影に咲く者
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S.T.A.R.S.に正式に配属されて数日が経った。
ルシアは訓練や日々の業務を通して、少しずつこの環境に馴染もうとしていた。
警察官としての基本動作は問題なくこなせるし、ブラヴォーチームのメンバーも親切に接してくれる。
けれど、ルシアはまだ完全に「仲間」になったとは思えなかった。
どこか、自分だけが違う場所にいるような気がする。
それは、昔からずっと感じていたことと同じだった。
彼女は「普通の人間」として育てられたけれど、結局、どこに行っても “普通の人間” になりきれないのだろうか。
それでも、S.T.A.R.S.のメンバーは温かく迎え入れてくれた。
彼らの何気ないやり取りを見ていると、“本当の家族”のようにも思えて、心のどこかで少しだけ羨ましくなる。
新しい仲間たち
「お前、新入りのルシアだな?」
そんな風に話しかけてきたのは、クリス・レッドフィールドだった。
彼は短く刈り込んだ黒髪に鋭い目つき、精悍な顔立ちの男で、アルファチームの一員だ。
その名は既に知っていた。S.T.A.R.S.の中でも特に優秀な射撃の腕を持つ隊員で、強い正義感と行動力のある男。
「ええ、そうです。初めまして、クリスさん」
「さん付けはいらねえよ。こっちはチームなんだから、もっと気楽にいこうぜ」
クリスは人懐っこく笑い、ルシアの肩を軽く叩いた。
「バリーからは聞いてる。優秀な奴が入ったってな。射撃の腕もいいらしいな」
「そんな……まだまだです」
ルシアは少し戸惑いながらも、謙虚に答える。
「いや、バリーが褒めるってことは、それなりに筋がいいってことだろ。こっちのチームにも、そういう奴が増えるのは大歓迎だ」
クリスは気さくな笑顔を向け、ジル・バレンタインへと目配せした。
「ジル、お前も挨拶しとけよ」
短めの茶髪をポニーテールにした女性――ジル・バレンタイン。
彼女はアルファチームの中でも特に優れた捜査能力と戦闘技術を持つ隊員だった。
ルシアはジルを見て、一瞬だけ圧倒された。
落ち着き払った雰囲気と、その鋭い視線。
彼女が「一流の戦士」であることは、一目見ただけで分かった。
「新人さん、まぁ、よろしくね」
ジルはそう言って、軽く手を差し出す。
ルシアは少し緊張しながらも、その手をしっかりと握った。
「よろしくお願いします」
「硬いわね。そんなに気を張らなくていいのに」
ジルは小さく笑いながら、腕を組んだ。
「新入りってのは、どこでも最初は肩に力が入るものよ。でも、ここの奴らはバカばっかりだから、すぐに馴染めるわ」
「おい、バカとはなんだよ」
「まぁ、間違っちゃいないけどな」
クリスが冗談めかして笑い、ジルもわずかに口角を上げる。
ルシアはそのやり取りを見て、少しだけ肩の力を抜いた。
こうやって、彼らは”本物のチーム”を作っているのだろう。
バリーの温かさ
そんな中、ルシアのことを特に気にかけてくれるのは、やはりバリーだった。
「お前さん、ちゃんと飯は食ってるか?」
「え? あ……はい、大丈夫です」
「本当か? どうもお前さんは遠慮がちに見えるんだよなぁ」
バリーはルシアの肩を軽く叩き、気さくに笑う。
「娘みたいなもんだからな。つい心配しちまうんだよ」
「……ありがとうございます」
“娘みたいなもの”――
そう言われると、なんだか不思議な気持ちになった。
ルシアは家族といても、“本当に家族の一員”であるという感覚を持てなかった。
でも、バリーは心の底からルシアを気にかけてくれているように見えた。
この温かさに、彼女は少しずつ心を許していった。
**
その日の夕刻、ルシアは個別訓練のために訓練室へと呼ばれた。
そこで彼女を待っていたのは、S.T.A.R.S.の隊長、アルバート・ウェスカーだった。
「ルシア・グレイか。君の訓練データは見ている」
ウェスカーは無駄のない動きで書類を机に置くと、鋭い青い瞳でルシアを見つめた。
「実力を見せてもらおうか」
「はい」
ルシアは拳銃を構え、訓練用の標的に向かって撃ち始めた。
──パンッ! パンッ! パンッ!
撃った弾はすべて的の中心に命中。
それを見たウェスカーは、微かに笑った。
「冷静で的確だな。しかし……」
次の瞬間、彼はルシアの背後に回り、低い声で囁いた。
「まだ、君は本当の力を出し切っていないようだ」
ルシアは一瞬、体をこわばらせた。
この人は、私のことを見抜いている……?
「遠慮はいらない。ここでは君の能力を測るのが目的だ。君が何を隠しているか……私には分かる」
ウェスカーの言葉が、ルシアの心に不思議な響きを残す。
彼の目は冷静で、すべてを計算しているような印象を受ける。
しかし、その言葉には、どこか”肯定”の色があった。
「次の射撃では、一切の迷いを捨てろ。自分の本来の力を見せてみろ」
ルシアは唇を噛みしめながら、再び銃を構えた。
迷いを捨てる。
“普通でいなければならない”という考えを、一瞬だけ忘れる。
彼女は息を整え、トリガーを引いた。
──パンッ! パンッ! パンッ!
今度の弾丸は、先ほどよりもさらに正確に、中心に吸い込まれるように命中した。
ウェスカーは満足げに頷いた。
「いいだろう。君は、まだ伸びる」
彼の声が、妙に心に残った。
──この人は、私が「普通ではない」ことを知っているのかもしれない。
でも、それを”特別なこと”だと認めてくれるような気がした。
ルシアは心の奥で、ほんの少しだけ、彼に惹かれ始めていた。