02.銀髪の同級生
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一年前、二年生の始業式の日。
この日、朝から私のテンションは地の底に落ちていた。
友達の椿と別のクラスになってしまったからだ。
チクショー!私が何したってんだ!
普段の行いはいい方だと思うぞ⁉
心の中で悪態をつきながら勢いよく教室の扉を開ける。
そこで、見つけたのだ。
新しい教室の窓際に、銀髪の男子が座っているのを見たとき、私は真っ先にこう思った。
…いや、目立ちすぎでは?
思わず心の中でツッコミを入れてしまうほど、彼は目立っていた。
春の光を浴びて、銀色の髪がきらきらしている。
別に本人が何かしているわけではない。
ただ窓際に座って外を見ているだけだ。
それなのに、やたらと目を引く。
なんというか、普通に教室にいるには浮いていた。
良い意味でも、悪い意味でも。
「ねえ、あれ……仁王くんじゃない?」
教室のどこかから、小さな声が聞こえた。
仁王?
その名前に、私は思わず銀髪の男子を二度見した。
仁王雅治。
一年生の頃から名前だけは知っていた。
男子テニス部の、女子にやたら騒がれている人。
背が高くて、少し気だるげで。
廊下を歩くだけで女子が振り返る、いわゆる“目立つ男子”。
だけど、私の記憶の中の仁王雅治は、黒髪だった。
今、目の前の彼は銀髪だ。
……え、何があった?
春休みの間に異世界でも行ってきたのか?
それとも、髪色チェンジでイメチェン大成功キャンペーン中なのか?
いや、大成功だよ!なんたって顔がいいんだからね!
顔が良い人は何やっても似合うからいいよね!
それも相まってか余計に目立つ。
とにかく目立つ。
「仁王くん、髪染めたんだ…」
「すごい色だけど、めっちゃ似合ってない?」
「でも、なんか前より話しかけにくいよね…?」
ひそひそ声が、あちこちで生まれては消えていく。
その声が聞こえているのか、いないのか。
仁王くんは窓の外を見たまま、ぴくりとも動かなかった。
彼の噂は1年のころから絶えず聞こえていた。
テストの点数がどうだの、身体測定でどうだの。
挙句の果てには誰と付き合ってるとか、10股をかけているなんて根も葉もない話を耳にしたこともある。
きっと彼は、騒がれることには慣れているんだろうな。
でも、そんな生活は…なんというか…健全じゃないというか…。
自分の一挙手一投足が常に監視され、最悪の場合あらぬ火種を生んでしまう。
そんな毎日は、想像しただけでうんざりする。
仁王もそうなのだろうか。
先ほどまで何も考えずぼーっとしているような表情が、どこか諦めたような…そんな風にも見えた。
相手の気持ちを勝手に推測して勝手に気に掛けるなんて、これじゃ私もみんなと一緒だ。
「…ま、いいか」
私は小さくつぶやいて、自分の席を探した。
黒板に貼られた座席表を確認すると、私の席は真ん中あたり。
そして、問題の銀髪男子——仁王の席は、斜め後ろだった。
近い。
いや、近いな?
別に話す予定なんてない。
ないけど、こういう目立つ存在が近くにいると、妙に落ち着かない。
私は席に鞄を置いて、椅子に座った。
騒がしい教室の中、どこからともなく聞こえる声が、嫌でも耳に入ってくる。
「やっぱりさ、あの噂本当だったのかな?」
「あぁ、何股もしてたってアレ?」
「そうそう。で、その中の一人がやばい先輩の彼女だったとか?」
「え、じゃあ見せしめに染められたってこと?」
「いや、ストレスで色抜けたんじゃない?」
…待て待て待て。
なんでそういう話になる?
というか、本人がいる前でそんな突拍子もない話をする奴があるかい!
私はちらりと本人の様子を盗み見る。
本人は、相変わらず窓の外を見たまま動かない。
聞こえていないのか。
聞こえているけど、聞こえていないふりをしているのか。
正直、私も驚いた。
驚いたけど。
髪色を変えただけで、何股だの見せしめだのストレスだの、よくそこまで話を広げられるなと思った。
もはや噂というより、昼ドラの脚本でも書いているのかとさえ思う。
「でもさ、前の方がよかったよね」
近くの女子が、そう言った。
その言葉に、私は思わず口を挟んでしまった。
我慢、できなかったのだ。
「いや、髪色変えただけで事件性持たせすぎじゃない?」
言ったあとで、しまったと思った。
別に大きな声を出したつもりはない。
だけど、周囲の声が一瞬だけ止まったせいで、自分の声がやけにはっきり響いた気がした。
クラスメイト達が私に一斉に目を向ける。
もちろん、仁王も。
やばい。
やばいやばいやばい!!!
新学期早々、余計なことを言ったかもしれない。
いや、確実に言ってしまった。
私は馬鹿だ。大馬鹿者だ!!!
何か言わなければ…この状況を打開できる画期的かつキャッチーな一言を!
私は小さな脳みそをフル回転させて考えた。
そして…。
「わ、私は、超似合ってると思いまーす!!!!!」
手を天高く上げ、私は高らかに言ってのけた。
お、終わった…。
いや、似合ってるのは本心だよ!本心だけれども!
絶対今じゃなかっただろ!!!
案の定、しんと静まる教室。
このいたたまれない空間がずっと続くのかと、そう絶望した時だった。
「…ク…クク…」
誰だ。
この地獄みたいな空気で笑える猛者は。
あたりを見回したが、その本人は意外にも近くにいる人物だった。
私の斜め後ろ。
仁王が口元を隠し、小刻みに肩を震わせていた。
この日、朝から私のテンションは地の底に落ちていた。
友達の椿と別のクラスになってしまったからだ。
チクショー!私が何したってんだ!
