08.独唱戦隊・ウタウンジャー!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
激しい雨と風に揉まれながら歩くこと、およそ十分。
私たちは学校からほど近いカラオケ店へとたどり着いた。
店内へ足を踏み入れた途端、冷房の冷気が雨で湿った制服を容赦なく冷やした。
「さむっ!」
思わず両腕をさすると、隣にいた仁王が不思議そうにこちらを見下ろす。
「そんなに濡れとらんじゃろ」
「誰のせいだと思ってるの!?」
外は横殴りの雨で、傘なんてほとんど役に立たなかった。
おかげで肩から下はしっとり濡れている。
それなのに、仁王はほぼ無傷だ。
道中、やけにぴったり後ろをついてくると思っていたけれど、どうやら私と傘をまとめて風よけにしていたらしい。
「途中から私の後ろに隠れてたでしょ!」
「小柄でも役に立つもんじゃの」
「それ、絶対褒めてないよね!?」
普通の人であれば女の子を風よけに使うなどという暴挙に出ることはないだろうが、こいつは仁王だ。
普通を求めるだけ無駄なのだ。
私はがっくりと肩を落とした。
受付を済ませ、案内された部屋へ入る。
六人で使うには少し広めの室内には、向かい合うように長いソファが並び、中央のテーブルには二本のマイクと分厚いメニュー表が置かれていた。
「よっしゃ! 一番乗り!」
真っ先に飛び込んだ赤也くんが、鞄を放り投げてソファへ座る。
「赤也、靴で上がるんじゃねーぞ」
「子供じゃないんスから、そんなことしないっスよ!」
注意されながら、上げかけていた足をそっと床へ戻している。
危なかった。
今、確実に上がろうとしていた。
「俺、一曲目な!」
ウキウキとした顔でブン太くんがテーブルの上にあったマイクを手に取る。
「あっ、ずるいっス!俺が先に部屋入ったんだから俺が一曲目っスよ!」
「そんなルールねーだろ」
「今作ったんス!」
「却下!」
残されたもう一本のマイクを赤也くんが掴み、二人は早くも奪い合いを始めた。
まだ曲を入れてすらいないのに、うるさい。
「柳生くん」
「分かっています」
椿に呼ばれた柳生くんが、慣れた様子で二人の間へ割って入る。
「まずは飲み物を注文しましょう。それから順番を決めればよろしいのでは?」
「じゃあ、注文してる間に俺が曲入れとく!」
「丸井先輩、抜け駆けはなしっスよ!」
まるで話を聞いていない。
柳生くんが眼鏡の位置を直しながら、小さく息を吐いた。
椿が彼を頼りにしていた理由を、部屋へ入って一分も経たないうちに理解してしまった。
「お前さん、そこ座らんのか?」
ブン太くんと赤也くんの小競り合いに見とれていた私に仁王が声をかける。
先に入っていた仁王は、ソファの端に腰を下ろし、自分の隣を軽く叩いていた。
「ほかにも席空いてるけど」
「ここが一番画面見やすいぜよ」
そう言われて正面を見る。
確かに、モニターはよく見えるな。
特に深く考えることもなく仁王の隣へ「どっこいしょ」と座ると、向かい側に腰を下ろしたブン太くんが、なぜかニヤリと笑った。
「何?」
「別にー?」
軽く肩をすくめてみせるその顔は、いつも通りの軽い調子のはずなのに。
ほんの一瞬だけ、視線がこちらに留まった気がした。
けれど、すぐにいつもの笑顔へ戻ってしまう。
……気のせいかな。
ブン太くんはそのままマイクをくるくると回しながら、わざとらしく赤也くんに絡み始める。
「ほら赤也、早く曲入れろよ。ビビってんのか?」
「ビビってないっスよ!丸井先輩こそ逃げないでくださいよ!」
いつもの調子に戻ったやり取りを見ているうちに、さっき感じた違和感も薄れていく。
深く考えるのをやめて、私はテーブルの上の曲入力用端末へ手を伸ばした。
さて。
この六人は、一体どんな曲を歌うのだろう。
期待に胸を膨らませながら履歴画面を開いた、その瞬間。
「最初はこれっス!」
赤也くんが意気揚々と立ち上がる。
軽快なイントロとともに、モニターいっぱいに派手な五色の光が弾ける。
表示された曲名は――
『独唱戦隊・ウタウンジャー』
……嫌な予感しかしない。
赤也くんはマイクをひっつかむと、そのまま歌いだす。
『歌え! 叫べ! 響かせろ!』
「ウタウンジャー!!」
カラオケについて早々、しかも一曲目だというのに飛ばしすぎではないのか?
