03.唐揚げウォーズ
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「ワシがおらん間に、ずいぶん仲良うなったのう名前」
突然声がして、ズシリ、頭が重くなる。
「あ、仁王じゃん。てか、重い重い!」
どこか行っていたらしい仁王が、座ってる私の頭上に腕を置いて体重をかけてきやがった。
「これくらいでねをあげるとは、女子テニス部部長もたいしたことないのう」
「くっ…!あーあー、軽い軽い!まるで羽のようですことよ!」
おーっほほほほ!と高笑いしながら必死に首に力を入れる。
くそ、本当に手加減なしじゃないか!
こっちは女子ですよ!?うら若き乙女ですよ!?
それなのにこの仕打ち…絶対私を男だと思っているに違いない。
いいさ、やってやろうじゃないのよ!
首がお陀仏するまで耐えてやろうじゃないの!
私はそう決意したが、ブン太くんの「そこらでやめてやれよぃ」の一言によって平和が訪れた。
あぁ、助かった。
「君には手加減という言葉を知らんのかね!」
頭にのせられただけの腕をどけながらぎろりと睨む。
仁王はいつもと同じく意地悪そうな笑みを浮かべて…。
いや、なんかおかしい。
「仁王、どうしたの?」
私は仁王に向き合い、顔を凝視する。
一見いつも通りに見えるが、何かが違う。
なんか、不機嫌…?
「別に。いつも通りじゃ」
「いやいや、絶対なんかあるでしょ」
「気のせいじゃろ」
そう言って仁王は、ふいっと顔を背ける。
なんだ、そのわかりやすい反応は。
「こいつ、さっきからずっとこっち見てたぜ」
このやり取りを横で見ていたブン太くんがあっさりと口を挟んだ。
「丸井…」
「なんだよ、本当のことだろい」
さっきから見ていた?
私とブン太くんが話しているところを?
そこで、私はハッとした。
「まさか……」
「なんじゃ」
「仁王もこの唐揚げ食べたいんでしょ!」
ビシッと効果音が付きそうな勢いで指をさす。
すると、仁王は目を若干大きくしたかと思うと、不服そうに眉間にしわを寄せた。
「俺が唐揚げ一個ごときですねると思うとるんか?」
「ごときってなんだいごときって!いいかい?この唐揚げ一個だけでご飯が何口進むと思ってるんだい!」
まったく失礼しちゃう!
お前には呆れました~みたいな顔しやがって!
「じゃあ仁王はいらないのね!」
「いらんとは言っとらん」
結局いるんじゃないか。
仕方がないな~この困ったちゃんは。
ほら。と言いながら弁当箱を仁王の目の前に差し出す。
ブン太くんと同じですぐにつまんで食べだすかと思いきや…。
「ん」
口を開けて指をさしていたのだ。
食べさせろと、ジェスチャーしていた。
「いや…。いやいやいや…自分で食べなよ」
「手が汚れるのは嫌なんじゃ」
「だ、だったら箸貸してあげるから。ほら」
「今日は朝練がきつくてのう。力が入らん」
う、うそつけ!
午前中問題なく活動してただろう!
だ、だだだ、だってあれだよ!?食べさせるってことは、つまり、所謂「あーん」ってやつだよね!?
あれって恋人同士の戯れ的な奴じゃなかったっけ?
それをやれと?こんなところで?仁王に?
恥ずかしすぎる…。
公開処刑もいいところだ。
ブン太くん助けて…。
そういう意味を込めて視線を滑らせると、面白いものを見つけたような顔をしてこちらを凝視していた。
そして、私に向かってとびきりの笑顔で親指を立てた。
『やれ』
あれにはそういう意味が込められているのだ。
ブン太くん、あなたって人も仁王と同じだったのね…。
私は観念して、ちょうどいい大きさの唐揚げを一つ箸でつまんだ。
たかが唐揚げだ。
仁王の口に放り込んでしまえば、ものの数秒で終わる。
そう。たった、それだけのこと。
なのに仁王に向き直った瞬間、軽く開かれた薄い唇が目に入り、箸を持つ手がぴたりと止まった。
近い。
さっきまで頭に腕を置かれていたときは、重いだの首が折れるだのと騒ぐ余裕があったのに、今は仁王の顔が妙に近く感じられる。
視線を上げれば、仁王は唐揚げではなく、まっすぐ私を見ていた。
な、なんでこっちを見るんだ。
食べ物を見ろ、食べ物を!
早く口へ突っ込んでしまえば終わるのに、心臓がうるさくて腕が動かない。
その瞬間だった。
「遅い」
しびれを切らした仁王が、私の手首をつかんだ。
素肌に触れた手のひらが、思っていたよりも熱い。
「ちょっ――」
そのまま軽く引き寄せられる。
唐揚げを挟んだ箸が仁王の口元へ近づき、薄い唇がそれを迎えるように開いた。
ぱくり。
一瞬、唇が箸先に触れたように見えた。
ただそれだけなのに、なぜか自分の指先まで触れられたような錯覚がして、背筋がびくりと震える。
仁王は何事もなかったかのように唐揚げを咀嚼している。
けれど、私の手首をつかんだ手は、まだ離れていなかった。
「あ、あの……仁王?」
呼びかけて、ようやく手が解放される。
仁王は飲み込むと、わずかに口角を上げた。
「まあまあじゃな」
そう言いながら、口の端についた衣を舌先でさらう。
どくん、と心臓が大きく跳ねた。
私は慌てて視線を弁当箱へ落とす。
なんだ今のは。
唐揚げを一個食べさせただけだぞ。
それなのに、顔が熱い。
手首には、仁王の手の感触がまだ残っているような気がした。
突然声がして、ズシリ、頭が重くなる。
「あ、仁王じゃん。てか、重い重い!」
どこか行っていたらしい仁王が、座ってる私の頭上に腕を置いて体重をかけてきやがった。
「これくらいでねをあげるとは、女子テニス部部長もたいしたことないのう」
「くっ…!あーあー、軽い軽い!まるで羽のようですことよ!」
おーっほほほほ!と高笑いしながら必死に首に力を入れる。
くそ、本当に手加減なしじゃないか!
