影に咲く者
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洋館の奥へと続く薄暗い廊下を進む。
古びた壁には剥がれかけた絵画がかかり、湿気のこもった空気が鼻を突いた。
ルシアは銃を構えながら慎重に歩を進めた。
この館には、何かが”いる”。
その確信が、背中をじわりと冷やしていた。
隣を歩くウェスカーは、相変わらず冷静な表情を崩さない。
彼の足取りには一切の迷いがなく、まるでこの館のすべてを把握しているかのようだった。
そんな彼の横顔を盗み見ながら、ルシアは今も心に残る言葉を思い返していた。
「君は……本当に普通の人間なのか?」
──あの問いかけが、何を意味するのか。
彼は何を知っているのか。
そして、私は……何を知らないのか。
思考を巡らせながら歩いていたその時、不意に耳をつんざくような異音が響いた。
「!!」
ガラスの割れる音とともに、黒い影が飛び込んでくる。
“それ”は人間の形をしていたが、顔は半ば崩れ、腐った肉が骨から剥がれ落ちていた。
目が合った瞬間、ルシアの体は無意識に動いた。
瞬時に体をひねり、紙一重で敵の爪を回避する。
だが、それだけではない。
彼女は無意識のうちに”次の攻撃がどこから来るのか”を察知していた。
視界の隅に動く影──別の敵が襲いかかってくる。
ルシアは驚くほど自然な動作で後方へ跳び、間髪入れずにトリガーを引いた。
──パンッ! パンッ!
連続する銃声。
敵の額に正確に弾丸が撃ち込まれ、崩れ落ちる。
だが、それでも彼女の体は警戒を解いていなかった。
さらに二体目の敵が襲いかかってくる。
その動きを、ルシアはまるで”スローモーション”のように認識していた。
通常の人間では、間に合わないはずのタイミング。
だが、ルシアは反射的に身を屈め、銃を持つ手とは逆の腕を素早く振るう。
「っ……!」
瞬間的に繰り出した肘打ちが、敵の頸部を直撃した。
──バキッ
異様な音とともに、敵の首が不自然に折れる。
そのままルシアは銃口を押し付け、至近距離で発砲した。
──ドンッ!
血飛沫が飛び散り、最後の敵が動かなくなる。
静寂。
ルシアは、息を切らしながら銃を下ろした。
今の戦闘──何か、おかしかった。
普通の人間なら、こんな動きはできるはずがない。
だが、ルシアにとっては、それが”ごく当たり前”の動作のように感じられた。
──いや、それ以上に。
体が動いたというよりも、“敵の動きを見切っていた”感覚。
まるで、相手の行動が予測できるかのように。
「やはり、な」
不意に、ウェスカーの低い声が響いた。
彼はほんの少しだけ口角を上げ、まるで期待通りの結果を見せられたかのような表情を浮かべていた。
「……ウェスカー隊長?」
「見事な動きだった。だが……」
彼はわずかに顎を上げ、ルシアを見下ろした。
「それが、“君の本来の力”だ」
その言葉に、ルシアの心臓が跳ねる。
「……何を言っているんですか」
声がわずかに震えるのを、自分で抑えられなかった。
「私はただ……戦い慣れていただけで……」
「いや、違う」
ウェスカーはゆっくりと歩み寄り、すぐ目の前で立ち止まった。
「普通の兵士に、今のような動きができるか?」
「……」
「瞬時に敵の動きを見切り、致命的な一撃を放つ。“訓練”だけで身につく動きではない」
ルシアは強く唇を噛んだ。
確かに、自分でも”おかしい”とは思っていた。
訓練を積んだ隊員ならば、ある程度の戦闘技術は持っている。
だが、今の戦闘での自分の反応は、“人間離れしていた”としか言いようがなかった。
それでも、それを認めたくなかった。
「……私に、特別なことはありません」
「本当にそう思うか?」
ウェスカーの青い瞳が、じっとルシアを見つめる。
彼の視線は、“探る”というよりも、“確信している”ようだった。
彼はすでに”答えを知っている”。
それが、何よりも恐ろしかった。
「……行きましょう」
ルシアは強引に視線を逸らし、前へ進もうとする。
だが、心の奥には確かな”疑問”が芽生えていた。
──私は、他の隊員と違うのでは?
自分が持っている”力”は、本当に”普通の人間”のものなのか?
その問いに答えを出せないまま、ルシアは再び銃を握り直し、ウェスカーの後に続いた。
彼女はまだ知らなかった。
この疑問こそが、彼女自身の”真実”へとつながる道標になることを。