07.恋人ごっこ2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょっと二人とも!」
落ち着いて!
そう言おうと口を開きかけた瞬間…
「あっ!先輩たち、何やってんスか!」
その場の空気を真っ二つに断ち切るような、やけに明るい声が店内に響いた。
「何で三人で手ぇ繋いでるんスか?」
「繋いでない!引っ張られてるの!」
どこをどう見たら手を繋いでるように見えるのかしらこの子!
いつの間にかブン太くんも立ち上がっていて、私の両腕は高く持ち上がっている。
さながら捕獲された宇宙人だ。
た、助けてくれ!さっきの一触即発の空気を破ってくれた君にならできる!
期待を込めたまなざしを送るが、残念なことに、彼には届かなかったらしい。
赤也くんは私たちの姿をまじまじと見つめたあと、ぱっと顔を輝かせた。
「何か楽しそうじゃないッスか!俺も混じりたいッス!」
「どこが楽しそうに見えるの!?」
両側から腕を引っ張られ、今にも肩が外れそうな人間を前にして、その感想が出てくるとは。
いいから助けてよ~と言ってみるが、赤也くんはこれっぽっちも聞いておらず、勢いよくこちらへ駆け寄ってくる。
そして、そのまま背後から私の首へ腕を回し…
「えっ、ちょっと…」
抱きついた。
いや、違う。
抱擁ではない。これは絞め技だ。
「赤也くん、ギブ!ギブだから!」
「え?何でッスか?」
「腕!腕を緩めて!」
「俺、そんな力入れてないッスよ?」
「入ってるから言ってるの!」
左右からは仁王とブン太くんに腕を引かれ、後ろからは赤也くんに首を締め上げられる。
もはや捕獲された宇宙人どころではない。
これは処刑だ。
「赤也、力緩めてやれよ。本当に締まってんぞ」
「えっ、マジッスか?」
「早く離せ」
ブン太くんに言われ、赤也くんはようやく慌てて腕を緩めた。
「す、すんません!先輩、小さくて抱きつきやすかったから、つい…」
「あぁ、助かった…死ぬかと思った…」
解放された私は、げほげほと咳き込みながら首元を押さえる。
そんな私の横で、仁王が面白そうに口元を緩めた。
「人気者じゃのう」
「誰のせいでこうなってると思ってるの!?」
「でも俺も混ぜてほしいッス!」
「まだ諦めてなかったの!?」
「何をしているのですか、あなたたちは」
赤也くんの後ろから、呆れを多分に含んだ落ち着いた声が飛んできた。
赤也くんの他にもう一人いたことに気が付かなかった。
声のした方に目を向けると、眼鏡をかけきっちりと制服を着こなしている男子が立っていた。
あ、この人知ってる。
話したことはないけれど、柳生比呂士くんだ。
男子テニス部のレギュラーで、椿と同じ風紀委員会に所属している。
椿と話している姿を何度か見かけたことがあるけれど、こうして間近で見るのは初めてだった。
背筋はぴんと伸び、制服には皺ひとつない。
いかにも真面目で品行方正という言葉が似合う。
「柳生先輩!ちょうどいいところに!」
赤也くんが嬉しそうに振り返る。
「何がちょうどいいのですか」
柳生くんは冷静にそう返すと、私の両腕を掴んだままの二人へ視線を移した。
「まずは彼女の腕を離しなさい」
「俺も?」
ブン太くんが不満そうに自分を指差す。
「あなたもです、丸井君」
有無を言わせぬ口調だった。
ブン太くんと仁王は顔を見合わせると、しぶしぶ私の腕を離した。
ようやく解放された私は、じんじんと痛む両腕をさする。
危うく両腕と首を同時に失うところだった。
男子テニス部、恐るべし。
「お怪我はありませんか?」
柳生くんがこちらへ向き直る。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
初めて話す相手に、先ほどまで捕獲された宇宙人のような姿を見られていたと思うと、急に恥ずかしさが押し寄せてきた。
これが私と柳生くんの初対面。
もっとこう、廊下ですれ違った時にハンカチを拾ってもらうとか。
せめて人間として出会いたかった。
「申し遅れました。柳生比呂士です」
柳生くんは丁寧に頭を下げた。
それにつられて私も、どうもご丁寧に…とお辞儀してしまう。
「知ってます。椿と同じ風紀委員会の柳生くんですよね?」
「ええ。あなたが黒瀬さんのご友人でしたか」
「私のこと、知ってるんですか?」
思わず聞き返す。
「お名前だけは、黒瀬さんから何度か伺っています」
