第11話 事件② -口論-
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最寄駅に到着し、交番で被害届を出すために沢山の書類にサインする。今日は最悪の日だ。突然バッグをひったくられ、ヤノくんに激怒され、お巡りさんにはとても酷いことを言われた。
「じゃあ、進展があったら連絡するから」
「大変お世話になり、有難うございました」
交番を出ると黒いハイエースが停まっていて、その前にヤノくんが腕を組んで待っていた。
「……ヤノくん」
「今から俺んちに来い」
鋭い目付きで、低い声のヤノくん。やっぱり怒っているみたいだ。ふと視線を感じ、交番の方を振り返る。お巡りさんが私たちをじっと見ていた。その瞳には猜疑心しかない。
すたすたと歩く彼についていこうとするが、足を挫いているのでなかなか追いつけない。ヤノくんは振り返ると、面倒くさそうに言った。
「ったくしょーがねぇな!」
ヤノくんは腰をかがめておんぶしてやるから乗れ、と言った。
「大丈夫です。ちゃんと歩けますから」
彼はめちゃくちゃイラついている。
「いーから乗れ!!俺は早く帰りたいんだ」
本当に、彼が私に対してこんなにキツい態度を取るのは初めてのことだった。忙しいところに迷惑をかけたから、彼は怒っているんだろうか。鼻の奥がツンとする。
「出来るだけ早く歩くので、先に戻っててください」
「だめだ。今すぐ帰る。早くおぶされよ!」
「……そこまでヤノくんに迷惑かけられません」
「早く乗れっていってんだ!!」
周りの人達がびっくりして私たちを見ている。そりゃあそうだろう。大の大人が夜の道端で口論しているようにしか見えない。
「私重いので、ヤノくんではおぶれないと思います」
「はぁ?!」
「絶対ムリです」
「舐めんなよ!お前くらい大丈夫だ!!」
半ば意地になっていた。ヤノくんとこんな、喧嘩みたいなことになるのは初めてだ。ヤノくんが本気でキレそうなので、最後は私が折れた。
「……わかりました。じゃあ失礼します」
おずおずとヤノくんの背中に乗ったときだった。ぐへっと、奇妙な音が聞こえた。えっ?一体なに?今の音は??すぐに分かった。ヤノくんの口から出た声だ。やっぱり私は、重かったらしい。ヤノくんは顔をひきつらせて、震えながら言った。
「……見た目と体積ってこんなに違うのか……」
ヤノくんの家に着くと、ヤノくんはし、死ぬかと思った……と言ってソファにへたりこんだ。
私はそれを見て、今日これまでの怖かったこと、悲しかったこと、つらかったことがいっぺんに吹き飛んだ。だってヤノくんが面白い。面白すぎる!そしてお腹の底からものすごい笑いがこみあげてきたのだった。
「あはははは!すみません、でも面白すぎて」
ヤノくんは肩で息をしたまま私を睨んだ。
「お前どこに肉ついてんのかわかんねーけど体重落とせ」
「面目ありません」
ひとしきり笑ったあと、私はヤノくんに頭を下げた。
「今日は本当に、すみませんでした。忙しいところ迎えに来てもらって、沢山迷惑かけてしまって」
ヤノくんは俯いている。
「そんなのいーんだよ。つーか、お前が迷惑かけんのはむしろ、俺からしたら好都合だ」
「どういう意味ですか?」
「お前に借りを返せるから」
「……でもヤノくん、私のことめちゃくちゃ怒ってましたよね?」
「違う。怒ってんのはお前に対してじゃねぇ」
え、そうなの?私は目を丸くしてそこからのヤノくんの話を聞いた。ヤノくんが激怒していた相手は、私ではなかった。最近仕事関係で敵対しているグループから、身内が狙われるケースが頻発しているらしい。それで私の件も彼等の仕業である可能性があり、そのことに対して怒り狂っていたのだという。
「お前は悪くねぇ。むしろそいつらの犯行なら俺のせいだ」
ヤノくんは悔しそうにまた視線を落とす。私は心の底からホッとして、本当に良かったと思った。
