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chapter2. TAROT

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運命の車輪ホイールオブ・フォーチュン


「み……見えなかった……一体何だ今の攻撃は……!? 何をどうやって撃ち込んできやがったのだ!? 」

 けたたましいエンジン音が周囲に響きわたる。
『車輪』の暗示を持つスタンドははたして承太郎に何を撃ち込んだのか……? その場にいた誰もが冷や汗を浮かべ警戒から表情を引き締める。

「ヒャホハハハッ! 今の攻撃が見えないだと! しかし承太郎ッ俺の攻撃の謎はすぐに見えるさ!きさまがくたばる寸前にだけどなアァ!」

 運転席に座るスタンド使い本体が下品な笑い声を発する。それと同時にとてつもないスピードで承太郎との距離を詰めると再びキラリと車体を光らせた。

「承太郎! 」

 負傷した承太郎を庇うために飛び込んだポルナレフと花京院もろとも彼は再び見えない攻撃に体を抉られた。
 三人の名前を呼ぶジョセフに悲鳴をあげる家出少女、アゲハ
「酷い怪我だ……」と、三者三様の言葉を口にした。

「全然見えない……何かを飛ばしてきている様だが……しかし傷口には! 針とかガラスの様なものは何も突き刺さっていないッ! 」

「くそ〜ッ! 傷は深くないが抉られているぜ! 」

 アゲハは一番近くに転がってきた花京院の傷口を見る。穴が空いているようだが本当に何かの破片などが入っている訳では無さそうだ。だがあまりにも出血が酷い。噴水のノズルから水が噴きでるように体から血が飛び出している。

「私の弾丸で血を固めて止血させるわッ」

「……ッ、そんな事より今は逃げろ! 」

 戦いの最中だと言うのに気が抜けていた、とアゲハは心の中で舌を鳴らした。「運命の車輪」がこちらめがけて突っ込んできていたのだ。
ジョセフ達は近くにあった岩と岩の隙間に逃げ込むが、勢いよく飛び込んできた車は辺りの岩山を壊しながら追い続けてくる。

「また飛ばして来るぞッ! 見えんッ」

 車が再びキラリと光る。承太郎を狙ったその攻撃はアゲハにも被弾し、彼女は思わず顔を歪める。

「奥に逃げろッ! 」

 承太郎のその言葉にジョセフ達は近くにある岩山にしがみついて登る。しかし、この緊迫な状況下で腰が抜けたのか家出少女は転んでしまった。
気づけば辺りに人がいなくなっていた彼女は転んだままの姿勢で泣き叫びながら地面を叩く。 そんな彼女にいち早く気づいたのは承太郎で彼は呆れた様子で首根っこを掴む……どうやら助けてやるようだ。

「やれやれ…… それだけしゃべくってる暇があるなら逃げろよなこのガキが! 」

「わーん! 承太郎大好き! 」

 登り切ったジョセフ達が下に車の様子を伺うとべコンべコンと車の変形する音が聞こえてくる。
スコープで奴を観察していたアゲハはタイヤが変形しているようだと信じられないものを見るようにして呟く。

「フン!登るがいいさ……お前らに文字通りもう『道』はない。逃げ『道』もエジプトへの『道』も輝ける未来への『道』もない」

 スタンド使いが言葉を続ける間も不気味な変形は続く。タイヤからは長い棘がゴム部分に均等に飛び出ている。
 しかしあれでは走ることは出来ないのではとアゲハが内心思っていると、変形を終えた車は平坦な道ではなく、岩壁を登り始めた。
あれはただのどデカい棘ではなく、スパイクの代わりだったのだ。
 崖下から聞こえてきた音が大きくなり、今にもこの足場に登りきるだろうという時だった。承太郎は皆を手で制すと下がっているようにと告げる。

「やつは……ここに登りきるとき車のハラを見せる。 そこでひとつやつとパワー比べをしてやるぜ」

「なるほど……やつが何を飛ばしてきているのか正体不明だがハラを見せた時ならこっちから攻撃できるかもしれん」

 花京院の言葉に納得したアゲハは「運命の車輪」の登ってくるであろうポイントを見つめる。
車はもうすぐそこまで来ている様で弾かれた小石がパラパラと跳ねている。
跳ねてくる石はどんどん大きくなりそれと同時にエンジン音も大きくなる……ポルナレフの
「来たッ! 」という声とともに車は予想通り承太郎にハラを見せた。

「フヒャホハッ! 元気が良いねぇ承太郎くん! ン〜実に元気だ! だがシブくないねぇ〜冷静じゃあないんじゃないのか? まだ自分たちの体が『何か臭っている』のに気づかないのかッ! 」

 男の言葉にアゲハは先程傷つけられた部位の匂いを嗅ぐ。嗅いだことのある独特の匂いに瞬時に、これが『ガソリン』であることに気づいた。
車は再びキラリと光る。今度こそ何を飛ばしていたのか検討がついた。

「ガソリンだッ! ガソリンを超高圧で少量ずつ弾丸のように発射し攻撃していたのだッ! 」

「まさか……ヤツの攻撃は我々にダメージやキズを負わせるためでなくガソリンを体中にしみ込ませるためかーッ! 」

 だからこそ、体を貫通しない程度のパワーでガソリンを発射していたのだとアゲハは思った。体内に残ったガソリンは液体なのだから重力に従い傷口からやがて体にしみ込んでいく。

「気づいたかッ! しかしもう遅いッ! 電気系統で『火花(スパーク)』!!」

車に設置されている電気系統から火花が音を立てている。そしてその火花は一番近くにいて一番多くガソリンがしみ込んだ承太郎に引火した!

