半間修二にとってこの世界は酷く退屈で、生まれた時から何一つ面白い事はなかった。どうして他の奴等は平気で生きていられるんだろう？

　時期が来たら学校へ行って、将来何の役にも立たない授業を受ける。協調性などという、各々の個性を抹殺するような教育を受ける。あれは一種の洗脳だ。そうやってブレインコントロールされた子供達はまた時期が来たら今度は社会に出て、死ぬほど退屈な仕事に邁進するのだ。

　半間にとってそんな人生は真っ平御免だった。自分はもっと、"色のある"人生を送りたい。子供の頃に見たサーカスのような、心からワクワク出来るカラフルな世界で生きたい。けれども半間もそれを最初から手に入れられた訳ではない。

　最初は親の財布から金を盗み、店から品物を盗った。ほんの少しのスリル。全然足らない。次は街で不良と呼ばれるアホ共を相手に、喧嘩に明け暮れてみる。これはまぁまぁ。けどまだ足りない。今度はその不良達を自分が暴力と恐怖で支配して、抗争と乱闘の日々。それで漸くたまにはゾクゾク出来るようになったけれど、やはりまだ足りない。

　この世界には"色"がない。その事実は半間を絶望させ続けた。自分は間違いなく、'普通'じゃ満たされないタイプの人間だ。一般的、世間的な成功や賞賛は、何の意味もない。そんなものはまるで価値がない。自分が欲しいのは、心から高揚するスリルだ。この退屈な世界をぶち壊すような、刺激的で破壊的な何かが欲しい。

　ではいよいよ殺人か？　抗争相手の身内でも殺して、指名手配犯にでもなってやろうか？　自分にはとっくの昔に家族などというものはない。それならば躊躇する必要は無い筈だ。それよりもこの衝動を満たしたい。このグレー色の世界がカラフルなサーカスに変わるのを、この目で確かめてみたいのだ。