ポートマフィアの重力使いに十の贈り物

 中也の執務室の窓は、海側に面している。街々の間からちらりと覗く海は、刻々と表情を翻す。朝、出勤直後には、生まれたての陽に揺れて淡い。書類整理に草臥れて眺める昼は空と反射し合って、海底に数多の宝石でも沈められているかと思われた。夕暮れ、眩しい斜陽に眼を細めれば、彼方の落日を溶かしながら笑う波が見える。けれど、中也が最も好むのは、ひっそりとした夜の海だ。
 今日も、帰る前に窓の外を見つめる。月はない。ただただ、深く深く何処までも奈落のような海がある。それは中也にとって、わけもなく懐かしい色をたたえている。深海と浅瀬の区別すらつかないであろう青黒い闇を想うと、どうしてか心が落ち着く。そこに夢はなく、ともすれば醜い死をも連想させるが、それでも彼の最も心安らぐ色はそれであり、帰りたくなる光景もそこだ。もしかするとそれは、彼の生まれる前の色なのかもしれない。
 母とも呼べる色を伴って、中也は毎夜、眠りにつく。窓越しに焼き付けたノスタルヂアを瞳に溶かし込むように閉じて、一瞬の夢さえ見ずに。
 あゝ、願わくば、彼にも愛がありますように!
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