ポートマフィアの重力使いに十の贈り物

 路地裏、血に濡れた姿を隠すように歩く。不快な匂いをとっとと洗い流したくて、自然と早足になる。だが、靴音の合間に聞こえた微かな呼び声に、中也は足を止めた。
 ひと一人入れそうな塵箱の脇。ぷるぷると震える毛玉は、またにゃあと鳴いた。
 まだ子猫だろうか。両手で包めそうに小さく、弱々しい。碌な食べ物もないのだろう、痩せ細ってしまって、それでも生きたいと、中也と目を合わせた。彼によく似た靑。
「……手前もひとりか?」
 泣きそうに笑う。今日の任務で、部下が死んだ。間に合わなかった。中也の動きに、着いて来られなかった。
「残念だが、俺んとこ来たって、生きられるかはわからねぇぞ」
 自嘲でもあるし、事実でもある。生命の扱い方は、上手いほうではないと思う。けれど子猫は、ますます中也に近付いて、脚に身体を擦り付けた。
「莫迦だな。きっと後悔するぜ?」
 にゃあ。
 それでも構わない、なのか、何も判っていないのか。前者であれば好いとも、後者に決まっているとも、定められなかった。何故なら、中也はそのどちらをも望んでいたから。
「仕方ねぇ。連れていってやるよ」
 また一声、にゃあと鳴いた。
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