「きゃあああ 承太郎ーーっ!! 」

「承太郎ッ! 」

「近づくなジョースターさんッ! 我々の体もすでに傷口それ自体にガソリンをかけられている!!」

 火の中で苦しんでいるであろう承太郎に手を伸ばすジョセフを止める花京院。アゲハとポルナレフは伸ばした行き場の無い手をどこにも仕舞えずただ燃えていく承太郎のシルエットを見つめていた。
 そしてついに膝をついてなんとか耐えていた彼の体が倒れる。ジョセフやポルナレフが承太郎の名前を悲痛な声で呼ぶ。

「勝ったッ! 第三部完! 」

車の中から腕だけを出した男が嬉しそうに声を上げる。アゲハは何かもう打つ手はないのかと燃え盛る承太郎から目を逸らした。

「ほーお。それで誰がこの空条承太郎の代わりをつとめるんだ? 」

しかし次の刹那聞こえてきた高校生とは思えぬシブい声にアゲハは顔を上げる。声の発声源を向くと地面から承太郎を覗かせていた。
どうやらスタープラチナで地面にトンネルを掘りなんとか脱出したらしい。燃えたのは上着だけだったのだ。

「ところでおめえさっき『道』がないとかなんとかいってたな」

 完全に地面から這い出てきた承太郎は所々まだ出血しているようだが命に別状はなさそうだった。なによりも、今は相手をぶっ飛ばすのが先決なのだ。

「ちがうね……『道』というものは自分で切り開くものだ……と、いうことでこの空条承太郎が実際に手本を見せてやるぜ……道を切り開くところのな」

 スタープラチナとの真っ向なパワー比べは不利だと判断したスタンド使いの男は短く悲鳴をあげる。
 オラオララッシュに車体がグチャグチャのメチャクチャに形を変えていく。男は助手席側のドアまで押し込まれるとついに車外へ飛び出した。

「……と、こうやるんだぜ。 これで貴様がすっ飛んだ後に文字通り『道』ができたようで……よかったよかった」



design



「おやおや……こいつが「運命の車輪」の本体のスタンド使いか」

 すっ飛ばされたスタンド使いの男はスタープラチナに殴られた際に出血したのか血塗れで腫れ上がった顔面を歪めている。ーーがしかし、アゲハはそれ以上に変わった体型に目をぱちくりさせた。

「モリモリで立派なのは車の窓から出てる腕だけであとは随分貧弱な体格をしているぞ。ハッタリだなァ」

 その花京院の言葉通りだとアゲハは思った。実際自分よりもほっそりとした足に羨ましさよりも心配の気持ちが生まれるほど頼りない体をしていたのだ。
 男は隙を見つけて逃げようと企んでいたようでこちらに背を向けて四足歩行でそそくさと逃げようとするも、簡単に逃がすわけがなく追いかけてきたポルナレフに踏んず蹴られなんとも情けない声を上げた。

「こっ、殺さないでッ! 金で雇われただけなんですーッ!! 」

 男の豹変ぶりがあまりにも情けなくて面白くて一行は大きく口を開けて笑う。
すると敗北を認めた男のスタンドの車が音を立てて変形し、普通の(オンボロ)車に戻った。物凄く厳ついデザインだった車は小さな自動車をスタンドでカモフラージュしただけのものだったようだ。

そんな見栄っ張りのシャバいスタンド使いの有り様に、再び笑いがこみ上げる。
スタンド使いの男ズィーズィー(旅行パスポートに記載されていた)は岩に鎖に繋がれ身動きが取れない状況になっていた。ちなみに腕は地面の中に、口は鎖で猿ぐつわだ。
 傍に建てられた看板には
『わたしは修行僧です。神聖なる荒行(カトゥー)をじゃましてほどいたりしないでください』と書かれており、余程のお節介でもこの拘束は解いたりしないだろうとアゲハは笑った。

「ま……こいつが襲ってきてももう怖くないが、こいつの旅行パスポートを頂いておこう。しばらくはインドをでることをできまいて」

「それとぶっ壊されたランクルの代わりにこの車に乗って国境を越えよう……」

 ズィーズィーの言葉にならない呻き声をBGMに会話は続く。アゲハは車をじっとりとした目で見つめながらパキスタンまでこんな小さなボロ車に六人も乗るのかと苦笑いを零した。

「ところで……おめーは飛行機でホンコンに帰すからな」

「えぇ!? 承太郎どぉしてェ〜やだ!やだ!いっしょに行きた〜い!! 」

「やかましいッ! 足でまといになっとんのがまだわからんのかァおのれはッ! 飛行機代めぐんで貰えるだけありがたいと思えよッ! 」

 激しい戦いの後だと言うのにこの緊張感のないどこか微笑ましい光景にアゲハは思わず頬を緩ませる。
 ジョセフ達を乗せた小さな車はパキスタン国境を目指す為砂埃を巻き上げながら再び前へ前へと走り出した。

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