ポートマフィアの重力使いに十の贈り物

 任務帰りのことだ。今日もまた、この手で幾人も殺して、でもそれは日常の些細なことで、ああはやくシャワーを浴びてべたりと不快な汗を流したいと、ぼんやり煙草をふかして歩いていた。
 深夜故に照明も僅か、半月は既に眠っている。暗くて静かで嘘みたいな頭上で、遥かの星が瞬きを繰り返す。美しい世界の美しい空気を紫煙で汚すと、感動もないほど殺戮に慣れた魂が相対的に清くなるようで、救いを求めなどしない中也にも、感傷や感慨に似た何かがふつふつと湧いたりした。
 じっと虚空を見つめて、譬えばこのまま、夜と俺との境が消えてしまったらどうなるだろうかなどと取り留めもなく考えていたら、いつの間にか煙草が燃え尽きていた。吸殻を携帯灰皿に入れて、新しい一本に着火する。煙を吸い込んで、先程の思考と一緒に吐き出す。随分とまァ、莫迦げたことを。笑いながらまた、止まっていた脚を動かす。
 ──だが。そうやって、柄にもないことを想わせるくらいには、それは幽かで甘く愁色で、星々が本当はいないかもしれないなどという残酷な言説のひとつやふたつ、蹴散らしてしまえるような夜だった。
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