影に咲く者
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S.T.A.R.S.に配属されて半年が経とうとしていた。
ブラヴォーチームでの訓練と実戦を重ね、ルシア・グレイは順調にその実力を示していた。
彼女は戦闘能力、判断力、捜査技術のすべてにおいて優れており、上層部からの評価も高かった。
エンリコ・マリーニ隊長の指導のもと、実戦的な捜査経験も積み、単独任務にも対応できるだけの技量を身につけていた。
しかし、ルシア自身はどこか物足りなさを感じていた。
──”ここでの自分は、十分に力を発揮できているのだろうか?”
チームワークは悪くない。
S.T.A.R.S.の仲間たちは優しく、時に厳しく接してくれる。
だが、それでも彼女の心の奥底には、“何か”が足りない感覚があった。
それを明確に意識することはなかったが、それは確かに存在していた。
そんなある日、エンリコから呼び出しを受けた。
「ルシア、お前はアルファチームに異動となる」
突然の通達だった。
「……アルファに?」
ルシアは思わず聞き返す。
「そうだ。お前の能力を考えれば、このままブラヴォーに置いておくのは惜しい。アルファでは、より高いレベルでの実戦経験を積むことができる」
エンリコは腕を組みながら、じっとルシアを見つめていた。
「お前はすでに十分な能力を証明した。実戦での判断力、状況適応能力、単独行動の適性、どれも申し分ない」
「……でも、そんな急に?」
「正確には、お前の評価は数ヶ月前から上がっていた。ウェスカー隊長の意向もあって、正式な異動が決まった」
──ウェスカー隊長の意向。
その言葉に、ルシアの胸が微かにざわめいた。
「アルファチームに行けば、ウェスカー隊長のもとで直接指導を受けることになる。彼の戦術眼と指揮能力は、お前も知っているだろう」
「……はい」
「これまで以上に厳しい環境になるが、お前なら問題ないはずだ」
ルシアは一度深く息を吸い、そして静かに頷いた。
「分かりました。異動、受け入れます」
エンリコは満足そうに頷いた。
「よし、明日からアルファチームでの訓練に参加しろ。すぐに馴染めるはずだ」
***
異動の知らせは、すぐにアルファチームの隊員たちにも伝えられた。
休憩室でバリー・バートンが、ルシアを見つめながら苦笑する。
「お前がアルファに来るとはな……」
「驚きました?」
「まあな。でも、お前ならやれるさ」
そう言って、バリーはコーヒーカップを持ち上げた。
「アルファに来たからには、よりハードな任務になるぞ。大丈夫か?」
「もちろんです」
ルシアは真っ直ぐにバリーを見つめた。
「……そっか」
バリーは小さく頷いた後、ふと遠くを見るように目を細める。
「……まあ、アルファに来るってことは、隊長の下につくってことだよな」
その言葉に、ルシアは一瞬戸惑った。
「ええ……そうなりますね」
「……ウェスカーのこと、どう思ってる?」
唐突な質問だった。
「どう……って、隊長として尊敬しています」
バリーはしばらくルシアを見つめ、ため息をついた。
「……ああ、そうか」
彼の言葉には、何か含みがあった。
「まあ、これから色々学ぶこともあるだろう。……でも、何かあったら俺に言えよ」
「はい?」
「いいか、ルシア。アルファに来たってことは、お前は今まで以上に色んなものを見ることになる。……そういうことだ」
バリーはそれ以上何も言わなかったが、その眼差しはどこか慎重だった。
ルシアは、何かを考えるようにバリーの横顔を見つめたが、結局何も言わずにコーヒーを飲み干した。
彼が何を心配しているのか、今のルシアにはまだ分からなかった。
それでも、アルファチームとして新たな一歩を踏み出すことに、迷いはなかった。