な、何を話したんだ、椿。
まさか私の数々の奇行を、風紀委員長へ密告しているのではあるまいな。
私の顔に不安が滲んでいたのか、柳生くんはわずかに口元を緩めた。
「ご安心ください。悪い話ではありませんよ」
「そ、そうですか……」
よかった。
知らぬ間に要注意人物として風紀委員会の監視対象になっていたわけではないらしい。
「名前、ずいぶん親しそうに話しておるのう」
隣から、仁王が私と柳生くんの間へ顔を覗かせる。
「近い!」
「何じゃ、柳生には随分愛想がええのう」
「初対面の人には普通こうなの!」
君に対するこの態度は、二年間かけて積み上げた信頼と実績の賜物だ。
主に悪い方向の。
「それより仁王君」
柳生くんが眼鏡の位置を直しながら、仁王へ冷たい視線を向ける。
「私たちを席に残したまま、何をしているのですか」
「面白そうなことをしとったから、つい」
「つい、ではありません」
「えっ、みんなで来てたの?」
私が聞くと、柳生くんは小さく頷いた。
「ええ。先ほどまで、あちらの席に」
柳生くんが指し示した先には、少し離れた場所にある四人掛けのテーブル。
その上には、飲みかけの紅茶が二つとメロンソーダが入っていたであろうグラスが置かれていた。
「では、最初から私たちのやり取りを見ていたのでは…?」
「…………」
柳生くんがそっと目を逸らす。
「見てたんだね!?」
「巻き込まれたくなかったもので」
まさかの見て見ぬふり!
紳士にも見捨てられるほどの惨状だったらしい。
「ですが、事情はおおよそ理解しています。あなたが本当に二人の男性と交際しているとは思っていませんので、ご安心を」
「二股って言葉をぼかしてくれた優しさが、逆に胸に刺さる……!」
少なくとも柳生くんからの第一印象が、とんでもない女で確定しなかったことだけは喜ぶべきなのだろう。
「あの…」
遠慮がちな声に振り返る。
そこには、カメラを持ったまま完全に置いてきぼりにされていた店員さんが立っていた。
「お写真は、どうなさいますか…?」
そうだった。
まだ撮影の途中だった。
というか、この騒ぎの間ずっと待っていてくれたのか。
申し訳なさすぎる。
「す、すみません! すぐ撮ります!」
私が慌てて席へ戻ろうとすると、仁王も当然のようについてくる。
「なら、今度こそわしも――」
「戻りますよ、仁王君」
柳生くんが仁王の襟を掴んだ。
「苦しいぜよ、柳生」
「先ほど彼女が同じ目に遭っていたでしょう」
「俺も写真に入りたいッス!」
赤也くんまで手を挙げる。
「切原君も戻りなさい」
「まだ何もしてないッスよ!?」
「顔を見れば分かります」
すごい。
この人、仁王と赤也くんを同時に制御している。
風紀委員長というより、猛獣使いなのでは?
「ほら、早く座れよ。アイス溶けちまうだろ」
すでに席へ戻っていたブン太くんが、空いている隣の椅子を叩く。
「誰のせいで時間がかかったと思ってるの…」
私はため息をつきながら、再びブン太くんの隣へ座った。
さっきとは違い、肩が触れてもそれほど緊張しない。
あまりにもいろいろなことが起こりすぎて、私の心臓もついに適応したらしい。
「それでは、改めて撮りますね!」
店員さんがカメラを構える。
「はい、笑ってくださーい!」
ブン太くんと顔を見合わせる。
すると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
ほんの数分前までは、顔を寄せるだけであれほど緊張していたのに。
今となっては、隣で仁王が柳生くんに引きずられ、赤也くんがそれを追いかけている光景の方が気になって仕方がない。
「三、二、一――」
シャッターが切られる直前。
「プリッ」
私の背後から、仁王がひょいと顔を出した。
「俺も!」
反対側からは赤也くん。
「あなたたちは――!」
二人を止めようとした柳生くんまで、勢いよく画角へ飛び込んでくる。
パシャリ。
再び、眩い光が弾けた。
「…………」
店員さんがゆっくりとカメラを下ろす。
「とても…賑やかなお写真が撮れました」
落ち着いて!
そう言おうと口を開きかけた瞬間…
「あっ!先輩たち、何やってんスか!」
その場の空気を真っ二つに断ち切るような、やけに明るい声が店内に響いた。
「何で三人で手ぇ繋いでるんスか?」
「繋いでない!引っ張られてるの!」
どこをどう見たら手を繋いでるように見えるのかしらこの子!
