SHAKE
「ただいま戻りました」
「連絡も無しに遅くなってしまってごめんなさい!」
今朝、まだお天道様が東に傾いていた頃に宿を飛び出した二人の少年少女が戻ってきたのはすっかり辺りが橙に染まってからのことだった。
こんな偏狭な漁村で一日中何をしていたのだろうと純粋に思案するアヴドゥルを他所ににやりと意地の悪い笑みを浮かべるのはやはりポルナレフだ。
「オホーンオホン!一体こんな時間まで二人きりで何してたんだろうな〜〜」
「おいおいおいポルナレフ、そんな水を差すようなことを言うんじゃあない」
そして、これもやはりと言うべきかーーその悪ノリに更に被せてくるのはジョセフ。ロング丈の学生服をキッチリと着こなす花京院にからかう様な視線を向けている二人は彼のウブな反応を心待ちにしているらしい。緩みきった口元が確固たる証拠だ。
「私のスタンドの特訓に付き合ってもらっていただけですよジョースターさん……ね?花京院」
「ええ、まあ……そういう事です」
あまりこういう状況に慣れていないのだろう花京院にちょっとした助け舟をだしたアゲハは未だにニヤニヤとしたポルナレフに鋭い視線を向ける。彼と恋仲だと勘違いされるのは満更でもないのは確かなのだが、肝心の相手が困っているのなら見過ごすわけにはいかない。
「ふ〜〜ん?それじゃあこの「手」は何なんだァ!?オレには「繋がれている」ように見えるんだがよーッ」
次の瞬間、その言葉と共に勢い良くこちらに歩みよってきたポルナレフが不意に掴んだのはアゲハの左腕。しかし持ち上げられたのは彼女の左腕だけではなく、「なぜか」隣に並ぶ花京院の右腕も天に伸びている。
「あっ」という全てを理解した二人の声が短く響く。
「ああ、ああああ〜〜〜ッ!?た、たまたま花京院の手に私の指が引っかかってたみたいだね!!ほんと!たまたまだよう?たまたま!」
「プクク、たまたま指が引っかかるとはどういう事だろう。わしにも分かるように説明してくれ」
「〜〜もう!面白がってるじゃあないですかジョースターさん!気付いてるんですからねッからかわないで下さいよ!」
あのままずーっと繋がれたままだった手を強引に振りほどいたアゲハは適当な言い訳を見繕った後、笑いを堪えながら探りを入れてくるジョセフを真っ赤な顔で抗議する。そしてそれと同時に相手から繋いできた以上振りほどくのも悪いかなとそのままにしていた数分前の自分を酷く責めたてた。ああもう、私の馬鹿馬鹿。
「うう……アヴドゥルさん…………ぐすん」
「う、うむ……」
目じりには涙をため、気の毒なほどに羞恥心で頬を染めあげたアゲハを不憫に思ったアヴドゥルの一声により、二人のお調子者は一旦攻撃を停止した。気がつけば会話の流れがこれからの夕食の話にすり変わっているのに少年少女は安堵のため息をつく。
「……改めて今日は本当にありがとう花京院。次は私があなたの助けになるからさ、必要な時は絶対に声掛けてよね?」
もう二度と蒸し返されたくないと、至極小さな声で紡がれた言葉に花京院は小さく笑う。そしてアゲハも
「ああ、分かったよ」と優しい声で返されたその言葉を胸に留めると酷く満足そうに微笑んだ。