影に咲く者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
館の静寂が、まるで深い霧のように二人を包んでいた。
ルシアは、目の前を歩くウェスカーの背中を見つめながら、心の奥で小さな疑問が大きく膨れ上がるのを感じていた。
──”私は、本当に普通の人間なのか?”
この問いが頭から離れない。
それは、ウェスカーの言葉が次々と彼女の中に”疑問の種”を植え付けたからだった。
そして今、その種は確信へと変わり始めている。
自分の動きが異常なほど素早いこと。
敵の動きを無意識に見切れること。
常人ならありえない反応速度で回避し、冷静に仕留められること。
──”普通ではない”と、分かってしまった。
しかし、それをどうしても認めたくなかった。
認めてしまえば、自分がずっと”普通”のふりをしてきたことが無意味になってしまう。
それだけではない。
“本当に普通でないのなら、私は一体……何なのか?”
ウェスカーは、そんな彼女の葛藤をすべて見透かしているようだった。
不意に、彼が足を止めた。
「……ルシア」
その低い声に、ルシアの心臓が大きく跳ねる。
彼は振り返り、じっと彼女を見つめた。
「君の”孤独”には理由がある」
「……え?」
ルシアは思わず息をのんだ。
何を……言っている?
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
ウェスカーの声は落ち着いていた。
しかし、彼の表情には、どこか試すような色が浮かんでいた。
「君はこれまで、どこか”違和感”を抱えて生きてきたはずだ」
ルシアの喉がひくりと動いた。
違和感──そう、それは確かにあった。
どれだけ”普通”を装っても、心のどこかで自分は他の人間とは違うのではないかと感じていた。
家族の中で、友人の中で、S.T.A.R.S.に入ってからも。
──”本当に、私はこの世界の一部なのか?”
「なぜ、君は他人と違うと感じる?」
「……」
「なぜ、君は”普通でいよう”とし続けた?」
ウェスカーの言葉が、まるで針のように彼女の心を突き刺していく。
ルシアは、両手を握りしめた。
「……それは……」
言葉が出ない。
「……私は、ただ……」
ウェスカーは一歩、彼女に近づいた。
「“普通”でいることに、異常なほど固執していたのはなぜだ?」
「っ……」
「それは……“普通でない”ことを、君自身が知っていたからではないのか?」
ルシアは、息を止めた。
「……っ」
「そして、君の孤独には理由がある」
彼は冷静な声音で続けた。
「君の能力を知る者は、君を”本当の意味で普通の人間として扱うことができなかった”。
だからこそ、どこにいても”違和感”を感じたはずだ」
「……」
ウェスカーの言葉は、あまりにも的確だった。
まるで、自分の生きてきた道をずっと見ていたかのように。
「隊長は…あなたは……何を知っているんですか?」
ルシアは、絞り出すように問いかけた。
「私のことを……何を知っているんです?」
ウェスカーは、一瞬だけ笑った。
それは、“ついにこの時が来た”とでも言いたげな表情だった。
「さて……どうかな?」
その言葉の裏には、“私は知っている”という確信が滲んでいた。
ルシアは拳を強く握りしめる。
──”私の孤独には理由がある”
彼の言葉の意味を、知りたいと思った。
いや──知る必要があった。
なぜなら、それこそが”自分自身の真実”に繋がっているから。
だが、ルシアはこの時まだ知らなかった。
その真実が、彼女のすべてを変えてしまうことになることを。