そう思うくらい、赤也くんは全力だった。
呆気にとられている私をよそに、ブン太くんはテーブルに置かれていたもう一本のマイクを素早く手に取る。
『燃やせ! 魂! 真っ赤な炎!』
「ウタウンレッド!」
赤也くんが拳を天井へ突き上げる。
すかさずブン太くんが、その横で腰に手を当てた。
「甘い歌声で敵を惑わす!ウタウンピンク!」
「なんで丸井先輩がピンクなんスか!」
「似合うだろ?」
「自分で言うんスか!?」
歌の最中だというのに、二人はマイク越しに言い合いを始めた。
しかし曲の進行は待ってくれない。
画面には次々と歌詞が流れ、気づけば赤也くんが慌てて二人分のパートを歌っている。
「ちょっ、丸井先輩!次の歌詞来てるっスよ!」
「あ、やべ!」
一曲目からこの有り様である。
いや。
そもそも、なぜ二人とも名乗りと振り付けを完璧に知っているのだろう。
絶対君らウタウンジャー好きだろ。
日曜日の朝からウッキウキでテレビ前待機してるでしょうよ。
中学生男子が早起きして正座しながら画面に釘付けになっているところを想像する。
それはそれでちょっと可愛いか?
そんなことを考えていると丁度頼んでいた飲み物が運ばれてきた。
それに口をつけながら二人の様子を眺める。
『ウタウンジャー、危ない!』
すると突然、画面いっぱいに女性司令官らしき人物が映し出された。
その横には、ご丁寧にセリフまで表示されている。
『今こそ五人の歌声をひとつにするのよ!』
赤也くんが歌いながら、こちらへマイクを突き出した。
「先輩、ここお願いするっス!」
「なんで私!?」
「女の人のセリフだからっス!」
「椿もいるでしょ!」
そう言いながら横に座る椿を指させば、「嫌よ」間髪入れずに拒否された。
せめて一秒くらい考えてほしかったな…。
「早く! 終わっちゃうっス!」
「分かった、分かったから!」
迫りくるセリフのタイミングに急かされ、赤也くんからマイクを受け取る。
そして、画面に表示された文字をそのまま読み上げた。
「今こそ五人の歌声をひとつにするのよ!」
思ったより大きな声が出た。
直後、曲が大きく盛り上がり、赤也くんとブン太くんが一斉にポーズを決める。
「「ウタウンジャー!!」」
…ちょっと待って。
これ、めちゃくちゃ楽しいかもしれない。
次のセリフが画面に映し出される。
『立って!あなたたちの歌は、まだ終わっていないわ!』
文字を目で追いながら、私は先ほどよりも力強くマイクを握りしめた。
「立って!あなたたちの歌は、まだ終わっていないわ!」
「先輩、いい感じっス!」
「もっと熱くいけ!」
二人に煽られ、妙なスイッチが入る。
「みんなの心に、希望の旋律を響かせるのよ!」
今度は立ち上がり、画面に向かって腕を伸ばした。
決まった。
完璧だ。
「お前、こういうの妙にうめーな」
「でしょ?」
褒められて悪い気はしない。
ウタウンジャー自体、見た事ないし歌ってもいないが、誰よりもこの曲を楽しんでいる自信がある。
しかし、赤也くんとブン太くんの二人だけでは、五人分の歌を担当するには無理があったらしい。
二番へ入る頃には、二人とも完全に息を切らしていた。
「柳生! ちょっと手伝ってくれ!」
「なぜ私が」
「このままじゃ歌が終わる前に赤也が死ぬ!」
「まだいけるっス!」
そう叫ぶ赤也くんの声は、すでにかすれていた。
柳生くんはしばらく二人を眺めたあと、仕方がないとでも言うように眼鏡を押し上げた。
「曲の進行を乱すのは感心しませんね」
そう言って、ブン太くんからマイクを受け取る。
画面には、ちょうど新たな戦士の名乗りが表示されていた。
柳生くんはすっと背筋を伸ばし、マイクを口元へ運ぶ。
「静寂を切り裂く、紳士の旋律――ウタウンブルー」
低く、よく通る声が部屋中に響いた。
うまい。
普通にうまい。
一瞬、全員が黙った。
「柳生先輩、めちゃくちゃ歌うまいじゃないっスか!」
「これくらいは普通でしょう」
普通ではない。
期待したオペラではなかった。
