フォークダンスを踊ろう
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花京院は死んだ。
アヴドゥルとイギーも死んでしまった。
3人とも、私の知らないところで死んでしまったのだ。
旅を終えポルナレフと空港で別れ、日本に戻るジョースターさん達を見送った私は1日遅れで日本に帰ることにした。
カイロの市街はDIOがたくさんの人を巻き込み殺したせいで道路の端の方にはたくさんの花束が置かれていた。
「……カイロの花屋さんなんて私、わからないんだけど。」
また、すれ違う人が花束を持っている。
すれ違う人が通ってきた道を辿る。
やはりと言うべきかそこには大きな花屋さんがあった。
中はイメージよりも綺麗で、私にはなんと言っていいのか分からないがいろとりどりの世界が広がっていた。
「すみません」
既にピークの時間は去ったのか、店内を物色するまばらな客を傍観している店員に不慣れなアラビア語で話しかける。
旅をしていた時、アヴドゥルが簡単なアラビア語を教えてくれていたのだ。
「適当に花束を3つ見繕って下さい。」
現地の方のアラビア語は上手くききとれた試しがない。
なので、店員がこちらに振り向き笑顔を向けたその瞬間に次は英語で注文した。
すると次は店員さんも英語で、「お好みのカラーはありますか」と聞くので私は「特にない」と、英語で伝えた。
カランカランと鳴るお店のドアを開けて3つの花束を抱えて私は街へ繰り出した。
あの戦いの後、みんなの遺体はSPW財団に引き取られた。
……その後どうなるかは分からない。
興味はあったし、知りたかったけどそんなこと聞く雰囲気じゃあなかった。
つまり何が言いたいかと言うと、みんなの遺体はSPW財団に引き取られていてもうここにはいないということだ。
でも、遺体は無くても魂はここにいると信じている。
心優しいみんななら1人残った私を置いていくことなんて出来ないだろう。
……多分、あのひねくれたイギーでさえも。
DIOの舘も今頃はSPW財団の手が回っているだろう。
3人に向けたこの花束はどこに手向けようか。
私はとりあえず歩き出すことにした。
ジョースターさんは、DIOのスタンド能力を教えてくれたのは花京院だと言っていた。
どうしてわかったのだろうとか色々考えるけれど、私だったら気づかないだろうな、ということしか分からなかった。
考えが脱線して長い間立ち尽くしていたのだろうか。
私の後ろを歩いていた人達は全員私を追い抜かしていて、先程までは青だった信号は再び赤に変わってしまっていた。
気恥ずかしくなった私は右に曲がり路地裏に入った。
「これって……。」
路地裏を抜けて開けた場所に出た。
そこはとても見覚えのあるところだった。
「承太郎の血……。」
壁にベッタリと付着した乾いた血。
私は実際にその姿をしっかりとこの目で見た。
私はここで承太郎の怪我を治そうとして、ポルナレフはDIOに奇襲をかけて……。
「……なつかしく、感じる。」
承太郎の元に駆けつけた時、承太郎の傷を見たとき、死んでいることにしてくれと言われたこと。
「ここが、私の最後の場所だったんだ。」
ふと、上を見上げたとき、とあるものが目に入ってきた。
「……時計台……時計が壊れている?」
近くの建物の屋根に上り、時計台に近づく。
時計台は結構なパワーのあるもので壊された様だ、昨日壊れたのだからスタンド攻撃で壊れたのに間違いはないとおもうが。
更に周りを見渡した、
「あ、あれは、あの給水タンクの凹みは。」
遠目に見ているだけだからハッキリとは分からないがタンクにも血が付着しているように見える。
「そうだったんだね、あなたはここでみんなに思いを託して死んでいったのだね。」
屋根の上から降りた私は、時計台の下に花束を置くことに決めた。
……最後に花京院の最期を知れて良かった。
「花、花は要りませんか?」
そのときだった。子供がたった1輪の黒いコスモスを持っていたのだ。
「黒いコスモス……、珍しいわね。」
なぜだか周りに人なんかいないのに誰かに買われたくなくてついつい早足になってしまう。
「……こんにちは、その花いくら?」
ただでさえ上手ではないアラビア語なのに息切れまでして喋るものだから少年はきょとんとしてしまった。
しかし、すぐに笑顔になって「25ピアストルです」と返してくれた。
少年にお金を払い、お礼を言って立ち去る。
何故か早足になる私の足は、着実に時計台の元へ向かっていた。
時計台真下は、地元の警察の手によって雑に黄色いロープで囲われていた。
私はほぼ何の躊躇いもなく中に入ると、早速時計台の壁に3つの花束を立て掛けた。
当然カイロで線香なんかは手に入らなかったので、承太郎から借りたライターでロウソクの下の部分を溶かしアスファルトに2つほどくっつけた。そして火をつける。
「アヴドゥル、イギーごめんね。私外国のお葬式について全然わからなくて。」
黙祷を捧げ、ロウソクの火を消す。
「……花京院も、ごめんね。」
まだ供えていない1本のコスモスを手に取る。
「私、外国のどころか日本のお参りについても全然分からなくて。
お花だって全部店員さんに選んでもらったんだ。