こっちは女子ですよ!?うら若き乙女ですよ!?
それなのにこの仕打ち…絶対私を男だと思っているに違いない。
いいさ、やってやろうじゃないのよ!
首がお陀仏するまで耐えてやろうじゃないの!
私はそう決意したが、ブン太くんの「そこらでやめてやれよぃ」の一言によって平和が訪れた。
あぁ、助かった。
「君には手加減という言葉を知らんのかね!」
頭にのせられただけの腕をどけながらぎろりと睨む。
仁王はいつもと同じく意地悪そうな笑みを浮かべて…。
いや、なんかおかしい。
「仁王、どうしたの?」
私は仁王に向き合い、顔を凝視する。
一見いつも通りに見えるが、何かが違う。
なんか、不機嫌…?
「別に。いつも通りじゃ」
「いやいや、絶対なんかあるでしょ」
「気のせいじゃろ」
そう言って仁王は、ふいっと顔を背ける。
なんだ、そのわかりやすい反応は。
「こいつ、さっきからずっとこっち見てたぜ」
このやり取りを横で見ていたブン太くんがあっさりと口を挟んだ。
「丸井…」
「なんだよ、本当のことだろい」
さっきから見ていた?
私とブン太くんが話しているところを?
そこで、私はハッとした。
「まさか……」
「なんじゃ」
「仁王もこの唐揚げ食べたいんでしょ!」
ビシッと効果音が付きそうな勢いで指をさす。
すると、仁王は目を若干大きくしたかと思うと、不服そうに眉間にしわを寄せた。
「俺が唐揚げ一個ごときですねると思うとるんか?」
「ごときってなんだいごときって!いいかい?この唐揚げ一個だけでご飯が何口進むと思ってるんだい!」
まったく失礼しちゃう!
お前には呆れました~みたいな顔しやがって!
「じゃあ仁王はいらないのね!」
「いらんとは言っとらん」
結局いるんじゃないか。
仕方がないな~この困ったちゃんは。
ほら。と言いながら弁当箱を仁王の目の前に差し出す。
ブン太くんと同じですぐにつまんで食べだすかと思いきや…。
「ん」
口を開けて指をさしていたのだ。
食べさせろと、ジェスチャーしていた。
「いや…。いやいやいや…自分で食べなよ」
「手が汚れるのは嫌なんじゃ」
「だ、だったら箸貸してあげるから。ほら」
「今日は朝練がきつくてのう。力が入らん」
う、うそつけ!
午前中問題なく活動してただろう!
だ、だだだ、だってあれだよ!?食べさせるってことは、つまり、所謂「あーん」ってやつだよね!?
あれって恋人同士の戯れ的な奴じゃなかったっけ?
それをやれと?こんなところで?仁王に?
恥ずかしすぎる…。
公開処刑もいいところだ。
ブン太くん助けて…。
そういう意味を込めて視線を滑らせると、面白いものを見つけたような顔をしてこちらを凝視していた。
そして、私に向かってとびきりの笑顔で親指を立てた。
『やれ』
あれにはそういう意味が込められているのだ。
ブン太くん、あなたって人も仁王と同じだったのね…。
私は観念して、ちょうどいい大きさの唐揚げを一つ箸でつまんだ。
たかが唐揚げだ。
仁王の口に放り込んでしまえば、ものの数秒で終わる。
そう。たった、それだけのこと。
なのに仁王に向き直った瞬間、軽く開かれた薄い唇が目に入り、箸を持つ手がぴたりと止まった。
近い。
さっきまで頭に腕を置かれていたときは、重いだの首が折れるだのと騒ぐ余裕があったのに、今は仁王の顔が妙に近く感じられる。
視線を上げれば、仁王は唐揚げではなく、まっすぐ私を見ていた。
な、なんでこっちを見るんだ。
食べ物を見ろ、食べ物を!
早く口へ突っ込んでしまえば終わるのに、心臓がうるさくて腕が動かない。
その瞬間だった。
「遅い」
しびれを切らした仁王が、私の手首をつかんだ。
素肌に触れた手のひらが、思っていたよりも熱い。
「ちょっ――」
そのまま軽く引き寄せられる。
唐揚げを挟んだ箸が仁王の口元へ近づき、薄い唇がそれを迎えるように開いた。
ぱくり。
一瞬、唇が箸先に触れたように見えた。
ただそれだけなのに、なぜか自分の指先まで触れられたような錯覚がして、背筋がびくりと震える。
仁王は何事もなかったかのように唐揚げを咀嚼している。
けれど、私の手首をつかんだ手は、まだ離れていなかった。
「あ、あの……仁王?」
呼びかけて、ようやく手が解放される。
仁王は飲み込むと、わずかに口角を上げた。
「まあまあじゃな」
そう言いながら、口の端についた衣を舌先でさらう。
どくん、と心臓が大きく跳ねた。
私は慌てて視線を弁当箱へ落とす。
なんだ今のは。
唐揚げを一個食べさせただけだぞ。
それなのに、顔が熱い。
手首には、仁王の手の感触がまだ残っているような気がした。