オペラではなかったけれど、戦隊ソングに使うには声が重厚すぎる。
柳生くんが加わったことで歌に厚みが増し、赤也くんとブン太くんも再び勢いを取り戻した。
その横で、椿だけがソファに座ったまま、真顔で三人を眺めている。
私はテーブルの端に置かれていたマラカスを手に取った。
「椿はこれね」
「いらない」
「せっかくなんだから!」
「何がせっかくなのよ」
無理やり手に握らせると、椿は心底嫌そうに眉を寄せた。
それでも床へ置いたりはせず、曲に合わせて小さく振り始める。
シャカ。シャカ。シャカ。
真顔だ。
あれだけ騒がしい歌を前にして、寸分の狂いもない一定のリズムで、真顔のままマラカスを振っている。
これだ。
私が見たかったのは、まさにこれだ。
「黒瀬さん、次はあなたのパートのようですよ」
柳生くんが画面を見ながら椿へ告げる。
「私のパート?」
「こちらです」
画面には、黒い衣装をまとった戦士とともに名乗りが表示されていた。
椿は柳生くんと画面を交互に見る。
この場にいるほぼ全員が椿に期待の眼差しを向けていた。
何を言ってもダメと悟ったのか、椿は諦めたようにため息をつくと、差し出されたマイクを受け取った。
「……闇に紛れる、沈黙の旋律。ウタウンブラック」
無表情のまま言い切り、最後にマラカスを一振り。
シャカッ。
「かっこいい!」
「もう帰っていい?」
「駄目!」
即答すると、椿は露骨に嫌そうな顔をした。
そのとき、曲調が突然重々しいものへと変わった。
画面が暗転し、不気味な笑い声とともに悪の首領が姿を現す。
『フハハハハ! 貴様らの歌声など、この私には届かぬ!』
私はすぐさま、隣で頬杖をついていた仁王へマイクを差し出した。
「はい、仁王!」
「なんで俺なんじゃ」
「どう考えても適役でしょ!」
「失礼なやつじゃのう」
そう言いながらも、仁王はマイクを受け取った。
そして画面へ目を向けた次の瞬間。
「フハハハハ!貴様らの歌声など、この俺には届かぬ!」
低く響く、悪役そのものの声が部屋中に轟いた。
うまい。
というか、誰?
先ほどまで隣にいた仁王の声とはまるで違う。
「仁王、すごっ!」
「こんなところでイリュージョン使ってんじゃねーよ!」
「仁王先輩、ずるいっス!悪役だけかっこいいじゃないっスか!」
三人から一斉に声を浴びても、仁王は涼しい顔をしている。
画面に、司令官の次のセリフが映し出された。
私は仁王からマイクを奪い返し、悪の首領を指さした。
「ウタウンジャーは、あなたなんかに負けない!」
仁王が私の手からマイクを半分引き寄せる。
「ならば、その歌声で俺を倒してみるがええ!」
顔が近い。
同じマイクへ向かって叫んでいるせいで、肩までぴったり触れている。
けれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「今よ、ウタウンジャー! 必殺の合唱攻撃よ!」
「「「おおーっ!」」」
赤也くん、ブン太くん、柳生くんが声をそろえる。
椿も無言のまま立ち上がり、マラカスを構えた。
意外とノリノリじゃないか。
そんなことを考えて間もなく、最後のサビが始まる。
仁王は私からマイクを取り上げると、今度は原曲の歌手そっくりの声で歌い始めた。
「仁王、歌えるんじゃん!」
「歌えんとは一言も言っとらんぜよ」
そう返しながら、ちゃっかり赤也くんたちの輪へ加わっていく。
そして最後には、なぜか全員が横一列に並んでいた。
私は拳を天井へ突き上げ、最後の号令を叫ぶ。
「六つの魂を、ひとつの歌声に!」
「「「「「独唱戦隊! ウタウンジャー!!」」」」」
曲の終了と同時に、全員で決めポーズ。
画面には、派手な爆発の映像が映し出されていた。
皆、やり切った顔をしながら肩で息をする。
しばしの沈黙。
私はゆっくりと腕を下ろし、ずっと疑問だった事を口にする。
「……六人がかりで歌っておいて、どこが独唱なの?」
そんな私の問いに答えてくれる人は誰もいなかった。
私たちは学校からほど近いカラオケ店へとたどり着いた。
