フォークダンスを踊ろう
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「イギー!!そんなところにいないでこっちに来て遊ぼうぜ?」
笑顔を振りまき楽しそうな声を上げるアイツはボストンテリアのイギーのことを心底気に入っていた。
最初こそは人間なんぞには目もくれなかったイギーもアイツと幾つもの死線を乗り越えるたびに少しずつだが心を開いたようだった。
問いかけに答えたイギーはアイツの前に現れたと思ったらどこかに一目散に逃げだした。
「あっ、こらイギー!俺の靴下返せよな!」
そういうアイツの言葉にようやく俺はアイツがイギーを呼んでいた理由がわかった。逃げてどこかに言ってしまう前にイギーは笑っていたのも辻褄が合う。
そしてアイツはソファに座る俺の前を横切り部屋を出ていく。
悔しそうな顔をしながら緩みきった顔をしたアイツは小さな声で、自分にだけ聞こえる声で「こんな時がずっと続けばいいのにな」と、呟いた。
ある時、DIOの手下の1人(1匹)にイギーがボロボロにされた時は本当に怒っていたし泣いていた。同じく帰ったきた花京院にたった一言だけ「大事に至らなくて本当に良かったな」と告げるとあとはずっとイギーの方を気にかける始末だったのだ。
DIOの館に着いてからもアイツは怒りに燃えていた。
普段のアイツならこんなプレッシャーを受ければ一言ぐらい泣き言を言って俺かポルナレフにたしなめらていただろうに、アイツの目は怒りの炎と先程流したはずの雫できらりと光っていた。
そこから先のことは詳しくわからない。
あの後俺はテレンス・T・ダービー 、アイツはヴァニラ・アイスと。
俺たち、ジョースター一行は二つに分断され、俺とアイツは別々になってしまったからだ。
次に俺がアイツに合流した時には、アイツとポルナレフしかいなかった。
ヴァニラ・アイスと戦ったのはアイツとポルナレフ、アヴドゥル、イギーの4人だったはずなのに、だ。
DIOと対峙し、スタンド攻撃の一部を体験したと語るポルナレフの横にいる同じくスタンド攻撃を受けたであろうアイツはいつもと変わらぬ顔で何かを呟いていた。
そんなアイツに2人はどうしたのかなんて聞けず、ポルナレフに全てを聞くと2人はここまで来れなかった、とだけ答えた。俺は怪我をしているか?と聞くとポルナレフは足を、アイツは右耳と右手を消されたと答えた。
消された。
痛みはあるのか、ないのか?なんてことは問題じゃなくてなくなってしまったというのだ。
イギーの声を聞くための耳。
イギーを撫でたり叱ったりするための手。
俺の、俺たちの声を聞くための耳。
俺たちを気遣い、頼りになる右手。
カイロの市街へ挟み撃ちの形でDIOから逃げながら追う俺たち。
またもや俺とアイツは別々に行動することになった。
次に俺がアイツにあったときにはジジイはDIOの投げたナイフですでに絶体絶命の状態きなっていた。そして俺がDIOのスタンドの範囲内に入り込み殴り飛ばしてやると意気込んでいたときだった。
「JOJO……」
そう、俺の頭上から聞こえそちらを向くとそこにはアイツの姿があった。
アイツは俺を逃がすため、そしてジジイと花京院の意志を俺に繋ぐためにDIOにたった一人で挑んだのだ。
五体不満足のアイツはDIOには勝てなかったが、俺はアイツのくれた時間でDIOに勝つ精一杯の作戦を考えた。
そうして俺はDIOを倒し、朝日を待ちDIOは灰になった。
「……とまぁ、こんなわけだ」
「へぇ~、そんなことがあったんスね」
あれから10数年がたった今、ジジイの隠し子……俺の叔父にあたる東方仗助が俺の元を尋ねてきたと思えばアイツについて聞かれたものだから結構久しぶりアイツについて考えてしまった。
「どうしたんだ?いきなりそんな事を聞いて」
「あ、やっぱり気になります?」
「ああ」
そう言うと、「ですよね」と明らかに視線を逸らしながら喋る仗助。
「じつは、学校の帰りのことなんスけど……普通に街を歩いていたら明らかに右手の無い人が堂々と目の前を歩いてたんで吉良のこともあるしマークしてたんスよォ〜……そしたらその人SPW財団に連絡入れはじめるし尾行はバレてて人気のない場所まで誘導されるしで……」
