エピローグ
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数年後。私たちは30代になっていた。ヤノくんが帰ってきてから、今日でちょうど1ヶ月。仕事を終え、買い物袋を持って帰宅すると、彼はげんなりした表情で私を出迎えた。
「……なぁ、もうそろそろ、仕事探しに行ってもいいだろ?」
「ダメです!ヤノくんはこれまで必死に頑張って働いて、そのあと刑務所にも行って、もうほんとに働き詰めだったんですから、もっと休んでください。できれば、10年くらい」
「そんなに休めねぇよ!毎日暇すぎて死ぬ……」
ソファにぐったりと寝そべった彼が可愛くて、私はあははと笑った。
「音楽を聴くのはどうでしょう」
「……音楽は仕事の合間に聴くのがいいんだよ。毎日ずっと聴くとなんかおかしくなる」
「そうですか?映画を見るのは?」
「映画も同じだよ!せめて家事をやらせてくれ」
「ダメです!ヤノくんはほんとに、まだまだ何もしないでのんびりしててくださいっ!」
ヤノくんは暇なのが辛いみたいだけど、私はまだまだ休養して欲しい。だってあの後、彼はとてもショックなことがあり、一時はすごく落ち込んでいた。今はもうすっかり元気になったのだけど。
でもこんなにキツそうなら、やっぱりそろそろ、活動させてあげないとダメかなぁ。
ヤノくんはうつろな目でのろのろとスマホを取りに行くと、私に見せた。
「そーいや、あまりにも暇だったから例の金で運用はじめた。意外に利益が出てる」
「すごいですね!ヤノくん、才能あるんじゃないですか?この道でいったらどうでしょう?」
スマホ画面には0がめちゃくちゃ並んだ金額が表示されていて、トータル利益額の部分は赤色で示されている。それはすでに私の年収の半分くらいの額になっていた。
「……いや、ほんとはこの金、全部お前にやったはずなのに、なんで全く使わず俺に返すんだよ」
「だって、それはヤノくんが頑張って作った大切なお金なのに、私なんかが使えないです」
私は眉を下げて笑った。ヤノくんはとても呆れている。
「……これはお前からの借りを全部返すために渡したものだったんだぞ」
「そんなの、多すぎです。絶対におかしいですよ」
「そんなことねぇだろ。お前は18のとき、俺を半グレから助けるために自分を囮にしたし、媚薬のときは取り返しのつかねぇことになった。俺が出頭する時も、世話になったし」
「そんなの全然、私は気にしてないです。それに元々、私の方がヤノくんのお陰で救われたんですから、ほんとにいいんです」
私が満面の笑みでそう言うと、ヤノくんはまた溜息をついた。
その夜、ヤノくんとベッドに入ると、珍しく彼はすぐに寝なかった。考え事をしているのか、天井の方を見上げている。
「なぁ。もう今さらどうでもいいことだけど」
「なんですか?」
ヤノくんは静かに続けた。
「ずっと前に言っただろ。俺にも背中に傷跡があるって」
「はい」
「それってさ、父親につけられたんだ」
私は言葉が見つからなかった。そんな酷いことって……ヤノくんも何も言わない。ずっと沈黙が流れる。
それでも私は、しばらくすると彼に返した。
「そうだったんですね。私たちって、似たもの同士ですね」
「あぁ」
こういうとき、私は自分なら言ってほしい言葉があったから、次もすぐに続けることが出来た。
「ヤノくん。これから沢山楽しいことをしましょうね。いっぱいいっぱい、素敵な思い出を作りましょう」
ヤノくんは笑った。
「そうだな」
その時私は本当に、自分はこの人生で良かったと思った。あの辛い経験も、全部無駄じゃなかったんだ。だって彼とこうしていま笑い合えたから。本当に本当に良かった。そうこの瞬間に思えて、私は胸がいっぱいになった。
「ところで。そろそろほんとに仕事がしてぇから、動き出してもいいだろ?」
「……はい。そうですね。ごめんなさい。私、ヤノくんの意見も聞かずにこれまで家にしばりつけてしまって」
本当は、彼にずっとここにいて欲しいと思っているから、私はそうしてしまったのだ。でももう彼には自由にしてもらいたい。私のわがままで彼をしばりつけてはいけない。
「実はもう仕事の目星はついてる」
「えっ……そうなんですか?」
「まぁ、詳しいことは決まったら教える」
そう言うとヤノくんは、もそもそとシーツをかぶって寝てしまった。
さ、さすがヤノくん……まさかもう次の仕事の目星をつけているなんて……
私はやっぱり、ちょっぴり残念だったけれど、彼のことを応援したいと思った。だって彼の幸せは私の幸せだからだ。彼には自分のしたいことを、思い切りやってほしい。
それにこうしてまた彼と一緒にいられるだけで、私は本当に幸せなのだ。いつまでもこの気持ちを忘れないようにしよう。そう思って、私も穏やかに眠りについたのだった。