店内へ足を踏み入れた途端、冷房の冷気が雨で湿った制服を容赦なく冷やした。
「さむっ!」
思わず両腕をさすると、隣にいた仁王が不思議そうにこちらを見下ろす。
「そんなに濡れとらんじゃろ」
「誰のせいだと思ってるの!?」
外は横殴りの雨で、傘なんてほとんど役に立たなかった。
おかげで肩から下はしっとり濡れている。
それなのに、仁王はほぼ無傷だ。
道中、やけにぴったり後ろをついてくると思っていたけれど、どうやら私と傘をまとめて風よけにしていたらしい。
「途中から私の後ろに隠れてたでしょ!」
「小柄でも役に立つもんじゃの」
「それ、絶対褒めてないよね!?」
普通の人であれば女の子を風よけに使うなどという暴挙に出ることはないだろうが、こいつは仁王だ。
普通を求めるだけ無駄なのだ。
私はがっくりと肩を落とした。
受付を済ませ、案内された部屋へ入る。
六人で使うには少し広めの室内には、向かい合うように長いソファが並び、中央のテーブルには二本のマイクと分厚いメニュー表が置かれていた。
「よっしゃ! 一番乗り!」
真っ先に飛び込んだ赤也くんが、鞄を放り投げてソファへ座る。
「赤也、靴で上がるんじゃねーぞ」
「子供じゃないんスから、そんなことしないっスよ!」
注意されながら、上げかけていた足をそっと床へ戻している。
危なかった。
今、確実に上がろうとしていた。
「俺、一曲目な!」
ウキウキとした顔でブン太くんがテーブルの上にあったマイクを手に取る。
「あっ、ずるいっス!俺が先に部屋入ったんだから俺が一曲目っスよ!」
「そんなルールねーだろ」
「今作ったんス!」
「却下!」
残されたもう一本のマイクを赤也くんが掴み、二人は早くも奪い合いを始めた。
まだ曲を入れてすらいないのに、うるさい。
「柳生くん」
「分かっています」
椿に呼ばれた柳生くんが、慣れた様子で二人の間へ割って入る。
「まずは飲み物を注文しましょう。それから順番を決めればよろしいのでは?」
「じゃあ、注文してる間に俺が曲入れとく!」
「丸井先輩、抜け駆けはなしっスよ!」
まるで話を聞いていない。
柳生くんが眼鏡の位置を直しながら、小さく息を吐いた。
椿が彼を頼りにしていた理由を、部屋へ入って一分も経たないうちに理解してしまった。
「お前さん、そこ座らんのか?」
ブン太くんと赤也くんの小競り合いに見とれていた私に仁王が声をかける。
先に入っていた仁王は、ソファの端に腰を下ろし、自分の隣を軽く叩いていた。
「ほかにも席空いてるけど」
「ここが一番画面見やすいぜよ」
そう言われて正面を見る。
確かに、モニターはよく見えるな。
特に深く考えることもなく仁王の隣へ「どっこいしょ」と座ると、向かい側に腰を下ろしたブン太くんが、なぜかニヤリと笑った。
「何?」
「別にー?」
軽く肩をすくめてみせるその顔は、いつも通りの軽い調子のはずなのに。
ほんの一瞬だけ、視線がこちらに留まった気がした。
けれど、すぐにいつもの笑顔へ戻ってしまう。
……気のせいかな。
ブン太くんはそのままマイクをくるくると回しながら、わざとらしく赤也くんに絡み始める。
「ほら赤也、早く曲入れろよ。ビビってんのか?」
「ビビってないっスよ!丸井先輩こそ逃げないでくださいよ!」
いつもの調子に戻ったやり取りを見ているうちに、さっき感じた違和感も薄れていく。
深く考えるのをやめて、私はテーブルの上の曲入力用端末へ手を伸ばした。
さて。
この六人は、一体どんな曲を歌うのだろう。
期待に胸を膨らませながら履歴画面を開いた、その瞬間。
「最初はこれっス!」
赤也くんが意気揚々と立ち上がる。
軽快なイントロとともに、モニターいっぱいに派手な五色の光が弾ける。
表示された曲名は――
『独唱戦隊・ウタウンジャー』
……嫌な予感しかしない。
赤也くんはマイクをひっつかむと、そのまま歌いだす。
『歌え! 叫べ! 響かせろ!』
「ウタウンジャー!!」
カラオケについて早々、しかも一曲目だというのに飛ばしすぎではないのか?
