影に咲く者
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薄暗い廊下に足音が響く。洋館の奥へと進むたびに、ルシアの胸の奥には、ウェスカーの言葉がこびりついて離れなかった。
「ルシア、君は……本当に“普通の人間”なのか?」
冷静な口調だったが、その言葉には明らかな意図があった。まるで、彼はすでに何かを知っているかのように。
──彼は、私を試している?
そんな考えが頭をよぎる。
だが、それを深く考える暇もなく、先へ進まなければならなかった。
ルシアは気を引き締め、銃を握る手に力を込める。
「……気を抜くな。ここの何もかもが異常だ」
ウェスカーの低い声が耳元で響いた。
「はい」
短く答え、足を速める。
探索を続ける中、廊下の先でわずかに物音がした。
ルシアは即座に銃を構え、静かに呼吸を整える。
──この感覚。
周囲の音が消え、視界が冴え渡る。
まるで、自分の体がこの環境に”馴染んでいく”ような錯覚。
──異常なほどに研ぎ澄まされた感覚。
そして、次の瞬間、影が動いた。
腐りかけた皮膚、うめき声、ゆっくりとした動作。
「……人間じゃない?」
それが”元”人間だったものだと認識するよりも早く、ルシアの体は自然に反応していた。
──パンッ!
撃鉄を起こし、素早くトリガーを引く。
的確に頭部を撃ち抜き、異形の人影は地面に崩れ落ちた。
しかし、次の瞬間、さらに複数の”それ”が現れる。
「またっ……!」
躊躇する間もなく、ルシアは即座に動き出す。
視界の隅に敵の位置を捉え、効率よく撃ち抜く。
──まるで、自分の手足のように体が動く。
撃ち漏らした一体が、彼女に向かってよろめきながら腕を伸ばしてくる。
その瞬間、銃を持つ手とは逆の腕を振るい、驚くほど正確な角度で敵の腕を弾き飛ばした。
一瞬の隙を突き、再び銃を構え、最後の一発を撃ち込む。
「……ふぅ」
全ての敵が沈黙するのを確認すると、ルシアはゆっくりと息を吐いた。
あまりにも”自然”すぎた。
ウェスカーは静かにその光景を眺めていた。
「ほう……」
どこか楽しげな声。
「君はやはり、普通の兵士とは違うな」
「……何を言っているんです?」
ルシアは平静を保とうとしながらも、内心では混乱していた。
──確かに、今の戦闘は異常だったかもしれない。
普通の訓練を受けた人間が、あれほど冷静に対処できるものなのか?
“普通の人間なら”、もっと動揺し、判断が遅れ、無駄な動きをしていたはず。
なのに、自分はどうだった?
まるで、戦場が”馴染む”ような感覚。
戦いが、“当たり前”のことのように。
「……私には、特別なことは何もありません」
ルシアは反射的にそう答えた。
だが、その言葉に自分自身が疑問を抱き始めていることに気づく。
「フフ……」
ウェスカーは微笑を浮かべ、ゆっくりと彼女を見下ろした。
「君はまだ、本来の力を理解していない」
その言葉が、ルシアの胸に深く突き刺さる。
──私の”本来の力”?
彼は、何を知っているのだろう?
そして、私は……何を知らないのだろう?
心の奥に、新たな疑問が芽生えた瞬間だった。