影に咲く者
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洋館の奥深く、腐った木の匂いが漂う地下施設の通路を進む。
冷たい空気が肌を撫で、湿った床がわずかにきしむ音が響く。
ルシアは、今まで感じたことのない種類の緊張を抱えながら、前を歩くウェスカーを見つめていた。
──”君の孤独には理由がある”
彼のその言葉が、彼女の中で大きな渦を巻いていた。
「お前は……普通の人間ではない」
ウェスカーが静かに言った。
彼の言葉はまるで、最初から”決まっていた事実”を告げるかのように揺るぎなく、確信に満ちていた。
ルシアの喉がひくりと動いた。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
ウェスカーは歩みを止め、ゆっくりと振り返る。
「君は、普通の人間として生まれたわけではない」
「っ……」
ルシアは、心臓が高鳴るのを感じた。
彼の言葉は、あまりにも唐突で、あまりにも決定的すぎる。
「私は……普通の家庭で育ちました。普通の生活を……」
「“育った”だけだろう?」
ウェスカーの冷静な声が、ルシアの言葉を遮る。
「……君は、何者なのかを知らないまま、育てられた。“普通の家庭の一員として”な」
ルシアは、思わず拳を握った。
彼の言うことが、“間違いではない”ことを、心の奥で感じていた。
──普通の人間として、育てられた。
しかし、それが”本当に普通であること”と同義だったのかは分からない。
「……どういうことなんですか? 私の過去に、何があるんです?」
ウェスカーは、微かに笑った。
「お前は最初から、“他の人間とは違っていた”のだよ」
その言葉の意味を噛み砕くよりも先に、ウェスカーはゆっくりと歩き出した。
「ついてこい」
ルシアは彼を追う。
足音だけが響く通路の先、錆びた鉄の扉が見えた。
ウェスカーはその扉の前で立ち止まり、振り返る。
「ここに、お前の”真実”がある」
ルシアは、一瞬ためらった。
だが、もう後戻りはできない。
彼女は意を決し、扉を押し開けた。
中は、実験室のような空間だった。
壁には古びたモニターが並び、埃まみれの書類が無造作に散らばっている。
そして、室内の一角には、“彼女の名前”が記されたファイルが置かれていた。
ルシアは、ゆっくりとそのファイルを手に取る。
表紙には、こう書かれていた。
“適応者プロジェクト 被験体L-04”
「……これは?」
ウェスカーが、淡々と答えた。
「お前の記録だ」
ルシアの指先が、わずかに震えた。
ページをめくると、そこには幼い頃の彼女の写真が貼られていた。
病院のような施設のベッドに座る幼い自分。
腕に点滴が繋がれ、無表情のままカメラを見つめている。
「これは……」
「君は、“実験のために生まれた存在”だ」
ウェスカーの言葉が、まるで刃のようにルシアの胸に突き刺さる。
「……っ」
「君の能力は、決して偶然ではない」
ウェスカーは続ける。
「君は、とある実験の“適応者”として選ばれた。幼い頃に、特殊な実験による処置を施された。その結果、通常の人間では得られない力を持つに至った」
ルシアは、ファイルに記された内容を読みながら、震える手でそれを握りしめる。
“適応能力試験──被験体L-04は、異常な回復力と優れた反射能力を示す”
“事故により他の被験体は死亡。L-04のみ生存”
“事故後、研究は中止され、被験体L-04は処分される予定だったが……”
そこから先の記録は、破損していた。
ルシアは、頭が真っ白になるのを感じた。
──事故。
幼い頃、自分は両親を亡くした孤児として”普通の家庭”に引き取られたと思っていた。
でも、それはこの”事故を生き延びたから”だった?
自分だけが、生き残った?
「なぜ……」
震える声が漏れた。
「なぜ、私は……生き延びたんですか?」
ウェスカーは、一歩踏み出す。
「お前は”優れた適応者”だったからだ」
彼の声は、揺るがなかった。
「お前は、最初から”人間として生まれたわけではない”」
「……っ!!」
その言葉の重さに、ルシアは体が固まるのを感じた。
“私は最初から、他の人とは違っていたのか”
幼い頃に感じていた違和感。
“普通でいなければならない”と自分に言い聞かせてきた理由。
そのすべてが、“この真実”に繋がっていたのか?
ルシアは、崩れそうになる膝を必死に支えた。
彼女の中で、“世界が変わる音”がした。
ウェスカーは、ゆっくりと彼女に手を差し伸べる。
「受け入れろ、ルシア」
その手を取るべきなのか、それとも──
ルシアの決断の時が迫っていた。