そう思うくらい、赤也くんは全力だった。
呆気にとられている私をよそに、ブン太くんはテーブルに置かれていたもう一本のマイクを素早く手に取る。
『燃やせ! 魂! 真っ赤な炎!』
「ウタウンレッド!」
赤也くんが拳を天井へ突き上げる。
すかさずブン太くんが、その横で腰に手を当てた。
「甘い歌声で敵を惑わす!ウタウンピンク!」
「なんで丸井先輩がピンクなんスか!」
「似合うだろ?」
「自分で言うんスか!?」
歌の最中だというのに、二人はマイク越しに言い合いを始めた。
しかし曲の進行は待ってくれない。
画面には次々と歌詞が流れ、気づけば赤也くんが慌てて二人分のパートを歌っている。
「ちょっ、丸井先輩!次の歌詞来てるっスよ!」
「あ、やべ!」
一曲目からこの有り様である。
いや。
そもそも、なぜ二人とも名乗りと振り付けを完璧に知っているのだろう。
絶対君らウタウンジャー好きだろ。
日曜日の朝からウッキウキでテレビ前待機してるでしょうよ。
中学生男子が早起きして正座しながら画面に釘付けになっているところを想像する。
それはそれでちょっと可愛いか?
そんなことを考えていると丁度頼んでいた飲み物が運ばれてきた。
それに口をつけながら二人の様子を眺める。
『ウタウンジャー、危ない!』
すると突然、画面いっぱいに女性司令官らしき人物が映し出された。
その横には、ご丁寧にセリフまで表示されている。
『今こそ五人の歌声をひとつにするのよ!』
赤也くんが歌いながら、こちらへマイクを突き出した。
「先輩、ここお願いするっス!」
「なんで私!?」
「女の人のセリフだからっス!」
「椿もいるでしょ!」
そう言いながら横に座る椿を指させば、「嫌よ」間髪入れずに拒否された。
せめて一秒くらい考えてほしかったな…。
「早く! 終わっちゃうっス!」
「分かった、分かったから!」
迫りくるセリフのタイミングに急かされ、赤也くんからマイクを受け取る。
そして、画面に表示された文字をそのまま読み上げた。
「今こそ五人の歌声をひとつにするのよ!」
思ったより大きな声が出た。
直後、曲が大きく盛り上がり、赤也くんとブン太くんが一斉にポーズを決める。
「「ウタウンジャー!!」」
…ちょっと待って。
これ、めちゃくちゃ楽しいかもしれない。
次のセリフが画面に映し出される。
『立って!あなたたちの歌は、まだ終わっていないわ!』
文字を目で追いながら、私は先ほどよりも力強くマイクを握りしめた。
「立って!あなたたちの歌は、まだ終わっていないわ!」
「先輩、いい感じっス!」
「もっと熱くいけ!」
二人に煽られ、妙なスイッチが入る。
「みんなの心に、希望の旋律を響かせるのよ!」
今度は立ち上がり、画面に向かって腕を伸ばした。
決まった。
完璧だ。
「お前、こういうの妙にうめーな」
「でしょ?」
褒められて悪い気はしない。
ウタウンジャー自体、見た事ないし歌ってもいないが、誰よりもこの曲を楽しんでいる自信がある。
しかし、赤也くんとブン太くんの二人だけでは、五人分の歌を担当するには無理があったらしい。
二番へ入る頃には、二人とも完全に息を切らしていた。
「柳生! ちょっと手伝ってくれ!」
「なぜ私が」
「このままじゃ歌が終わる前に赤也が死ぬ!」
「まだいけるっス!」
そう叫ぶ赤也くんの声は、すでにかすれていた。
柳生くんはしばらく二人を眺めたあと、仕方がないとでも言うように眼鏡を押し上げた。
「曲の進行を乱すのは感心しませんね」
そう言って、ブン太くんからマイクを受け取る。
画面には、ちょうど新たな戦士の名乗りが表示されていた。
柳生くんはすっと背筋を伸ばし、マイクを口元へ運ぶ。
「静寂を切り裂く、紳士の旋律――ウタウンブルー」
低く、よく通る声が部屋中に響いた。
うまい。
普通にうまい。
一瞬、全員が黙った。
「柳生先輩、めちゃくちゃ歌うまいじゃないっスか!」
「これくらいは普通でしょう」
普通ではない。
期待したオペラではなかった。
