08.独唱戦隊・ウタウンジャー!
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その後も、カラオケ大会は大いに盛り上がった。
赤也くんは流行りのロックを、歌というより叫びに近い勢いで熱唱し、ブン太くんは明るい曲を入れては、私たちに合いの手を要求してくる。
柳生くんは予想に反して普通の流行曲を選んだものの、やっぱり無駄に歌がうまかった。
仁王は曲が変わるたびに歌声まで変え、もはや本人の声がどれなのか分からない。
最初は帰りたそうにしていた椿も、柳生くんに勧められて一曲だけ歌った。
本人は淡々としていたけれど、澄んだ歌声は思いのほかきれいで、私が褒めちぎると「うるさい」と一蹴された。
そんな調子で、歌って、笑って、騒いで。
気づけば、私以外は全員一曲以上歌い終えていた。
「次、名前の番な」
ブン太くんからマイクを差し出される。
ついに来た。
私の番が回ってきたのだ。
よし、ここは一曲ぶちかましてやろうではないか。
マイクを握りしめ、気合いを入れて立ち上がる。
その時、隣に座っていた椿が鞄から何かを取り出した。
何だろう。
飴かな?
まあいいか。
軽快で、どこかきらびやかなイントロが流れ始める。
モニターに表示された曲名は――『マツケンサンバ』。
私の十八番であり、大好きな歌。
大人数で盛り上がるなら、やっぱりこれしかないでしょう!
流れ始めた明るいイントロに意識を戻し、私は大きく息を吸い込んだ。
そして、歌った。
心を込めて。全身全霊で。
一曲すべてを歌い切り、満足感とともにマイクを下ろす。
「ふう……」
我ながら、なかなかの熱唱だった。
しかし、室内は妙に静まり返っている。
ブン太くんはソファに沈み込み、赤也くんは両耳を押さえたまま呆然としていた。
柳生くんは眼鏡を外し、眉間を押さえている。
仁王に至っては、魂が半分ほど抜けているように見えた。
「…え、何?」
誰も答えない。
そんな中、椿だけが何事もなかったかのようにドリンクを飲んでいた。
「えへ、えへへ…どうだった?私のマツケンサンバは?」
「え…?あー、よかったんじゃない?」
そう言いながら耳から何かを外した。
椿の手に握られていたそれは…。
「み、耳栓…?」
と、いうことは…。
「全然聞いてなかったわけ!?!?!?」
「…何よ」
「いつからそれしてたの!?」
「歌が始まる前」
「さっき鞄から出してたの、それ!?」
「そうだけど」
「何で持ってきてるの!?」
椿は耳栓をケースにしまいながら平然と言ってのける。
「だって、名前が歌うんだからこれくらいは備えとかないと」
「私の歌を災害扱いしないでもらえる!?」
ひどい、ひどすぎる!
まあ、歌に関しては自信満々ってわけじゃないがそこまで下手だとは思わない。
赤也くんを見ると、ガタガタと震えながら自分の身体を抱きしめていた。
「なんなんスか……? あれが……歌……?」
その横では、ブン太くんが赤也くんの背中をポンポンと叩きながら、難しい顔で風船ガムを膨らませている。
何、その反応。
まるで得体の知れない怪物に遭遇した人たちみたいじゃないか。
「仁王は?」
縋るような思いで隣を見る。
仁王はソファの背もたれに深く沈み込み、片手で耳を押さえたまま、虚空を見つめていた。
「……仁王?」
返事がない。
顔の前で手を振ると、ようやくゆっくりとこちらへ目を向けた。
「今の歌、どうだった?」
「……すまん」
「なんで謝るの?」
「俺にも、あれはイリュージョンできん」
「どういう意味!?」
似せられないほど素晴らしいということだろうか。
いや、仁王の顔を見る限り、絶対に違う。
ならば柳生くんはどうだ。
視線を向けると、柳生くんは眼鏡を外し、眉間を指で押さえていた。
「柳生くんは? どうだった?」
「そうですね……」
しばらく考え込んだあと、柳生くんは眼鏡をかけ直し私とは目を合わせずに答える。
「実に独創的な歌唱でした」
「本当!?」
分からないけど、なんか褒められた気がする!!!