「……」
「そっ、それでその人に話しかけられてお前が東方仗助か?なんて聞かれたんで話をすることになったんスけど、そこで俺のことが信用できないなら承太郎さんに合わせろとかいいだして」
そう言うと仗助はちらりと扉の方向を見た。
……あそこにアイツがいるのか。
「えと、今その人を連れてきたんスけど、あってもらってもいいっスか?」
「……1つ聞かせてくれ、アイツはどうして俺じゃなくて仗助の元に訪ねてきたんだ?」
「答えは簡単だぜ」
その言葉と同時に扉が開き、部屋にはあらたな空気が立ち込めた。そこには特に禍々しい雰囲気などは感じられなかった。
部屋には絨毯が引かれ足音は消されているが、そいつの存在は目線を合わせなくて強く感じとれた。
「……」
「久しぶりだな承太郎……そして、ここまで連れて来てくれてありがとう仗助くん」
「い、いえ……」と、仗助は律儀にも言葉を返す。
「……俺はあの時の怪我をどうにか、治そうと世界中を飛びまわった……それでも駄目でどうにもならなかったからSPW財団にも協力してもらった。だけど、それもダメだったんだ……だから俺は沢山考えた……ある時俺は気がついたんだ。スタンド能力で消されたのなら、スタンド能力で生やせばいいのだと。
だから、仗助くん、君の能力を聞いた時俺は遂に報われるのだと思ったよ。
それが、俺が杜王町に来て、誰よりも先に仗助くんに接触した理由だ」
「そうか」
「最初にお前の元を訪れなかったのは悪かったよ。でもな、俺にだってこの10数年間思うところはあったさ。
あの時、俺はイギーを失ったことでそれはもう放心してたよ。DIOに1人で挑んだ時の記憶なんてほぼなかったし、気づいた時には病院のベットの上ってやつだ。
……そう、あのときの俺はイギーの事だけを考えてしまっていたんだ……今なら、あの日以外の俺は思い出せるんだぜ?あの日のお前の俺を気遣う顔、お前だけじゃなかったよ、ジョースターさんもポルナレフも。
お前が、日本に戻って入院していた俺の元にほぼ毎日お見舞いに来てくれていたことも」
「……知ってたのにテメーは俺たちに黙って退院して日本から出てったってーのか?」
「あぁ……しってたさ、だから俺はお前の元から去っていったのさ」
困った様に眉を下げて笑うアイツは俺の目ではなく、タバコを吸いすぎて少し変色した俺の指を見ていた。
「……チッ」
俺は口にくわえたタバコを灰皿に押し付けて消し、改めてアイツの顔を見る。
アイツは俺の灰皿の中身を見て苦笑いをしていた。
「悪い、もう少し簡潔に言うべきだったな……久しぶりにお前に会えて饒舌になっていたみたいだ」
俺とアイツのあいだのピリピリとした空気に仗助は少し冷や汗をかく。
……大方アイツを連れてくるのは不味かったのではなんて考えているのだろう。
「俺な、お前をこの右手で撫でてやりたかったんだ。
あの時、イギーがボロボロにされた時お前が俺を慰めてくれて本当に嬉しかったから。
俺もお前が何か辛い思いをする時が来たら思い切り撫でて慰めてやりたかった」
そう言うと、俺の後ろに立ち自らをスタンドを使って浮き上がらせるとあの旅で出来た傷跡がたくさんある左手で俺を撫でた。
「今の俺じゃ、お前を撫でているだけだ……だから、次会う時までにはお前を慰められる男になって帰ってくるよ」
俺を撫でていた手は止まり、震えていた。
普段なら俺の肩下ぐらいにある頭が俺の肩上にあるせいで俺の肩は何かによって濡れてしまった。
ふと周りを見渡すと既に仗助はいなかった。
アイツもそれに気がついていたのか止まった手は俺の帽子をグシャグシャにするかのように握り締めた。
スタンドパワーが切れて帽子を離すのが先か、帽子をグシャグシャにしているのに気づいて離してくれるのが先か。
……どちらにせよ帽子はグシャグシャだ。
そう思っていると、アイツが帽子から手を離した。
「……やれやれだぜ」
そう言うと、左右対称の靴下を履いたアイツは震えた声で「あはは!」と笑った。
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