オペラではなかったけれど、戦隊ソングに使うには声が重厚すぎる。
柳生くんが加わったことで歌に厚みが増し、赤也くんとブン太くんも再び勢いを取り戻した。
その横で、椿だけがソファに座ったまま、真顔で三人を眺めている。
私はテーブルの端に置かれていたマラカスを手に取った。
「椿はこれね」
「いらない」
「せっかくなんだから!」
「何がせっかくなのよ」
無理やり手に握らせると、椿は心底嫌そうに眉を寄せた。
それでも床へ置いたりはせず、曲に合わせて小さく振り始める。
シャカ。シャカ。シャカ。
真顔だ。
あれだけ騒がしい歌を前にして、寸分の狂いもない一定のリズムで、真顔のままマラカスを振っている。
これだ。
私が見たかったのは、まさにこれだ。
「黒瀬さん、次はあなたのパートのようですよ」
柳生くんが画面を見ながら椿へ告げる。
「私のパート?」
「こちらです」
画面には、黒い衣装をまとった戦士とともに名乗りが表示されていた。
椿は柳生くんと画面を交互に見る。
この場にいるほぼ全員が椿に期待の眼差しを向けていた。
何を言ってもダメと悟ったのか、椿は諦めたようにため息をつくと、差し出されたマイクを受け取った。
「……闇に紛れる、沈黙の旋律。ウタウンブラック」
無表情のまま言い切り、最後にマラカスを一振り。
シャカッ。
「かっこいい!」
「もう帰っていい?」
「駄目!」
即答すると、椿は露骨に嫌そうな顔をした。
そのとき、曲調が突然重々しいものへと変わった。
画面が暗転し、不気味な笑い声とともに悪の首領が姿を現す。
『フハハハハ! 貴様らの歌声など、この私には届かぬ!』
私はすぐさま、隣で頬杖をついていた仁王へマイクを差し出した。
「はい、仁王!」
「なんで俺なんじゃ」
「どう考えても適役でしょ!」
「失礼なやつじゃのう」
そう言いながらも、仁王はマイクを受け取った。
そして画面へ目を向けた次の瞬間。
「フハハハハ!貴様らの歌声など、この俺には届かぬ!」
低く響く、悪役そのものの声が部屋中に轟いた。
うまい。
というか、誰?
先ほどまで隣にいた仁王の声とはまるで違う。
「仁王、すごっ!」
「こんなところでイリュージョン使ってんじゃねーよ!」
「仁王先輩、ずるいっス!悪役だけかっこいいじゃないっスか!」
三人から一斉に声を浴びても、仁王は涼しい顔をしている。
画面に、司令官の次のセリフが映し出された。
私は仁王からマイクを奪い返し、悪の首領を指さした。
「ウタウンジャーは、あなたなんかに負けない!」
仁王が私の手からマイクを半分引き寄せる。
「ならば、その歌声で俺を倒してみるがええ!」
顔が近い。
同じマイクへ向かって叫んでいるせいで、肩までぴったり触れている。
けれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「今よ、ウタウンジャー! 必殺の合唱攻撃よ!」
「「「おおーっ!」」」
赤也くん、ブン太くん、柳生くんが声をそろえる。
椿も無言のまま立ち上がり、マラカスを構えた。
意外とノリノリじゃないか。
そんなことを考えて間もなく、最後のサビが始まる。
仁王は私からマイクを取り上げると、今度は原曲の歌手そっくりの声で歌い始めた。
「仁王、歌えるんじゃん!」
「歌えんとは一言も言っとらんぜよ」
そう返しながら、ちゃっかり赤也くんたちの輪へ加わっていく。
そして最後には、なぜか全員が横一列に並んでいた。
私は拳を天井へ突き上げ、最後の号令を叫ぶ。
「六つの魂を、ひとつの歌声に!」
「「「「「独唱戦隊! ウタウンジャー!!」」」」」
曲の終了と同時に、全員で決めポーズ。
画面には、派手な爆発の映像が映し出されていた。
皆、やり切った顔をしながら肩で息をする。
しばしの沈黙。
私はゆっくりと腕を下ろし、ずっと疑問だった事を口にする。
「……六人がかりで歌っておいて、どこが独唱なの?」
そんな私の問いに答えてくれる人は誰もいなかった。