得意満面でソファに腰を下ろし、自分の飲み物を口へ運ぶ。
そこへおずおずと赤也くんが話しかけてきた。
「ち、ちなみに、ちょっとだけアンパンマンの歌うたってみてくれません?」
「えぇ~?別にいいけどぉ~?」
みんな、そんなに私の歌で感動したのか!
仕方がないな、特別だぞ!
私は気分を良くして意気揚々と歌いだす。
「アンパンマンハーキミッサー」
「なんで歌うとお経みたいになるんスか!?」
「お経!?失礼な!ちゃんとアンパンマンだったでしょ!」
「どこがっスか!マツケンサンバと同じ歌に聞こえたっスよ!しかも片言だし!」
「全然違う曲だよ!?」
私は首をかしげる。
おかしい。おかしすぎる。
私の歌がそんなにひどいはずがない。
「では、先ほどのアンパンマンの歌をスマホで録音してご自身で聞いてみてはどうでしょうか?」
柳生くんが小さく手を挙げながら提案する。
それだ。
私はさっそくスマホを取り出すと、録音ボタンを押してもう一度歌った。
「これでよしっと。じゃあ早速再生してみよう!」
ぽちっと再生ボタンを押した私は、一秒後、膝から崩れ落ちることとなった。
これは、あまりにも…。
頭を抱えながら唸る私に、椿が「これが、現実よ」と追い打ちをかける。
小さい頃を思い出す。お母さんは私が歌いだすと笑いながらどこかへ行ってしまうし、お父さんは必ず「こ、個性的でいいな!」と言っていた。
褒めてもらえてると、そう思っていたが…。
「わ、私ってもしかして…ちょっぴり音痴?」
「いえ、ガッツリ音痴よ」
目をまっすぐ見つめながら、真剣にそう断言する椿。
ガッツリ。
ちょっぴりでも、少々でもなく。
ガッツリ。
あまりの衝撃に、私はその場で力なく項垂れた。
「そんな……今まで誰も教えてくれなかったのに……」
「言えなかったんじゃろ」
仁王の容赦ない一言が、傷口へ深々と突き刺さる。
「両親ですら言えなかったことを、さらっと言わないでくれる!?」
「でも先輩、セリフはうまかったっスよ!」
赤也くんが励ますように声を上げた。
「そうそう。司令官、かなりハマってたぜ」
ブン太くんも大きく頷く。
「適材適所という言葉もありますからね」
柳生くんまで慰めに加わった。
「つまり、どういうこと?」
嫌な予感を覚えながら尋ねる。
仁王が口元を緩め、テーブルの上のマイクを私へ差し出した。
「お前さんは、歌わずにセリフだけ言っとればええ」
「戦力外通告!?」
その瞬間、聞き覚えのない派手なイントロが室内に鳴り響いた。
モニターいっぱいに、以前よりも豪華になった五色の爆発が映し出される。
表示された曲名は――
『独唱戦隊・ウタウンジャーⅡ~歌声よ、永遠に~』
「二期あるの!?」
「こっちの方が必殺技かっこいいんスよ!」
いつの間に曲を入れたのか、赤也くんが再びマイクを握って立ち上がる。
「先輩、司令官お願いします!」
「今、歌に関する自信を粉々にされたばかりなんだけど!?」
『ウタウンジャー、立ち上がるのだ!』
画面に新たな司令官のセリフが表示される。
赤也くんとブン太くんが、期待に満ちた目でこちらを見ていた。
柳生くんも何も言わずに二本目のマイクを差し出し、椿は諦めたように例のマラカスを手に取る。
「ほら、早うせんと終わるぜよ」
仁王に急かされ、私はしぶしぶマイクを受け取った。
そして、画面へ向かって力強く腕を伸ばす。
「恐れないで! あなたたちの歌は、未来へ続いているわ!」
「「「「ウタウンジャー!!」」」」
こうして私は、独唱戦隊で唯一歌うことを許されない司令官として、華々しい再出発を遂げたのだった。
赤也くんは流行りのロックを、歌というより叫びに近い勢いで熱唱し、ブン太くんは明るい曲を入れては、私たちに合いの手を要求してくる。
柳生くんは予想に反して普通の流行曲を選んだものの、やっぱり無駄に歌がうまかった。
仁王は曲が変わるたびに歌声まで変え、もはや本人の声がどれなのか分からない。
最初は帰りたそうにしていた椿も、柳生くんに勧められて一曲だけ歌った。
本人は淡々としていたけれど、澄んだ歌声は思いのほかきれいで、私が褒めちぎると「うるさい」と一蹴された。
そんな調子で、歌って、笑って、騒いで。
気づけば、私以外は全員一曲以上歌い終えていた。
「次、名前の番な」
ブン太くんからマイクを差し出される。
ついに来た。
私の番が回ってきたのだ。
よし、ここは一曲ぶちかましてやろうではないか。
マイクを握りしめ、気合いを入れて立ち上がる。
その時、隣に座っていた椿が鞄から何かを取り出した。
何だろう。
飴かな?
