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chapter2. TAROT

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運命の車輪ホイールオブ・フォーチュン


「インドも北部へ来るとくるとヒマラヤも近いせいかさすがに肌寒いな」

「……それにこの辺りは人も住んでいないみたいだね……木や岩ばっかり」

パキスタン国境沿いを進むジョースター一行は舗装もされていない道幅の狭い山道を走っていた。凸凹と車体が揺れるたび、運転するポルナレフは大変そうだとアゲハは彼の背中を見つめた。

「……前の車チンタラ走ってんじゃねーぜ。邪魔だ」

 少し苛立った様子のポルナレフの言う通り、前方を走る車は先を急ぐジョースター一行にとっては速度不足で焦れったい。
見た目も古ぼけていてジョースター一行を乗せる最新式のランドクルーザーに比べれば性能は大きく劣っているのは明らかだ。

「ヨッ、追い抜くぜ! 」

 ポルナレフの掛け声とともに車体はグイッと揺れ急加速により前方の車を追い抜く。
車内は揺れ、アゲハはジョセフの方へ傾いた。
 そんな荒い運転に花京院はポルナレフに文句を言うが、当の本人は四輪駆動の運転性の良さに惚れ惚れだ。

「ポルナレフ、今の車へ小石を跳ね飛ばしてぶつけたんじゃあないのか!?」

 事故やトラブルは今……困るぞ。と言うジョセフにアゲハも心配した顔で頷く。注意を受けた当の本人は特に気にした様子もない。

「『ひょっとすると』わしは、聖地ベナレスでの医者殺しの容疑で、警察に指名手配されとる『かもしれん』のだからのォ〜 無事国境は越えたいわい」

 そう言ったジョセフに、花京院は
「しかし……インドとももう、お別れですね」つぶやくようして応える。
 そんな皆を前にアゲハは何も言えなかった。アヴドゥルを目の前で失ってしまった彼らに変わって言葉を発することなど出来るわけがなかった。

 しんみりとした雰囲気が流れる中、それを打ち破るように突然ポルナレフが「げっ」と口をこぼす。
 それを聞き逃さなかったアゲハがフロントガラスから前方を覗き見ようと腰を浮かしたその時だった、ジョースター一行を乗せたランドクルーザーは急ブレーキをかけて急停止したのだ。

「おいおい、世話かけさせるんじゃあねーぜ」

「あ、ありがとうJOJO……」

運悪くフロントガラスに突っ込んでしまいそうになったアゲハを助けたのはスタープラチナだった。浮いた体を捕まえてシートに戻してくれたのだ。

「どうしたんだポルナレフッ!どうして急ブレーキを!? 」

 そう言う花京院もどこかをぶつけたのか痛そうな顔をしている。皆口々にどうしたんだと言っているのだが、当の本人はある一点を見てワナワナと目を見開いている。

「ち……ちがうぜ、み、見ろよッ あそこに立ってやがるッ! し……信じらんねぇッ」

 ポルナレフの視線の先を辿るとそこにはあの時の、香港沖で出会ったという少女の姿があった。承太郎とアゲハを除く三人は驚きの表情を見せる。そんな中承太郎は「……やれやれだ」と帽子の唾を下げた。

「よっ! また会っちゃったねッ 乗っけてってくれるーーッ! 」

 明るく大きな声で言う家出少女に花京院は
「君はシンガポールで別れた筈の……」と声をふるわせる。それに対して彼女はふんぞり返った態度で
「嘘に決まってんじゃねーかそんなもんッ」とうそぶいた。
 後部座席のドアを開けた家出少女は座る場所がないのに気付くと無理矢理アゲハと承太郎の間に座り込む。既に定員オーバーの後部座席はギュウギュウだ。

「おい待て! 誰が乗せると言った!? なぜインドにいるッ 」

「まぁーいいじゃないの!気にしないで一緒に旅行させてよ。楽しいんだもん! 」

「駄目だ 足でまといだ! この子にとっても危険だッ」

 狭い車内で言い合う三人。アゲハはチラリと承太郎の顔色を伺った……機嫌は良くはない様だ。自分がこの会話に入っても良いことは無いだろうとアゲハは沈黙を貫くことにした。

「ねェ!ポルノみる? インドのポルノ!」

「こらっ! 子供がそんなモン持ってんじゃねーぜ! 」

「……しかしよくひとりでこんな所まですごい生活力のある子だな」

 アゲハは再び承太郎の顔色を伺った……すこぶる機嫌は良くない様だ。
アゲハが承太郎の機嫌を伺っている間も常に言い合いは続く。もうこれは無駄だとアゲハは耳を塞ぐ。

「えぇーッ! いいじゃん乗せてよッ」

「ダメ、ダメッ、ダメダメダメダメダメダメじゃ! 」

「やかましいッ! うっとおしいぜッ!! おまえらッ! 」

 承太郎が落とした雷で車内は静かになった。皆顔がしょんぼりしている。騒がしくしていなかったアゲハも突然の怒号に心臓が傷んだようでジンジンする……これはホラー映画のドッキリシーンを見たあとに通ずる。