普段の行いはいい方だと思うぞ⁉
心の中で悪態をつきながら勢いよく教室の扉を開ける。
そこで、見つけたのだ。
新しい教室の窓際に、銀髪の男子が座っているのを見たとき、私は真っ先にこう思った。
…いや、目立ちすぎでは?
思わず心の中でツッコミを入れてしまうほど、彼は目立っていた。
春の光を浴びて、銀色の髪がきらきらしている。
別に本人が何かしているわけではない。
ただ窓際に座って外を見ているだけだ。
それなのに、やたらと目を引く。
なんというか、普通に教室にいるには浮いていた。
良い意味でも、悪い意味でも。
「ねえ、あれ……仁王くんじゃない?」
教室のどこかから、小さな声が聞こえた。
仁王?
その名前に、私は思わず銀髪の男子を二度見した。
仁王雅治。
一年生の頃から名前だけは知っていた。
男子テニス部の、女子にやたら騒がれている人。
背が高くて、少し気だるげで。
廊下を歩くだけで女子が振り返る、いわゆる“目立つ男子”。
だけど、私の記憶の中の仁王雅治は、黒髪だった。
今、目の前の彼は銀髪だ。
……え、何があった?
春休みの間に異世界でも行ってきたのか?
それとも、髪色チェンジでイメチェン大成功キャンペーン中なのか?
いや、大成功だよ!なんたって顔がいいんだからね!
顔が良い人は何やっても似合うからいいよね!
それも相まってか余計に目立つ。
とにかく目立つ。
「仁王くん、髪染めたんだ…」
「すごい色だけど、めっちゃ似合ってない?」
「でも、なんか前より話しかけにくいよね…?」
ひそひそ声が、あちこちで生まれては消えていく。
その声が聞こえているのか、いないのか。
仁王くんは窓の外を見たまま、ぴくりとも動かなかった。
彼の噂は1年のころから絶えず聞こえていた。
テストの点数がどうだの、身体測定でどうだの。
挙句の果てには誰と付き合ってるとか、10股をかけているなんて根も葉もない話を耳にしたこともある。
きっと彼は、騒がれることには慣れているんだろうな。
でも、そんな生活は…なんというか…健全じゃないというか…。
自分の一挙手一投足が常に監視され、最悪の場合あらぬ火種を生んでしまう。
そんな毎日は、想像しただけでうんざりする。
仁王もそうなのだろうか。
先ほどまで何も考えずぼーっとしているような表情が、どこか諦めたような…そんな風にも見えた。
相手の気持ちを勝手に推測して勝手に気に掛けるなんて、これじゃ私もみんなと一緒だ。
「…ま、いいか」
私は小さくつぶやいて、自分の席を探した。
黒板に貼られた座席表を確認すると、私の席は真ん中あたり。
そして、問題の銀髪男子——仁王の席は、斜め後ろだった。
近い。
いや、近いな?
別に話す予定なんてない。
ないけど、こういう目立つ存在が近くにいると、妙に落ち着かない。
私は席に鞄を置いて、椅子に座った。
騒がしい教室の中、どこからともなく聞こえる声が、嫌でも耳に入ってくる。
「やっぱりさ、あの噂本当だったのかな?」
「あぁ、何股もしてたってアレ?」
「そうそう。で、その中の一人がやばい先輩の彼女だったとか?」
「え、じゃあ見せしめに染められたってこと?」
「いや、ストレスで色抜けたんじゃない?」
…待て待て待て。
なんでそういう話になる?
というか、本人がいる前でそんな突拍子もない話をする奴があるかい!
私はちらりと本人の様子を盗み見る。
本人は、相変わらず窓の外を見たまま動かない。
聞こえていないのか。
聞こえているけど、聞こえていないふりをしているのか。
正直、私も驚いた。
驚いたけど。
髪色を変えただけで、何股だの見せしめだのストレスだの、よくそこまで話を広げられるなと思った。
もはや噂というより、昼ドラの脚本でも書いているのかとさえ思う。
「でもさ、前の方がよかったよね」
近くの女子が、そう言った。
その言葉に、私は思わず口を挟んでしまった。
我慢、できなかったのだ。
「いや、髪色変えただけで事件性持たせすぎじゃない?」
言ったあとで、しまったと思った。
別に大きな声を出したつもりはない。
だけど、周囲の声が一瞬だけ止まったせいで、自分の声がやけにはっきり響いた気がした。
クラスメイト達が私に一斉に目を向ける。
もちろん、仁王も。
やばい。
やばいやばいやばい!!!
新学期早々、余計なことを言ったかもしれない。
いや、確実に言ってしまった。
私は馬鹿だ。大馬鹿者だ!!!
何か言わなければ…この状況を打開できる画期的かつキャッチーな一言を!
私は小さな脳みそをフル回転させて考えた。
そして…。
「わ、私は、超似合ってると思いまーす!!!!!」
手を天高く上げ、私は高らかに言ってのけた。
お、終わった…。
いや、似合ってるのは本心だよ!本心だけれども!
絶対今じゃなかっただろ!!!
案の定、しんと静まる教室。
このいたたまれない空間がずっと続くのかと、そう絶望した時だった。
「…ク…クク…」
誰だ。
この地獄みたいな空気で笑える猛者は。
あたりを見回したが、その本人は意外にも近くにいる人物だった。
私の斜め後ろ。
仁王が口元を隠し、小刻みに肩を震わせていた。
