影に咲く者
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ルシアは、それ以来、自分の中で小さな変化が生まれ始めていることを感じていた。
休憩室での雑談は単なる冗談だったはずなのに、心のどこかに妙な違和感が残っていた。
それまで”尊敬”としか思っていなかったウェスカーの言葉や行動が、以前よりもはっきりと意識に残るようになった。
最初は気のせいだと思っていた。
──けれど、気づけば彼の指示や視線が、以前よりも強く心に響くようになっていた。
訓練中、彼の冷静な指導を受けながら、なぜか緊張する自分がいる。
ブリーフィングで彼の声を聞くたび、その言葉が無意識に心の奥へと刻み込まれていく。
これまでと何も変わらないはずなのに、妙に意識してしまう。
例えば、チーム訓練の一環で、ルシアがウェスカーと共に戦術シミュレーションを行った時。
「君の動きは無駄がない。だが、もう少し大胆に攻めるべきだな」
「……はい」
以前なら、彼の言葉を素直に受け止めていたはずなのに、今はそれだけでは済まない。
彼の鋭い青い瞳が自分を見つめるたび、どこかざわめくような感覚が生まれる。
──これは何なのだろう?
彼は自分の上司であり、指導者であり、S.T.A.R.S.の隊長だ。
それ以上の何かを意識するなんて、おかしい。
けれど、どうしてか彼の言葉や仕草が、以前よりもずっと心に残る。
「ルシア、次のミッションではお前が先行して偵察を担当しろ」
そう言われただけで、なぜか胸の奥が妙に熱くなる。
“これは、単なる尊敬なのか?”
そう自問しても、答えは出なかった。
数日後、ルシアは訓練を終え、装備を片付けていた。
ふと視線を上げると、バリーがこちらを見ていた。
「……どうかしました?」
「いや……」
バリーは言葉を濁しながら、軽く頭を掻いた。
「お前さん、最近ちょっと様子が違うなと思ってな」
「え?」
「何か考え込んでることでもあるのか?」
ルシアは一瞬、言葉を失った。
バリーはいつも通りに接してくれている。
だが、その視線は、まるで”何かを見抜いている”かのようだった。
「……いえ、特に何も」
「そうか?」
バリーは腕を組み、じっとルシアを見つめた。
「いや、俺の気のせいかもしれんが……お前さん、最近ウェスカーを気にしてるように見えるんだよな」
ルシアの心臓が、一瞬跳ねた。
「そ、そんなこと……」
「まあ、隊長として尊敬してるのは分かるがな」
バリーは何気なく言いながら、ルシアの表情を探るようにしていた。
ルシアは視線を落とし、ぎゅっと拳を握る。
「……それだけです」
「……そっか」
バリーはそれ以上は何も言わなかった。
だが、その目はどこか心配そうだった。
ルシア自身、なぜこんなに動揺しているのか分からなかった。
“何でもないこと”のはずなのに。
けれど、“何でもないこと”であれば、こんなに気にするはずがない。
ウェスカーの言葉が、指示が、視線が、心の奥に残る。
それは、“尊敬”だけで説明できるものなのか?
──いや、違う。
ルシアは、それに気づいてしまった。
自分は、ウェスカーに”惹かれている”のかもしれない。
その可能性を否定しようとすればするほど、心のざわめきは大きくなっていく。
ウェスカーの言葉を思い出しながら、ルシアはそっと胸に手を当てた。
──これ以上、この感情に気づいてはいけない。
そう思いながらも、意識すればするほど、彼の存在は頭から離れなくなっていた。