〜2000字程度のSS

 ひらひらと舞う金色を、君は見ていた。
 冷たく透き通るような薄青に、木の葉が舞う。いつもより少し遅い寒さに急かされた葉は、あっという間に衣替えを終えた。暑いのだか寒いのだか、ぶちぶち文句を云いながら、クリーニングに出す服を迷っていた君とは、大違いだ。
 事件解決の帰り道、黄色く染まった道を往く。ずいぶんと傾いて一日を過ごすようになった陽を受けて、足元がちかちかと光っている。今日の謝礼なんかよりよっぽど価値のある輝きなのだが、これでは駄菓子のひとつも買えやしないのだから、しようがない。街中に、鼻をつくあの香りが漂っている。
「ねえ、与謝野さん。銀杏の煎ったのが食べたい」
 思いついたままに云ったのに、君は返事をしなかった。
「与謝野さんってば」
 振り向くと、君は立ち止まって、大きなイチョウの木を眺めていた。黄金色がわさわさと集まって、それで大きな影をつくっている。ときどき思い出したように風が吹いて、君の横顔を遮って葉が落ちていく。
 僕の視線に気付いたのか、君は僕のほうを向いて、
「ああ、すまないね。銀杏がどうしたって?」
と笑った。きらきらと舞う金色は、蝶に似ている。
「だからね、銀杏の煎ったやつが食べたいの。帰ったら作ってよ」
「仕方ないねェ」
 君の歩みにはいつも無駄がなくて、すぐに僕の隣に追いついた。戯れに手を握ってあげても、君はなんてことないみたいに笑う。その手のひらのあたたかさを遮る黒布が憎らしいけど、今日は一段と寒いから、君の手が冷えないならばそれでも良かった。
「もうすぐ冬だね」
「うん」
「雪見酒が楽しみだ」
「僕は炬燵で蜜柑のほうがいいな。今年もどっさり買ってこよう」
「皮剥いてやるのは妾なんだけどねェ」
「なに、厭なの?」
「そうは云ってないだろう。わかってるくせに、拗ねたふりなんかするンじゃないよ」
 幼子みたいに手を繋いで、ヨコハマの街を歩いていく。きらきら光る、木の葉の蝶。君が進む道を金色に照らして、やがては土に還るもの。
 冷たく晴れた空を見上げる。次の春には、君と菜の花でも見に行きたいな。
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