影に咲く者
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ウェスカーは静かにモニターを見つめていた。
暗闇の中、青白い光だけが彼のサングラスのレンズに反射している。
目の前のスクリーンには、白い部屋の中にぽつんと座る少女の姿が映し出されていた。
──ルシア・グレイ。
いや、まだ”ルシア”という名ではなかった頃の彼女。
“被験体L-04”
それが、彼女に与えられた唯一の識別番号だった。
彼女は幼かった。おそらく6歳か7歳。
だが、その瞳に浮かぶのは子供特有の無邪気さではなかった。
怯えているわけでもなく、悲しげなわけでもない。
彼女はただ静かに、“そこにいること”を当たり前のように受け入れていた。
「適応者としての兆候、明確に確認」
研究員の報告が、記録データと共に淡々と流れていく。
──始祖ウイルスへの完全適応。
通常、このウイルスは肉体に劇的な変異をもたらし、適応できる個体は極めて限られる。
ほとんどが死ぬか、制御不能な怪物へと変わる。
しかし、この少女は違った。
“完全適応”
それが彼女の評価だった。
並外れた身体能力、驚異的な回復力、環境適応力の高さ。
だが、ウェスカーが最も興味を持ったのは、そこではなかった。
“自分が異常であることを理解していない”
それが、彼女の最大の特徴だった。
他の適応者は、能力の発現と共に恐怖や戸惑いを見せることが多い。
しかし、この少女は違った。
まるで、それが”普通”であるかのように振る舞っている。
“それ以外の生き方を知らない”かのように。
ウェスカーはモニター越しに彼女の姿を見つめながら、薄く口角を上げた。
──彼女は、使える。
研究員たちは彼女のデータを収集し続けたが、それは”彼女を研究対象とするため”だった。
“兵器として管理する”ことが前提の研究。
それが、この研究施設の本質だった。
しかし、ウェスカーは別の視点で彼女を見ていた。
彼女はただの”実験体”ではない。
彼女は”進化の可能性”そのものだ。
そして、その進化を管理できるのは、組織ではない。
──”この俺だ”
この少女の未来は、アンブレラの手の中にあってはならない。
だからこそ、ウェスカーは決断した。
──彼女を”自由にする”。
施設で発生した”事故”は、偶然ではない。
“被験体の暴走”と記録されたその事件は、彼が仕組んだものだった。
一部の研究データを抹消し、監視システムを一時的に混乱させることで、“彼女が死んだ”という報告を作り上げた。
だが、彼女は死んでいない。
ウェスカーが密かに彼女を施設の外へと逃がしたのだ。
彼女が”適応者としての素質”を持つならば、生き延びるだろう。
そして、彼が導かずとも、いずれ”自然と彼の元へ戻る”ように仕向けた。
彼女の居場所を決める里親選びから、学習環境まで、すべてに”影”を落としながら。
彼女がS.T.A.R.S.へ興味を持つように仕向けるのも、それほど難しいことではなかった。
“環境を整え、適切な選択肢を提示すれば、人間はそれを自分の意思で選んだと思い込む”
それは、彼が長年培ってきた”管理”の手法だ。
そして今──
彼女は”計画通りに”ここへ来た。
S.T.A.R.S.の隊員として、“普通の人間”に交じりながら、しかし決して馴染みきることはなく。
──”自分が特別である”という意識を、自ら育て始めている。
ウェスカーは椅子の背もたれに身を預け、薄く微笑む。
彼女が、自ら”違い”を自覚するのを待った。
いずれ彼女は気づく。
自分が、他の人間とは違うということを。
そして、その違いを”受け入れた”とき──
彼女は、完全に”彼のもの”になる。
彼の言葉を疑わず、彼の存在を唯一のものとして認めるようになる。
それこそが、彼の望んだ”進化の形”だった。
ウェスカーはモニターを消し、立ち上がった。
部屋の奥には、現在のルシアが静かに待っている。
以前の彼女とは違う、成長した彼女。
だが、まだ”完成”には至っていない。
彼女の運命は、最初から彼の手の中にあった。
そして、彼女がそれを認識する日は、すぐそこまで来ている。
──すべては、計画通りに。
ウェスカーは静かに微笑み、ルシアを見つめた。
“導かれること”が心地よいと、彼女が認める日まで。
“完全に彼のもの”になる、その瞬間まで。
“運命の檻”の鍵は、彼の手の中にあるのだから。
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