「国境までだ。そこで飛行機代渡してそのこの国まで乗せてやってやればいいだろう。……ホンコンだったな」

 確かにここに幼い少女を着の身着のまま置いていくのはさすがに酷だ。これが妥当な判断なのだろう、とアゲハは思った。
ポルナレフはしょんぼりとした様子でギアをドライブに入れると再び走り出した。



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「だってあたし女の子よ。もう少しでブラジャーだってするしさ、男の子の為に爪だって磨くわ! そんな年頃になって世界を放浪するなんてみっともないでしょ。今しかないのよ、今しか! 家出して世界を見て歩くのは……そうでしょう? 」

 家出少女の力説に賛同どころか返事をするものすらこの場にはいなかった。
恐らく頭の中にも入ってきていないのではないかと言うほどのシカトぶりでアゲハは心の中で少女を哀れむ。

「……さっき追い越した車だ、急いでいるようだな」

 そんな中、不意にそう告げた承太郎の言葉に皆の視線が後ろを走る車に向く。確かにあの時前を走っていた古めかしい車だ。

「ポルナレフ、片側によって先に行かせてやりなさい」

 その言葉に「あぁ」と返事をしたポルナレフが後続車に先を譲る為に道路の片側へ出てやる。しかしその車は追い抜かすと共にジョセフ達の前に何故かびったりとつけてきた。これでは先に行かせてやった意味が無い。

「どういうつもりだ? またトロトロ走り始めたぞ。譲ってやったんだからどんどん先行けよッ! 」

「君がさっき荒っぽいことをやったから怒ったんじゃあないですか? 」

 怒るポルナレフに窘めるようにして指摘する花京院。その後ろでは承太郎が何か考え込んでいる様な表情を浮かべている。

「……運転していたやつの顔は見たか? 」

「いや……窓が埃まみれのせいか見えなかったぜ」

「お前もか……まさか追手のスタンド使いじゃあないだろうな」

 ジョセフがポルナレフに注意を怠らないように釘を刺す中、アゲハはモニターで前の車の人間を調べる……運転手は小柄な男だろうか。
 すると次の刹那、不意に前を走る車の窓が開く。そこから腕を出し、先に行ってくれと合図を出した男の腕は彼女が先ほど見た姿とは打って変わってとてつもなく逞しい。

「……プッ、先に行けだとよ。どーやらてめーの車の性能がボロくてスピードが長続きしねーのを思い出したらしいな」

 悪態を着きながら追い越す為に反対車線へ飛び出そうとするポルナレフ。その後ろで前方を探っていたアゲハは迷惑車両の先にトラックを捉え叫ぶ。

「ポルナレフッ、今はまずいッ! 車線を出ちゃ駄目だーッ!」

 しかし前の車を追い越す為にスピードを上げていた車がそう簡単に止まるわけもないーーそもそもポルナレフがブレーキに足をかけた時には既に目の前にトラックが姿を現していたのだ。

「なにィ!! うああああ! トラック! バカなッ駄目だッ! ぶつかるーッ!! 」

 ジョセフ達は個人個人で衝撃に備える体制をとる。アゲハは驚いた顔の家出少女を抱き抱えると目をぎゅっと瞑った。

「スタープラチナッ!」

 アゲハがそんな承太郎の声に目を開ければ、スタープラチナがトラックを殴りつける姿が映った。ジョセフ達を乗せた車は、その反動を利用して見事正面衝突を逃れられたらしいーーへなへなと、アゲハの肩から力が抜ける。

「スタープラチナで衝突を防がなかったら即死だったぜッ! 」

 なんとか助かったジョセフ達はいよいよあの車が悪意を持って攻撃を仕掛けてきたと判断し、その行方を知ろうと声を上げる。

「どこじゃ! あの車はどこじゃ!! 」

「……どうやらあのまま走り去ったらしいな」

 そう言った承太郎から目配せをうけたアゲハがモニター画面を見るとその車はすでに遠くへ走っていってしまっていた。あの車ーーオンボロの割にはいいスピードが出せるようだ。

「でもまだ観測の出来る範囲にいるよ。一応見えなくなるまで私が見ておくね」

「あぁ……ところでどう思う? 今の車の野郎『追手のスタンド使い』だと思うか? それともただの精神のねじ曲がった悪質な難癖野郎だと思うか? 」

その承太郎の質問に真っ先に答えたのはポルナレフだった。彼は息を荒らげ叫ぶ。

「追手に決まってるだろうよォーーッ!! 俺達は殺される所だったんだぜッ」

「だがしかし、今のところスタンドらしい攻撃は全然ありませんでしたよ」

「あの時スコープで車内を覗いたんだけど、スタンドは見えなかったんだ。ヴィジョンをまだ出していないだけかもしれないけど……」

 後に続く花京院とアゲハの発言もあり、一概に追手だと決めつけるのは誤りであると判断したジョセフは「ううむ……」と、唸る。

「……エンジンは異常なさそうだぜ。どうする?」

「とりあえず今は慎重にパキスタン国境を超えるしかないじゃろう。もう一度あの車が何か仕掛けてきたらソイツがなんだろうがブチのめそう」

 その後、気絶したトラックの運転手を救助した一行は慎重に車を走らせパキスタン国境を目指した。

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