運命の車輪 ②
パキスタン国境へ向かうジョースター一行はスタンド使いの追手を警戒しつつ車を走らせていた。(途中、例の車はスタンドの射程距離外へ出てしまい追跡が出来なくなってしまったが)
そうして長時間運転のリフレッシュにたまたま見つけた街道の茶屋へ入ることにしたのだった。
「ふ〜ドライブも良いがいい加減疲れたぜ。異常な車には出会うしよォー」
「べレナスから急いで出てきたからのう。少しは休まんと本当の事故に遭うわい……」
茶屋にはジョセフ達の他にも何台か車が止まっていた。この長い悪路でくたびれた人々にとってここは憩いの場なのだろう……とアゲハは当たりを見回す。
「お、店主それはなんだい? 」
「サトウキビジュースね」
ジョセフが店主から受け取ったジュースに目をやるとグラスに反射してあの『迷惑車』が目に飛び込んできた。彼が「なにッ」と驚き声をあげながら勢いよく振り向けば、例の古ぼけたぼろ車の姿。やはりあの車で間違いないようだ。
「オヤジにひとつ聞くッ! あそこに止まっている古ぼけた車のドライバーはどいつだ!? 」
「へ? ……さ、さぁいつから止まっているのか気が付きませんでしたが」
店主はドライバーの顔どころかそもそも車から降りたかも分からないようだ。彼の様子から見て、嘘をついている訳でもないらしい。
「どうしますジョースターさん。とぼけて名乗りでてきそうもないですね」
現在茶屋にいるのは三人の男達ーーこの状況だと誰もが怪しく見える。
ポルナレフは先程の恨みからかカンカンに怒っている様で、どの人物があの車のドライバーか判明したら例え一般人でも無事では済まなさそうな雰囲気だ。
「……しょうがない、どいつがあの車のドライバーか、そしてそいつが追手かどうかハッキリせんことには安心して国境を超えられん。
この場合やることはひとつしかないな? 承太郎……?」
ジョセフは承太郎を見る。そして承太郎はすでにジョセフと同じことを考えていたようで手入れの行き届いた革靴を前に突き出す。
「ああ、ひとつしかない……無関係な客はとばっちりだが…… 全 員 ブ チ の め す ッ! 」
その承太郎の言葉に花京院口は「えっ」と目を見開く。 そして次の刹那、アゲハと花京院、家出少女を除いた三人は、茶屋でくつろいでいた男達へ襲いかかったのだ。
「お……おいッ!無茶なっ承太郎!やめろ!ジョースターさんあなたまで……やり過ぎですッ!!……帝ッ、君も何か言ったらどうなんだ!? 」
ジョセフ達を止めようと声を荒らげる花京院は、何故か隣でだんまりを決め込む アゲハにも少々怒りを込めた声で訴える。しかし、振り向いた先で彼の言葉を聞き流すアゲハは銃を取り出し例の車に照準を合わせていた。
「……私はこうするのが一番手っ取り早いと思うよ?」
そう言って三回ほど銃声を鳴らした アゲハは「命中したッ! 」と明るい声を上げる。しかし、隣にいた花京院は顔を険しくすると「まだだ!」と叫び自身のヴィジョンを露わにする。
「エメラルドスプラッシュッ!! 」
ショットガン並みの威力を持つエメラルドスプラッシュが、その車に襲いかかる。
しかしエネルギー弾がボディに命中しそうになったその次の瞬間、車は足早に走り去って行ってしまった。
躱された攻撃は地面を抉り、店主は恐怖に声を上げた。 アゲハは悔しそうに目を細めると銃をケースに仕舞いモニターで車を追跡する。
「……花京院、あの車のドライバー、貴方のエメラルドスプラッシュが見えていたんじゃない? 」
「僕もそう思う……それに君の弾丸を弾いていただろう……そんな芸当、普通の車には出来るわけがない」
花京院と アゲハは目を合わせると頷きあった。二人はあの車のドライバーがスタンド使いであると確信したのだ。
「誰かやつの顔を見たか!? 」
「いいえ……またもや顔だけは見えませんでした」
「追っかけてとっ捕まえてはっきりさせん事にはイラついてしょうがねーぜ! 」
そう言うポルナレフの言葉に アゲハと花京院は再び顔を見合わせる。アゲハはモニターをちらりと確認したあと、先程感じたままを話し始めた。
「あの車……私の弾丸を三発も弾いたんです。それに花京院のエメラルドスプラッシュをくらう直前に逃げ出した……あいつは絶対にスタンド使いの追手です!」
「……僕も彼女に同意見です。ですが二人ともスタンドを見たわけではないので……どんな能力なのかまでは分かりません」
どことなく悔しそうな顔の アゲハは俯いてしまった。花京院はそんな彼女に気づいたが特に何も言うことはなかった。
「スタンド使いだろうがやってやるぜ! 俺はよ!トラックとの正面衝突の恨みもあるしなッ! 」
「……相手はスタンド使い、今まで以上に慎重に運転するんだぞ。ポルナレフ」
急ぎ足で車へ向かうポルナレフに アゲハは声をかける。怒りで今にでも追いかけたい気持ちの彼に話しかけるのは申し訳ないなと思ったアゲハだったが、彼女は彼女であのスタンド使いに思うところがあったのだ。
「私、あの車に追いつくまでナビゲーションするよ!まだ追跡出来てるんだ!」
「よしッ!じゃあナビは任せたぜ!」
アゲハはポルナレフならそう言ってくれると信じていたので「任せてッ! 」と明るく返した。するとポルナレフが不意に「じゃ、お前助手席ね」と平然と言い放つ。
「ちょっ、花京院ははどこに座るのさ?後ろの席はいっぱいいっぱいだよ」
「……? お前が花京院の膝の上に座ればいいだろ?」
突然雷が頭の上に落ちてきたような感覚がした。アゲハは一瞬理解ができなかったが、一拍置いて理解する。突然何を言っているのかと抗議しようと口を開きかけた瞬間、先を越された。
「僕は別に構わないが?」
そんな二人の間に入ってきたのは花京院で アゲハは思わず声を上げそうになる。
「やり返してやるつもりなんだろう? 僕は止めないよ」
「花京院……」
アゲハはあの車に銃弾を弾かれた事を悔しがっていた。自身の弱さゆえに逃がしてしまったことにも。
「パキスタンへの道案内は僕に任せてくれないか。君はあの車を頼む」
「……うん! 」
深く頷いたアゲハは先を行くジョセフ達に続き車に乗り込んだ。