SS

下水処理施設で今日もポンプマンは黙々と作業を行う。仕事の量は膨大で、終わりが見えない中でも彼はただただ作業を続けていた。
「ここが終わったら、次は…8番エリアだな」
何十時間と稼働し続け、自身の動きが鈍る度にエネルギー缶で補給をしていた。今も作業の一環の様に缶の中身を呷る。
ひたすらに目の前の作業に集中していた為か、はたまた長時間の稼働で感覚が鈍っていたのか、ポンプマンは堂々と現れたロボットの気配に気づけなかった。
「堅物マジメく〜ん、アクアマン様がお知らせを持ってきてやったボヨ〜」
一瞬、ぎしりと機体を硬直させるも、ポンプマンは再度同じ作業を繰り返し始める。その動作はまるで声など聞こえていなかったかの様な振る舞いだった。
「無視なんて酷いボヨ〜ぼくちん泣いちゃうボヨ〜?」
声の主、アクアマンは悲しさなど微塵にも感じさせないトーンで泣き真似をしてみるも、相手にはこれっぽっちも効果は無い。「いつも通り」と気を取り直し、アクアマンは改めて要件を口にした。
「管理者さんから伝言ボヨン。働き過ぎだからオーバーヒートする前に休めって言ってたボヨ」
「………」
「せめて何か言うボヨ?!管理者さんのお言葉無視するつもりボヨ?!」
「…DWNのロボットの言葉を信じると思うか」
明確に棘を含めた言葉に、誰が聞いても強い敵意を感じられる声色だったが、言葉を受け取ったロボットはその程度では怯まない。むしろ楽しげにアイカメラが歪む。
「あーっ、偏見はいけないボヨ〜!いっくらDWNだって言ってもぼくちんちゃんとお仕事してるボヨン。つまり人間も認めてる、清く正しいロボットなんだボヨ?だから伝言だって頼まれた訳ボヨ」
「減らず口を叩くな」
「すぐそうやって突っぱねるボヨ〜堅物すぎるのも考え物ボヨン。これもう頑固マンだボヨ」
「………」
「また黙る〜つまんないボヨン。んで、いつその作業終わるボヨ?早く帰るボヨ」
「俺にはまだ仕事が残っている」
「だ〜か〜ら〜管理者さんが休めって言ってたボヨ。ロボットなのに人間の言う事聞けないボヨ?」
「お前の口から出る言葉は聞かない」
「ん"あ〜〜〜」
どう足掻いても話が平行線のままだった。揶揄いがいがある訳でもなし、忠告を聞くでもなし、ともなればいい加減アクアマンにも飽きが来る。
「て言うか、お前がオーバーヒート起こして倒れたらこっちが尻拭いする羽目になるボヨ〜!『水も滴るいい男』であるアクアマン様が汚水滴らせるなんてあってはならないボヨ!」
「俺はまだ動けるし、お前に借りを作るつもりも無い」
「E缶で無理矢理動いてるだけの奴が何言ってるボヨ〜!それに働き手少ないからぼくちんにも絶対回ってくるんだボヨ!100%借り作るボヨ!!」
沈黙。流石にこれ以上の会話は無意味だと判断したのか、アクアマンが背を向けた。
「はぁ〜…管理者さんには頑固マンが話聞かないって伝えるボヨ」
ばしゃっ ごつっ
「はい?」
大きく響いた音の方向へ視線を向けると、そこには力無く倒れるポンプマンの姿が映しだされた。作業により汚れていた機体が更に汚水で濡れていく。
「どわ〜〜〜!フラグ回収早すぎるボヨ〜!も〜〜〜!」


・・・


機体内のモーターが回る。ポンプマンのアイカメラが視界を取り戻した。同時に電子回路も起動を始める。
シャットダウンしていたのか、何故。とメモリーから記憶を探り出す前に声が響いた。
「無事に再起動は出来たか」
視線を声の方へ向けると、一人の人間が立っていた。ポンプマンの電子頭脳に存在が深く刻まれている、下水処理施設のロボットを管理する人間だった。
「管理者様」
「状況は把握出来ているかい」
「…いいえ」
思えば何も理解出来ていない。何故シャットダウンしていたのか、自分は仕事をしていた筈では、何故仕事場とは別の場所に居るのか、等々…機体がメンテナンス用の器具に拘束されている事も、今気付いた所だった。
「お前は長時間の無理な稼働によってオーバーヒートを起こして倒れたんだ。数時間前に修理が終わって、先程やっと再起動が可能になった」
「倒れ…?申し訳ありません、ご迷惑をおかけして…」
「いや、お前達ロボットを管理するのが私の仕事だ。無理をさせてすまなかった」
管理者からの謝罪にポンプマンは戸惑う。どの様に返事をするべきかと言いあぐねていると、管理者が先に口を開いた。
「それと、アクアマンに礼を言っておきなさい」
「え?」
「彼が私の元までお前を運んで来たんだ。言伝も受けてくれたし、悪いロボットではないと思うよ」
まあ汚水に濡れた事に文句は言っていたが、と苦笑を交えて管理者は付け加える。しかしその態度に不快感は見られなかった。
(管理者様から伝言を受けていたのは嘘ではなかったのか。それと倒れた俺をあの場から運んだ…)
ポンプマンは自身の知らなかった事実を電子頭脳内で繰り返す。何度も繰り返し、そこから導き出された感情を彼は素直に受け入れた。


・・・


「アクアマン」
「うわ来た」
そんな失礼極まりない一言には一切反応を示さず、ポンプマンはアクアマンを真っ直ぐに見据えていた。表情は硬いままだが嫌悪の感情は全く無くなっている。
「邪魔しやがって〜って文句でも言いに来たボヨ?生憎今回のアクアマン様はな〜んにも悪くなんか」
「すまなかった」
言葉を遮り、ポンプマンが謝罪と共に機体を前に傾ける。構造上少し不格好ではあったが頭を下げている様だった。
「DWNだからと無差別に敵意を向けてしまった。お前の様な良いロボットに対して失礼な事をしてしまった」
「え」
「管理者様から聞いたんだ。倒れた俺を運んで、助けてくれたそうだな。それに管理者様の指示を聞いてきちんと俺に言伝もしてくれた」
「いや、ちょ」
「それを全て無下にする様な真似をして、本当にすまなかった。どう詫びればいいか」
「シャラップ!!」
唐突な大声にポンプマンが機体を起こす。
「そーいうの苦手なんだボヨ!あ〜〜もうこれだからマジメくんは!ちょ〜っと助けられたからってチョロすぎボヨ?!」
「ちょっとではない。かなりだ」
「うるせ〜〜〜ボヨ!」
これでもかと不快感を表そうとアクアマンは地団駄を踏むも、相手には毛ほども効果は無い。むしろ「照れているのか」と言わんばかりの穏やかな笑みを向けられボルテージが上がりに上がった。苛立ちの。
「お前嫌いボヨ!もう今後関わらないでほしいボヨ!」
「お詫びをさせてほしい。それと職場の関係上、関わらない事は難しいと思う」
「詫びとかどうでもいいボヨ!あ"〜〜面倒くさいのに好かれたボヨ〜〜!これならあの時助けなきゃ良かったボヨ〜!」
アクアマンの嘆きを不思議そうにポンプマンは眺めながらも、屈託の無い態度で「これからもよろしく」と告げるのだった。
1/1ページ