おしまい。
ハッピー・ビート!完結
執筆期間2022.10.23-2022.11.5
管理人 りぃ
「……なぁ、もうそろそろ、仕事探しに行ってもいいだろ?」
「ダメです!ヤノくんはこれまで必死に頑張って働いて、そのあと刑務所にも行って、もうほんとに働き詰めだったんですから、もっと休んでください。できれば、10年くらい」
「そんなに休めねぇよ!毎日暇すぎて死ぬ……」
ソファにぐったりと寝そべった彼が可愛くて、私はあははと笑った。
「音楽を聴くのはどうでしょう」
「……音楽は仕事の合間に聴くのがいいんだよ。毎日ずっと聴くとなんかおかしくなる」
「そうですか?映画を見るのは?」
「映画も同じだよ!せめて家事をやらせてくれ」
「ダメです!ヤノくんはほんとに、まだまだ何もしないでのんびりしててくださいっ!」
ヤノくんは暇なのが辛いみたいだけど、私はまだまだ休養して欲しい。だってあの後、彼はとてもショックなことがあり、一時はすごく落ち込んでいた。今はもうすっかり元気になったのだけど。
でもこんなにキツそうなら、やっぱりそろそろ、活動させてあげないとダメかなぁ。
ヤノくんはうつろな目でのろのろとスマホを取りに行くと、私に見せた。
「そーいや、あまりにも暇だったから例の金で運用はじめた。意外に利益が出てる」
「すごいですね!ヤノくん、才能あるんじゃないですか?この道でいったらどうでしょう?」
スマホ画面には0がめちゃくちゃ並んだ金額が表示されていて、トータル利益額の部分は赤色で示されている。それはすでに私の年収の半分くらいの額になっていた。
「……いや、ほんとはこの金、全部お前にやったはずなのに、なんで全く使わず俺に返すんだよ」
「だって、それはヤノくんが頑張って作った大切なお金なのに、私なんかが使えないです」
私は眉を下げて笑った。ヤノくんはとても呆れている。
「……これはお前からの借りを全部返すために渡したものだったんだぞ」
「そんなの、多すぎです。絶対におかしいですよ」
「そんなことねぇだろ。お前は18のとき、俺を半グレから助けるために自分を囮にしたし、媚薬のときは取り返しのつかねぇことになった。俺が出頭する時も、世話になったし」
「そんなの全然、私は気にしてないです。それに元々、私の方がヤノくんのお陰で救われたんですから、ほんとにいいんです」
私が満面の笑みでそう言うと、ヤノくんはまた溜息をついた。
その夜、ヤノくんとベッドに入ると、珍しく彼はすぐに寝なかった。考え事をしているのか、天井の方を見上げている。
「なぁ。もう今さらどうでもいいことだけど」
「なんですか?」
ヤノくんは静かに続けた。
「ずっと前に言っただろ。俺にも背中に傷跡があるって」
「はい」
「それってさ、父親につけられたんだ」
私は言葉が見つからなかった。そんな酷いことって……ヤノくんも何も言わない。ずっと沈黙が流れる。
それでも私は、しばらくすると彼に返した。
「そうだったんですね。私たちって、似たもの同士ですね」
「あぁ」
こういうとき、私は自分なら言ってほしい言葉があったから、次もすぐに続けることが出来た。
「ヤノくん。これから沢山楽しいことをしましょうね。いっぱいいっぱい、素敵な思い出を作りましょう」
ヤノくんは笑った。
「そうだな」
その時私は本当に、自分はこの人生で良かったと思った。あの辛い経験も、全部無駄じゃなかったんだ。だって彼とこうしていま笑い合えたから。本当に本当に良かった。そうこの瞬間に思えて、私は胸がいっぱいになった。
「ところで。そろそろほんとに仕事がしてぇから、動き出してもいいだろ?」
「……はい。そうですね。ごめんなさい。私、ヤノくんの意見も聞かずにこれまで家にしばりつけてしまって」
本当は、彼にずっとここにいて欲しいと思っているから、私はそうしてしまったのだ。でももう彼には自由にしてもらいたい。私のわがままで彼をしばりつけてはいけない。
「実はもう仕事の目星はついてる」
「えっ……そうなんですか?」
「まぁ、詳しいことは決まったら教える」
そう言うとヤノくんは、もそもそとシーツをかぶって寝てしまった。
さ、さすがヤノくん……まさかもう次の仕事の目星をつけているなんて……
私はやっぱり、ちょっぴり残念だったけれど、彼のことを応援したいと思った。だって彼の幸せは私の幸せだからだ。彼には自分のしたいことを、思い切りやってほしい。
それにこうしてまた彼と一緒にいられるだけで、私は本当に幸せなのだ。いつまでもこの気持ちを忘れないようにしよう。そう思って、私も穏やかに眠りについたのだった。
おしまい。
ハッピー・ビート!完結
執筆期間2022.10.23-2022.11.5
管理人 りぃ