貫通銃創!!
生命をかけた戦い!!
(はやく……はやく彼女の居場所を見つけなければ、僕は……死ぬ!!)
花京院はそう心の中で叫ぶとすぐに行動を開始した。自身のスタンドをロープ状にして背の高いビルの屋上めがけて飛んだのだ。
(あの少女の今までの攻撃方法から考えれば、いまも僕をどこかの建物の屋上や高いところから狙っているのだろう。
そして先程の推測が正しいのならば彼女のスタンド能力の射程距離は500m以上!
これだけの射程距離を持つスタンドだ。逆に射程距離を詰めることが出来ればその分こちらが有利に立てるだろう!)
建物の凹凸を利用しシンガポールのビル群を飛び交った花京院は遂に目に見える範囲の1番高い建物の頂上に降り立った。
しかし次の瞬間、突然なんの前兆もなく!花京院の身体は焼けるように痛みはじめたのだ。
(腹の辺りがが……痛い!! これは一体……?)
花京院は思わず患部である自身の腹に手を添える。そして手にトロリとした白色の粘液が付着したのをみて花京院はまさか!と声を上げた。
「この腹の痛みはあの少女のスタンド能力ッ!……し、しかしこの粘液の正体はなんなのだ!全く検討もつかない……」
身体に異常が起き、精神を酷く乱した為にスタンドが制御出来なくなり消えていく。それと同時に花京院もまたふらふらと足元がおぼつかなくなり、遂には高い高い建物の屋上からその身を落としてしまった。
(ああ、僕は、こんな所で死んでしまうのか……?
遠くにケーブルカー乗り場が見える、承太郎達は無事にDIOの元へ行けるだろうか……。)
花京院は自らの死を覚悟した。ほんの数日間の間だがこの旅は本当に良い旅であったとどこか走馬灯のようなものを思い馳せていた。
しかし次の瞬間、花京院は自分の目と脳を疑うような物を目にした。
「人だ!! 車も自転車だって見える! ああ、僕はついにおかしくなったのか」
遠く、おそらく目視出来るギリギリのところにポツリとほんの僅かなサイズだが、人の姿が見えたのだ。その傍らには青色の軽自動車が信号に従い背中にブレーキランプを点している。
(もしかして……僕を仕留めたと思って能力を解除したのか?そうだとしたら今ならジョースターさん達に連絡を取れるかもしれない!!)
あと少しの辛抱だ!!と自らを奮い立たせた花京院は再びスタンドを出現させると数本の触手をたくみに操り落下速度を緩やかにし建物の真下に着地した。
着地した先は滞在しているホテルからはそう遠くなく、さらに大きな建物の影となっており、上から花京院を狙っているであろう少女から隠れるにはもってこいな場所であった。足元にはコンクリートを突破って生えた根性のある雑草がいくつか顔を出している。
「しかし不思議だ……少女のスタンド能力が殺傷能力のない弾丸を作り出すことであるということは大体分かってきたが、いまぼくの身体を蝕んでいる痛みはなんなのだ?」
花京院は再び患部へ手を伸ばす。まるで体から染み出てきているかのように張り付いている白い粘液を花京院は手で払うとそれは足元の雑草たちを濡らした。
「殺傷能力のない銃弾を撃ち込まれて起きた現象……突然大きなスライムに覆われる……突然なぜか街の人間が居なくなる……妙な粘液による腹痛……ああ!まるで一貫性がない!」
花京院は腹痛のせいかいつもより働かない頭をクシャりと撫で付ける。先程から起きている現象はすべてまるで現実性のないものばかり。これがスタンドによる攻撃出ないはずはなかった。
(思い悩んでいてもしょうがない……今はとりあえずジョースターさんと合流するのが先決だ)
そう頭の中を一度完全に整理した花京院が慎重に一歩前に踏み出すと、足元で「カサカサ」と今の状況に似つかわしくない可愛らしい音がなった。
一体何を踏んずけてしまったのだろうかと足元を見ればそれは枯れた雑草だった。コンクリートを突破って生えた根性のある枯れ草。
「……!枯れている……さっきまで青々としていたというのに」
花京院はハッとして自分の周りを見渡すと一帯は枯れ草地帯と化していた。
まさかと思いながら花京院は自身の腹部に付着している粘液をまだ青い雑草に垂らす。すると雑草はみるみるうちに溶けるように枯れていってしまった。
「じょ、除草剤だ……。 僕の身体を貫いた弾丸には超強力な除草剤が入っていたんだ!!」
ジョースターさん達にはやく合流しなくては!! 一人で対峙するには分が悪すぎる!ーー花京院は再び走り出す。 少女の能力が解除された今ならばジョセフ達も部屋にいるのだろう。
自身の右隣にスタンドを寄り添わせた花京院は出来る限り壁沿いを進み、道路を跨いだ先にホテルの姿を捉えた。
あとはこの道路を渡りきるだけ……しかし広々としたその道路には当然ながら障害物は無く、足早に通り過ぎなければ格好の餌食になってしまうのは明らかであった。
花京院は息を整えた。そして自身のスタンドで急所となる首や頭、胸の辺りをガードすると走ってそのまま道路を横切っていく。
しかし道路を無事渡りきり、そのままホテルの玄関扉に手をかけた花京院は再び戦慄した。ガラス張りのその扉からは中の様子が丸わかりだったのだーーそう、誰もいないホテルのエントランスが。
「い、いない……ッ!まただ またラウンジに人一人いない!彼女のスタンドは解除なんてされていなかったのだ!」
するとそんな花京院の声をかき消すかのように不意に銃声が響く。
花京院はその音にハッとし、すぐさま建物内へ避難しようとするも後の祭り、音速よりも速い速度で自身のふくらはぎに被弾していた黄金色の弾丸が肉を突き破り、足元を彩っていた石造りの床を傷つけた。
「な、何ィーーッ!?」
花京院はとにかくがむしゃらにホテルのロビーへと転がり込んだ。痛む足を引きずりながら壁伝いに歩き、受付カウンターの下に潜り込むとようやく重い息を吐いた。
「血だ……!血が出ているぞ!痛みもある!しっかりと銃創も出来ているッ」
花京院は自身のふくらはぎから流れ出る鮮血に触れる。患部は熱を持ち、当然触れればそこは痛みを伴った。
とりあえず血をとめなくてはーーと花京院はどこか遠くなる意識の中でスタンドの触手を操り止血帯止血を試みる。
(あの時見えた人の姿は一体何だったのだ……。あの時ぼくは、どんな状況だった?)
そこまで考えたところで、花京院は次第に重くなっていく瞼に逆らわずに目を閉じることにした。
花京院と少女以外誰もいないこの「メガロポリス」では彼の荒い息遣いだけが響いていた。