まあいいか。
軽快で、どこかきらびやかなイントロが流れ始める。
モニターに表示された曲名は――『マツケンサンバ』。
私の十八番であり、大好きな歌。
大人数で盛り上がるなら、やっぱりこれしかないでしょう!
流れ始めた明るいイントロに意識を戻し、私は大きく息を吸い込んだ。
そして、歌った。
心を込めて。全身全霊で。
一曲すべてを歌い切り、満足感とともにマイクを下ろす。
「ふう……」
我ながら、なかなかの熱唱だった。
しかし、室内は妙に静まり返っている。
ブン太くんはソファに沈み込み、赤也くんは両耳を押さえたまま呆然としていた。
柳生くんは眼鏡を外し、眉間を押さえている。
仁王に至っては、魂が半分ほど抜けているように見えた。
「…え、何?」
誰も答えない。
そんな中、椿だけが何事もなかったかのようにドリンクを飲んでいた。
「えへ、えへへ…どうだった?私のマツケンサンバは?」
「え…?あー、よかったんじゃない?」
そう言いながら耳から何かを外した。
椿の手に握られていたそれは…。
「み、耳栓…?」
と、いうことは…。
「全然聞いてなかったわけ!?!?!?」
「…何よ」
「いつからそれしてたの!?」
「歌が始まる前」
「さっき鞄から出してたの、それ!?」
「そうだけど」
「何で持ってきてるの!?」
椿は耳栓をケースにしまいながら平然と言ってのける。
「だって、名前が歌うんだからこれくらいは備えとかないと」
「私の歌を災害扱いしないでもらえる!?」
ひどい、ひどすぎる!
まあ、歌に関しては自信満々ってわけじゃないがそこまで下手だとは思わない。
赤也くんを見ると、ガタガタと震えながら自分の身体を抱きしめていた。
「なんなんスか……? あれが……歌……?」
その横では、ブン太くんが赤也くんの背中をポンポンと叩きながら、難しい顔で風船ガムを膨らませている。
何、その反応。
まるで得体の知れない怪物に遭遇した人たちみたいじゃないか。
「仁王は?」
縋るような思いで隣を見る。
仁王はソファの背もたれに深く沈み込み、片手で耳を押さえたまま、虚空を見つめていた。
「……仁王?」
返事がない。
顔の前で手を振ると、ようやくゆっくりとこちらへ目を向けた。
「今の歌、どうだった?」
「……すまん」
「なんで謝るの?」
「俺にも、あれはイリュージョンできん」
「どういう意味!?」
似せられないほど素晴らしいということだろうか。
いや、仁王の顔を見る限り、絶対に違う。
ならば柳生くんはどうだ。
視線を向けると、柳生くんは眼鏡を外し、眉間を指で押さえていた。
「柳生くんは? どうだった?」
「そうですね……」
しばらく考え込んだあと、柳生くんは眼鏡をかけ直し私とは目を合わせずに答える。
「実に独創的な歌唱でした」
「本当!?」
分からないけど、なんか褒められた気がする!!!