「私、ヤノくんに嫌われたのかと思ってすごく心配していたので、それを聞いて安心しました。今日は色々なことがありましたが、正直1番悲しかったのはそのことでしたから……」
ヤノくんはばーか、そんなわけねぇだろ、と言ったので、私は涙をこらえながら微笑んだ。
その後、ヤノくんにスマホを借り、スマホやカードの紛失連絡などを済ませ、私は帰宅しようとしていた。
「おい。何帰る準備してんだよ」
「? でももう遅いですし、明日は出勤ですし」
ヤノくんは吐き捨てるように言った。
「お前は犯人が見つかるまでこれから外出禁止!ずっとここに缶詰めだ」
頭の中が真っ白になった。
その日から私は仕事を休み、ヤノくんの家で生活することになった。期限は犯人が見つかるまで。厳密には、その犯人がヤノくんたちと敵対しているグループの一味ではない、と分かるまで。彼らと関係がないのなら、すぐに解放してやれる、とのことだった。
私は空き部屋を使わせてもらうことになったが、そこはカーテン以外何もない。布団は通販で頼むからすぐに届く、と言われ、それまでどうやって寝ようかなぁと考えていたら、ヤノくんがやってきた。
「申し訳ありませんが毛布かシーツか、何か一枚でもいいので貸してもらえませんか?」
ヤノくんは無表情で首を横にふった。
「俺の分しかねぇ」
「そうですか。それなら今夜はリビングのソファで休んでもいいですか?」
「もっといいとこがある」
ヤノくんはニッと笑って私の手を取った。こ、この流れは、ま、まさか……
結局私はヤノくんの部屋のベッドに押し込まれ、またヤノくんと眠ることになってしまった。布団に入ると速攻で寝息を立てた彼に、苦笑するしかない。
なかなか寝付けなくて、天井を見ながら今日一日のことを思い返した。
今日は本当に最悪の日だと思っていた。でもいま思えば、今日は本当に幸運だった。バッグはひったくられたけど命はとられなかったし、偶然お巡りさんに拾ってもらえたし、ヤノくんが迎えに来てくれた。そして今夜は1人で過ごさずに済んだ。あぁ、私ってなんてラッキーなんだろう、と思いながら、とても幸せな気持ちで目を閉じたのだった。
「じゃあ、進展があったら連絡するから」
「大変お世話になり、有難うございました」
交番を出ると黒いハイエースが停まっていて、その前にヤノくんが腕を組んで待っていた。
「……ヤノくん」
「今から俺んちに来い」
鋭い目付きで、低い声のヤノくん。やっぱり怒っているみたいだ。ふと視線を感じ、交番の方を振り返る。お巡りさんが私たちをじっと見ていた。その瞳には猜疑心しかない。
すたすたと歩く彼についていこうとするが、足を挫いているのでなかなか追いつけない。ヤノくんは振り返ると、面倒くさそうに言った。
「ったくしょーがねぇな!」
ヤノくんは腰をかがめておんぶしてやるから乗れ、と言った。
「大丈夫です。ちゃんと歩けますから」
彼はめちゃくちゃイラついている。
「いーから乗れ!!俺は早く帰りたいんだ」
本当に、彼が私に対してこんなにキツい態度を取るのは初めてのことだった。忙しいところに迷惑をかけたから、彼は怒っているんだろうか。鼻の奥がツンとする。
「出来るだけ早く歩くので、先に戻っててください」
「だめだ。今すぐ帰る。早くおぶされよ!」
「……そこまでヤノくんに迷惑かけられません」
「早く乗れっていってんだ!!」
周りの人達がびっくりして私たちを見ている。そりゃあそうだろう。大の大人が夜の道端で口論しているようにしか見えない。
「私重いので、ヤノくんではおぶれないと思います」
「はぁ?!」
「絶対ムリです」
「舐めんなよ!お前くらい大丈夫だ!!」
半ば意地になっていた。ヤノくんとこんな、喧嘩みたいなことになるのは初めてだ。ヤノくんが本気でキレそうなので、最後は私が折れた。
「……わかりました。じゃあ失礼します」
