ポートマフィアの重力使いに十の贈り物

 いくつもいくつも、抱えきれぬほどの言祝ぎ。中也が知っていたようで知り得なかった家族というものの色が薄らと可視化されたような空気は、どうしたって擽ったい。素敵な帽子やら、年代物の葡萄酒やら、彼の好きそうなレコードやら、高価めの菓子やら、彼が重力使いでなければ落としてしまいそうなほどの両手いっぱいな贈り物は、ポートマフィアの誰彼から貰った大切な祝の証だ。気恥しいけれど悪い気は勿論しないし、素直に嬉しい。
 ひとりひとりに礼を云って、ああ、生きているのだと実感する。眩しいお天道様に誇ることも、閻魔に弁明することもできないが、それでも俺は生きているのだし、この生き方に後悔などない。俺が光だと思っているものが、本当は胸焼けするほど濃い闇だとして、本当は精巧な偽物に騙されているだけだとして、俺が生きていることに変わりなく、信じている事実は揺らぎやしない。
 たった、それだけで充分だ。それだけで、彼奴にこの模様を見せつけるには充分なのだ。
「見ろよ、俺はまだ生きてるぜ」
 クローゼットのあの帽子に、そっと語りかけた。
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