DayDreamTravelers
私、帝アゲハは全てに置いて平凡だ。
身長体重容姿においてなど、多くもなければ少なくもない友人達は私のことを《普通》という。
それは事実だったし自分でも自分のことをそう認識していた。普通であることは私にとって《安心》でもあったのだ。
そんなどこにでもいそうなごく普通な私にも他人に誇れるものがある。それはとても大切な家族の存在だ。
身内の私が言うのも変だけど凄くいい人たちで全員が全員の良き理解者。
次の十月には連休をとって少し早い高校の卒業旅行へ連れていってくれるらしい。行先はエジプト、いまから楽しみである。
……そんな訳でとりあえず手始めに旅行で着ていく服を買うためのアルバイトを始めようと思う。SHIPSのトレーナーも欲しいし、もっと欲を言うとクレージュのお弁当箱型ショルダーも欲しい!
人生初の海外旅行決定記念の第一歩として本日からこうして日記をつけることとする! 八月九日
少女は手元にあった小綺麗な日記帳をパタンとわざとらしく音を立てて閉じると自分のことながら
「見事な一日坊主だわ」と苦笑いを零す。
前回日記をつけてから約二ヶ月。すっかり失念していた。
本当に偶然、三日後に迎えたエジプト旅行への準備の最中に見つけた新品同様の小綺麗なリングノートの日記帳。まさか日記をつけてまだ一回しか記録していないなんて!と半ば呆れるけれど「まあそんなものか」とどこか納得する自分もいた。
「でも使わないと勿体ないかなあ……せっかく可愛いノート使ってるんだし」
そう呟いた少女は早速荷造りを中断し勉強机へ向かう。高校受験前日に友人とお揃いで購入した色とりどりのフルーツがプリントされたボールペンを得意げにくるりと回し、日記帳に走らせた。
楽しい旅行になりますように!! 十月十日
そうして、彼女は次いつ開くことになるかわからない日記帳を机の引き出しに無造作突っ込むといよいよ明明後日に迫ったエジプト旅行への準備を再開させた。
運命の歯車は着々と時を刻み続けている。
「十一月〇〇日、午前七時のニュースです」
ところ変わってーー霜が道路を覆うとある朝、キッチンでは空条ホリィが純和風な手の込んだ朝食をちょうど作り終えたときの事だった。
天気予報が終わってCMが開け、男性アナウンサーがカメラの正面に立ちこちらに向かって今日の日付と時間を知らせる。
そして絶妙な間の後に
「今日のトピックスです」とアナウンサーが言うと同時に可愛い愛息子である空条承太郎が自室からリビングへと顔を出した。
愛しい息子へニコリと笑顔で挨拶をするホリィに鬱陶しいと言わんばかりの仏頂面の承太郎。だが彼とて母を愛しいと思っていないわけではない、ぶっきらぼうに挨拶を返すと既に用意されていた食卓についた。
「ー……エジプトにて行方がわからなくなった日本人旅行者一家についての目撃情報は未だ入ってきておりません」
何時もより静かな食卓と何時もはつけていないテレビの音がリビングを支配していたーーそれは何週間か前から彼らの周りでずっと話題になっていたとある事件だった。
行方不明となったのが『この街に住む』家族だったというのが大きいのか承太郎の学校やホリィの行くスーパーなどでもこの事件は話のタネとなっていた。
承太郎もホリィも特にその家族と関わったことはないにせよ少しばかり気になってしまっていたらしい。特にニュースを耳にしたホリィは少し悲しそうな表情を浮かべた。
無事に今日も『忘れ物と称したキス』を受けた承太郎は学生帽を深く被り薄っぺらな学生鞄を片手に通学路を歩く。……もちろん後ろを着いて歩く女子生徒の黄色い悲鳴は無視に限る。
「キャ!あの人すっごいハンサムだったわぁ……」
「ね!かっこいいわぁ〜……」
承太郎はすれ違いざまに声を潜めて話す他校の女子生徒を視線で追う。彼女達の纏っていたセーラー服を見て、今朝のニュースの行方不明者の一人がそこの女子生徒と同じセーラー服を着ていたことを思い出したのだ。
確かたまたまクラスで小耳に挟んだ……いや、廊下だったかもしれない。
それほどまでにあの一家についての噂はまるで今朝積もった霜のようにこの街全てを覆っていた。
この状態は学校に着いてからも続いたので、言い方は悪いかもしれないがうっとおしい気分になった承太郎は屋上へタバコを吸いに行ったのだった。
それから数日後、承太郎は自ら留置場へ入り、心配したホリィが連れてきたジョセフ・ジョースターとモハメド・アヴドゥルと出会うこととなる……すでに物語の扉は開かれているのだ。