……それどころか衝動買いで黒いコスモスなんて買っちゃうし。
私、頭良くないからさ、花束にどんな意味があるとか分からないの。
でもね、このコスモスの意味ならわかる気がする。
花京院、貴方のことを考えていたら欲しくなった花。
だから、この花はきっと……。」
私は3つの花束の真ん中の緑色を基調とした花束に黒いコスモスを差し込んだ。
「このチョコレートコスモスは私たち二人だけの思い出を意味していると思うの。」
上手く差し込めなかったコスモスは1本だけフラフラしている。
「……だから花京院、もうさよなら。」
緑を基調とした花束に全く似合わない黒いコスモス。それを見ていると花京院に拒絶されているように感じてしまった。
飛行機は明日の朝だ。
今は午後三時。絶好の昼寝日和だ。
……と、なるはずもなく1人ホテルの部屋で自分の荷物を整理する。
実は、昨日の夜も眠れなくて整理していたのだけれど。
「あっ、これは。」
懐かしいものが出てきた。
それは、パキスタンで彼に貰ったペーパービーズのブレスレットだった。
それを見て、自分の上着のポケットからひとつのカメラを取り出す。
それは、昨日の夜に遡る。
私と承太郎で花京院の荷物を整えていた時のこと。
さすがに本人がいないと言っても女子に下着やら見られるのは恥ずかしいだろう。
と言うジョースターさんの計らいで私と承太郎で花京院の荷物を整えることになった。
彼の荷物は承太郎達とともに日本へ行くらしい。
元々しっかりと荷物を整えていた為、私たちのする事はなかった。
それでも彼の為になにかしたくてわざわざ彼の荷物を開け放った。
なにしてやがる。と、言いたげな承太郎の視線を感じながらも彼の小ぶりな旅行カバンの中身を物色する。
「承太郎、これって。」
「あぁ……。カメラ、だな。」
そこには結構新しめのカメラがあった。
それは、高校生ならお小遣いを貯めれば買えるであろう物だった。
「中身、見てもいいと思う?」
「さっきからカバンの中身を物色してたやつの言うセリフか?」
先程までは立って窓から外を眺めていた承太郎が床に座り込む私の傍にある椅子に座る。
……承太郎も中身を見たいようだ。
そこにはまず、家族で行ったと言っていたエジプト旅行の写真があった。
次に、そこそこに長い日付の空白があり、シンガポールのホテルの朝食で私とアヴドゥルがカヤジャムを塗ったパンを食べている時の写真があった。
その後には1人で見に行ったのかマーライオンの写真もあった。
べレナスではガンジス川の写真。
花京院のカメラには今まで通ってきた国の風景や食べ物、カラチを過ぎた辺りからは私たちの写真も増えていた。
「花京院自身が写ってる写真が少ないね。」
エジプト上陸後も写真はあったが、ポルナレフが勝手に撮ったであろう写真以外には花京院が写っている写真はなかった。
「……大方他のやつに撮ってくれとも、一緒に撮ろうとも言えなかったんだろう。」
「それに賛成だわ。」
そうして、カメラの中の写真を最後まで見終わる。
「承太郎、内緒にしてくれる?」
「……やーれやれだぜ。」
カメラを懐に隠す私を見た承太郎は、一言だけ言うと部屋を出て行ったのだった。
パキスタンで彼ははじめて私に写真を撮っていいか聞いてきた。
「いいよ」と返すと、どこか恥ずかしそうに写真を撮られた。
「突然どうしたの?」と聞くとチャドル姿の君を撮りたくて。なんてキザったらしく返してきたものだ。
写真のお礼だよ、と言って彼がくれたのが先程言ったペーパービーズのブレスレットだったのだ。
実は衝撃に弱いペーパービーズはこの旅で壊れてしまっていて、ずっと言い出せなかった。
ビーズは戦いの最中あたりに散らばって後でかき集めたけれど見つかったのはたった4粒だった。
私は再びペーパービーズのブレスレットだったものをジッパー付きの袋にしまいカバンに戻した。
それからは本当に夕食の時間まで眠り、夕食を食べて寝た。
目を覚ました後はシャワーを浴びた。
そして私は再びカイロの街にでた。
午前4時のカイロはさすがにあまり人がいなかった。私は記憶を頼りにあの場所に向かう。
3つの花束と1本の黒いコスモスはまだそこにあった。
「おはようございます、みんな。」
昨日そのままにしたロウソクに再び火をつける。昨日より火が小さい。
「今日このあと、日本に帰ります。」
黙祷を捧げた後、カバンから霧吹を取り出して少し元気のなくなった花束たちに水をやる。
「私ね、今日はもう1つ用事があってきたの。」
ロウソクの火を消して、アスファルトに面した所をライターで炙り地面から引き剥がし紙袋に入れる。
「実は私、花京院から貰ったブレスレット壊しちゃったの。」
そう言ってジッパーからペーパービーズの残骸を取り出す。
「私ね、これをイヤリングにしようと思うの。拾い集めたけど4粒しか見つけられなかったから。」
アスファルトに膝をおり正座になる。
「もし良ければ、貴方に片方をもらって欲しいの。……いいかな。」
その瞬間に辺りには大きな風が吹いた。
「花京院……。」
私はその大きな風が花京院の返事なのではないかと思い込むことにした。
さあ、帰ろうか日本へ。
みんなも君を待っているから。
そう、言った気がした。