フラジール・ラヴ
「あ、アヴドゥルさんが生きてたァ〜!?」
目をまん丸にして叫んだアゲハは衝撃の真実を告げたジョセフに詰め寄った。顔中をガーゼと包帯に包まれた彼女はなんだかまるで私だけ仲間外れにされていたみたいじゃあないかと気分を悪くしているのだ。
「すまんすまん、中々伝えるタイミングがなくてな。インドで彼を埋葬したという話はウソだ」
「そ……そんなあ」
愕然とするアゲハを他所にジョセフは笑う。その様子を見るにどうやら特に意図があってアヴドゥルの死を隠していたわけではないのだと理解した彼女は口の端をひきつらせて苦笑いを零す。
「別にきみに意地悪をして伝えなかった訳じゃあない。帝には話しても問題は無かったんだがどうしても聞かれちゃあいけない相手がいてね」
「聞かれちゃあいけない相手って誰のこと……って、ギャ!沁みてる沁みてるッ!」
「す、すまない……」
花京院のフォローの言葉に仲間外れにされていた訳では無かったのだと胸をなで下ろしたアゲハは突如背中に走った激痛に歯を食いしばる。背中の傷に消毒液が沁みたのだ。
ふう。と息を着き、涙目になりながらも「続けていいよ」と笑う彼女に花京院は一度頷くと、その小さな背中に処置を再度施し始めた。今は多少つらくても一分一秒でも早く治療を終わらせなくては、今後アゲハの身体に響くからだ。
「しかし派手にやられたなあ。怪我をしていないところを探す方が難しいぐらいだ」
「だが幸い脚のキズは軽いようだぜ。体内に銃弾の破片が残っていない」
アゲハの血まみれの靴下をとっぱらって銃創を確認した承太郎がスタープラチナを自身の裡へ戻す。前回のようにスタンドでの摘出施術はせずに済むらしい。承太郎にもすかさずお礼を言えば、「気にするな」といつもよりも優しい言葉が返ってきた。
「あ、あの!実は二人に話しておかないといけないことがあるんです」
承太郎のその様子に「そんな事に時間をかけるよりも本題に入るべきなのだ」と理解したアゲハは彼とジョセフに目を配り声を張り上げた。その少し強ばった声色に、今から何を話すのか察しづいた花京院は一度ぴくりと動きを止める。
(帝の家族は……いつ命を失ってもおかしくない状況にいるはずだ。せめてDIOとの戦いの前に救い出せればまだ可能性はあるかもしれないが……)
眉を寄せながら静かに語り出したアゲハの年相応の女の子らしい声を聞きながら花京院は治療の手を動かし始めた。さあ、胴と背中に包帯を巻いたら次は左腕だ!
そう腕をふるう彼の宛てがったアルコールワッテに、大事な話の最中だと言うのに時折「痛っ!」と声を上げるアゲハ。花京院がその度口先だけの謝罪を述べればわざとらしく息を着いた承太郎が「やれやれ」とポケットに両手を差し込んだ。