得意満面でソファに腰を下ろし、自分の飲み物を口へ運ぶ。
そこへおずおずと赤也くんが話しかけてきた。
「ち、ちなみに、ちょっとだけアンパンマンの歌うたってみてくれません?」
「えぇ~?別にいいけどぉ~?」
みんな、そんなに私の歌で感動したのか!
仕方がないな、特別だぞ!
私は気分を良くして意気揚々と歌いだす。
「アンパンマンハーキミッサー」
「なんで歌うとお経みたいになるんスか!?」
「お経!?失礼な!ちゃんとアンパンマンだったでしょ!」
「どこがっスか!マツケンサンバと同じ歌に聞こえたっスよ!しかも片言だし!」
「全然違う曲だよ!?」
私は首をかしげる。
おかしい。おかしすぎる。
私の歌がそんなにひどいはずがない。
「では、先ほどのアンパンマンの歌をスマホで録音してご自身で聞いてみてはどうでしょうか?」
柳生くんが小さく手を挙げながら提案する。
それだ。
私はさっそくスマホを取り出すと、録音ボタンを押してもう一度歌った。
「これでよしっと。じゃあ早速再生してみよう!」
ぽちっと再生ボタンを押した私は、一秒後、膝から崩れ落ちることとなった。
これは、あまりにも…。
頭を抱えながら唸る私に、椿が「これが、現実よ」と追い打ちをかける。
小さい頃を思い出す。お母さんは私が歌いだすと笑いながらどこかへ行ってしまうし、お父さんは必ず「こ、個性的でいいな!」と言っていた。
褒めてもらえてると、そう思っていたが…。
「わ、私ってもしかして…ちょっぴり音痴?」
「いえ、ガッツリ音痴よ」
目をまっすぐ見つめながら、真剣にそう断言する椿。
ガッツリ。
ちょっぴりでも、少々でもなく。
ガッツリ。
あまりの衝撃に、私はその場で力なく項垂れた。
「そんな……今まで誰も教えてくれなかったのに……」
「言えなかったんじゃろ」
仁王の容赦ない一言が、傷口へ深々と突き刺さる。
「両親ですら言えなかったことを、さらっと言わないでくれる!?」
「でも先輩、セリフはうまかったっスよ!」
赤也くんが励ますように声を上げた。
「そうそう。司令官、かなりハマってたぜ」
ブン太くんも大きく頷く。
「適材適所という言葉もありますからね」
柳生くんまで慰めに加わった。
「つまり、どういうこと?」
嫌な予感を覚えながら尋ねる。
仁王が口元を緩め、テーブルの上のマイクを私へ差し出した。
「お前さんは、歌わずにセリフだけ言っとればええ」
「戦力外通告!?」
その瞬間、聞き覚えのない派手なイントロが室内に鳴り響いた。
モニターいっぱいに、以前よりも豪華になった五色の爆発が映し出される。
表示された曲名は――
『独唱戦隊・ウタウンジャーⅡ~歌声よ、永遠に~』
「二期あるの!?」
「こっちの方が必殺技かっこいいんスよ!」
いつの間に曲を入れたのか、赤也くんが再びマイクを握って立ち上がる。
「先輩、司令官お願いします!」
「今、歌に関する自信を粉々にされたばかりなんだけど!?」
『ウタウンジャー、立ち上がるのだ!』
画面に新たな司令官のセリフが表示される。
赤也くんとブン太くんが、期待に満ちた目でこちらを見ていた。
柳生くんも何も言わずに二本目のマイクを差し出し、椿は諦めたように例のマラカスを手に取る。
「ほら、早うせんと終わるぜよ」
仁王に急かされ、私はしぶしぶマイクを受け取った。
そして、画面へ向かって力強く腕を伸ばす。
「恐れないで! あなたたちの歌は、未来へ続いているわ!」
「「「「ウタウンジャー!!」」」」
こうして私は、独唱戦隊で唯一歌うことを許されない司令官として、華々しい再出発を遂げたのだった。
