね。どちらに行かれたんですか?」
ヤノくんのあのアパートは沢山思い出があったから、ちょっと残念だ。
「お前の最寄駅のマンション」
「じゃあ前より近くなったんですね。嬉しいです!それで、どのマンションですか?」
「駅直結のやつ」
「ほんとですか?北口改札から直結している、あの重厚なグレーのマンションですか?」
「そう」
ヤノくんは美味しそうにメロンソーダを飲んでいるが、私はビビっていた。だってそのマンションはお家賃がめちゃくちゃ高いことで有名なのだ。
「いいですね……あそこは駅直結ですから、雨の日や寒い日は特に羨ましいなぁって思いながら見てます」
「じゃあお前も一緒に住むか?」
私はキョトンとしてしまった。今ヤノくんは、何と言ったのだろう?
「一部屋空いてるから、そこに住めばいい。家賃はいらん。掃除だけ頼む」
淡々と言って、メロンソーダを飲み干した。私はだんだん顔が熱くなってくる。
「それは……すごく魅力的な提案ですが、やっぱり一緒に住むというのは……」
「友達同士のルームシェアって普通なんじゃねぇの?」
「そうかもしれませんが……」
多分男女のルームシェアはあまり聞いたことがない。ヤノくんは気にしないのだろうか?
「まぁいいけど。今度部屋を見に来いよ。結構眺めがいい」
「有難うございます!是非行きたいです!引っ越し祝いを持って伺いますね」
「いや、別に何も持ってこなくていい」
「手ぶらというわけにはいきません」
「だめだだめだだめだ!お前はもう俺に何も買ったり渡したりしなくていい!」
珍しくヤノくんがむきになるので、私はそれじゃあ何か、料理を作って持っていきますね、というと、それならいいと言った。
翌週の週末の夜、私はヤノくんからリクエストされたオムライスを作って、ヤノくんのマンションに来た。
こんな高級なマンションに来るのは初めてだ。エントランスのインターフォンから解錠してもらい、エレベーターを上がって部屋に着いた。中に入ると、びっくりするぐらい広い。それに眺望も抜群だった。
リビングのテーブルに持ってきた食材を並べる。
「ヤノくん、飲み物は何がいいですか?私、すぐにそこのスーパーで買ってきますよ。ほかにも必要なものはありますか?」
駅のすぐ前にスーパーがあるから、本当にここは便利だ。鞄からマイバッグを取り出す。
「俺もドロップが切れたから下のコンビニに行く」
「それならスーパーで買った方がお安いので、買ってきますよ」
「そうなのか?じゃあ俺も行く」
ヤノくんとスーパーに行くのは初めてだ。ちょっとワクワクする。
買い物を済ませると、そういえば特売のチラシを貰い損ねたことに気づいた。すぐに取ってくるので、ヤノくんには先に外に出ておいてもらうことにした。
外に出ると、とんでもない事態に陥っていた。あ、あれは……!なんと、ヤノくんが警察官に話しかけられている。あれは所謂、職務質問、"職質"というものではないか?!ヤノくんは見た目は落ち着いてはいるものの、かなり焦っているのがわかる。ヤバい。彼は以前、この世で何が恐ろしいって職質が1番怖い、と言っていた。助けなければ……!!
確かにスーツ姿の男性がレジ袋も持たずにスーパーの前に突っ立っていたら、ちょっと異様だったかもしれない。
「すみません、彼は私の友達なんです。何かありましたでしょうか?」
やっぱりヤノくんはちょっと青い顔をしている。警察官の男性が私をジロリと見た。
「あぁ、君が彼の友人ですか。これからどこに行くの?」
そのお巡りさんの顔を見て私はちょっと驚いた。彼はなんとなく、雰囲気がミーアキャットに似ている。けどめちゃくちゃ鋭い眼光なのだ。怖い。怖すぎる。この前ヤノくんがミーアキャットを不気味と言っていたが、成程これは恐ろしい。口調も高慢で威圧的で、何も悪いことはしていないのに内心焦ってしまう。
「彼のマンションに帰ります」
「マンションはどこ?」
「そちらです」
お巡りさんは私の顔を暫くじっと見たあと、そうですか、ご協力有難うございました、と言って去っていった。
「なんだか怖かったですね。職質なんて初めてされました」
「俺は生きた心地がしなかった……」
ヤノくんは今になって汗だくになっていた。私は苦笑しながら、彼を助けられて本当に良かったと思った。