おずおずとヤノくんの背中に乗ったときだった。ぐへっと、奇妙な音が聞こえた。えっ?一体なに?今の音は??すぐに分かった。ヤノくんの口から出た声だ。やっぱり私は、重かったらしい。ヤノくんは顔をひきつらせて、震えながら言った。
「……見た目と体積ってこんなに違うのか……」
ヤノくんの家に着くと、ヤノくんはし、死ぬかと思った……と言ってソファにへたりこんだ。
私はそれを見て、今日これまでの怖かったこと、悲しかったこと、つらかったことがいっぺんに吹き飛んだ。だってヤノくんが面白い。面白すぎる!そしてお腹の底からものすごい笑いがこみあげてきたのだった。
「あはははは!すみません、でも面白すぎて」
ヤノくんは肩で息をしたまま私を睨んだ。
「お前どこに肉ついてんのかわかんねーけど体重落とせ」
「面目ありません」
ひとしきり笑ったあと、私はヤノくんに頭を下げた。
「今日は本当に、すみませんでした。忙しいところ迎えに来てもらって、沢山迷惑かけてしまって」
ヤノくんは俯いている。
「そんなのいーんだよ。つーか、お前が迷惑かけんのはむしろ、俺からしたら好都合だ」
「どういう意味ですか?」
「お前に借りを返せるから」
「……でもヤノくん、私のことめちゃくちゃ怒ってましたよね?」
「違う。怒ってんのはお前に対してじゃねぇ」
え、そうなの?私は目を丸くしてそこからのヤノくんの話を聞いた。ヤノくんが激怒していた相手は、私ではなかった。最近仕事関係で敵対しているグループから、身内が狙われるケースが頻発しているらしい。それで私の件も彼等の仕業である可能性があり、そのことに対して怒り狂っていたのだという。
「お前は悪くねぇ。むしろそいつらの犯行なら俺のせいだ」
ヤノくんは悔しそうにまた視線を落とす。私は心の底からホッとして、本当に良かったと思った。
「私、ヤノくんに嫌われたのかと思ってすごく心配していたので、それを聞いて安心しました。今日は色々なことがありましたが、正直1番悲しかったのはそのことでしたから……」
ヤノくんはばーか、そんなわけねぇだろ、と言ったので、私は涙をこらえながら微笑んだ。
その後、ヤノくんにスマホを借り、スマホやカードの紛失連絡などを済ませ、私は帰宅しようとしていた。
「おい。何帰る準備してんだよ」
「? でももう遅いですし、明日は出勤ですし」
ヤノくんは吐き捨てるように言った。
「お前は犯人が見つかるまでこれから外出禁止!ずっとここに缶詰めだ」
頭の中が真っ白になった。
その日から私は仕事を休み、ヤノくんの家で生活することになった。期限は犯人が見つかるまで。厳密には、その犯人がヤノくんたちと敵対しているグループの一味ではない、と分かるまで。彼らと関係がないのなら、すぐに解放してやれる、とのことだった。
私は空き部屋を使わせてもらうことになったが、そこはカーテン以外何もない。布団は通販で頼むからすぐに届く、と言われ、それまでどうやって寝ようかなぁと考えていたら、ヤノくんがやってきた。
「申し訳ありませんが毛布かシーツか、何か一枚でもいいので貸してもらえませんか?」
ヤノくんは無表情で首を横にふった。
「俺の分しかねぇ」
「そうですか。それなら今夜はリビングのソファで休んでもいいですか?」
「もっといいとこがある」
ヤノくんはニッと笑って私の手を取った。こ、この流れは、ま、まさか……
結局私はヤノくんの部屋のベッドに押し込まれ、またヤノくんと眠ることになってしまった。布団に入ると速攻で寝息を立てた彼に、苦笑するしかない。
なかなか寝付けなくて、天井を見ながら今日一日のことを思い返した。
今日は本当に最悪の日だと思っていた。でもいま思えば、今日は本当に幸運だった。バッグはひったくられたけど命はとられなかったし、偶然お巡りさんに拾ってもらえたし、ヤノくんが迎えに来てくれた。そして今夜は1人で過ごさずに済んだ。あぁ、私ってなんてラッキーなんだろう、と思いながら、とても幸せな気持ちで目を閉じたのだった。