いつの間にかブン太くんも立ち上がっていて、私の両腕は高く持ち上がっている。
さながら捕獲された宇宙人だ。
た、助けてくれ!さっきの一触即発の空気を破ってくれた君にならできる!
期待を込めたまなざしを送るが、残念なことに、彼には届かなかったらしい。
赤也くんは私たちの姿をまじまじと見つめたあと、ぱっと顔を輝かせた。
「何か楽しそうじゃないッスか!俺も混じりたいッス!」
「どこが楽しそうに見えるの!?」
両側から腕を引っ張られ、今にも肩が外れそうな人間を前にして、その感想が出てくるとは。
いいから助けてよ~と言ってみるが、赤也くんはこれっぽっちも聞いておらず、勢いよくこちらへ駆け寄ってくる。
そして、そのまま背後から私の首へ腕を回し…
「えっ、ちょっと…」
抱きついた。
いや、違う。
抱擁ではない。これは絞め技だ。
「赤也くん、ギブ!ギブだから!」
「え?何でッスか?」
「腕!腕を緩めて!」
「俺、そんな力入れてないッスよ?」
「入ってるから言ってるの!」
左右からは仁王とブン太くんに腕を引かれ、後ろからは赤也くんに首を締め上げられる。
もはや捕獲された宇宙人どころではない。
これは処刑だ。
「赤也、力緩めてやれよ。本当に締まってんぞ」
「えっ、マジッスか?」
「早く離せ」
ブン太くんに言われ、赤也くんはようやく慌てて腕を緩めた。
「す、すんません!先輩、小さくて抱きつきやすかったから、つい…」
「あぁ、助かった…死ぬかと思った…」
解放された私は、げほげほと咳き込みながら首元を押さえる。
そんな私の横で、仁王が面白そうに口元を緩めた。
「人気者じゃのう」
「誰のせいでこうなってると思ってるの!?」
「でも俺も混ぜてほしいッス!」
「まだ諦めてなかったの!?」
「何をしているのですか、あなたたちは」
赤也くんの後ろから、呆れを多分に含んだ落ち着いた声が飛んできた。
赤也くんの他にもう一人いたことに気が付かなかった。
声のした方に目を向けると、眼鏡をかけきっちりと制服を着こなしている男子が立っていた。
あ、この人知ってる。
話したことはないけれど、柳生比呂士くんだ。
男子テニス部のレギュラーで、椿と同じ風紀委員会に所属している。
椿と話している姿を何度か見かけたことがあるけれど、こうして間近で見るのは初めてだった。
背筋はぴんと伸び、制服には皺ひとつない。
いかにも真面目で品行方正という言葉が似合う。
「柳生先輩!ちょうどいいところに!」
赤也くんが嬉しそうに振り返る。
「何がちょうどいいのですか」
柳生くんは冷静にそう返すと、私の両腕を掴んだままの二人へ視線を移した。
「まずは彼女の腕を離しなさい」
「俺も?」
ブン太くんが不満そうに自分を指差す。
「あなたもです、丸井君」
有無を言わせぬ口調だった。
ブン太くんと仁王は顔を見合わせると、しぶしぶ私の腕を離した。
ようやく解放された私は、じんじんと痛む両腕をさする。
危うく両腕と首を同時に失うところだった。
男子テニス部、恐るべし。
「お怪我はありませんか?」
柳生くんがこちらへ向き直る。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
初めて話す相手に、先ほどまで捕獲された宇宙人のような姿を見られていたと思うと、急に恥ずかしさが押し寄せてきた。
これが私と柳生くんの初対面。
もっとこう、廊下ですれ違った時にハンカチを拾ってもらうとか。
せめて人間として出会いたかった。
「申し遅れました。柳生比呂士です」
柳生くんは丁寧に頭を下げた。
それにつられて私も、どうもご丁寧に…とお辞儀してしまう。
「知ってます。椿と同じ風紀委員会の柳生くんですよね?」
「ええ。あなたが黒瀬さんのご友人でしたか」
「私のこと、知ってるんですか?」
思わず聞き返す。
「お名前だけは、黒瀬さんから何度か伺っています」
な、何を話したんだ、椿。
まさか私の数々の奇行を、風紀委員長へ密告しているのではあるまいな。
私の顔に不安が滲んでいたのか、柳生くんはわずかに口元を緩めた。
「ご安心ください。悪い話ではありませんよ」
「そ、そうですか……」
よかった。
知らぬ間に要注意人物として風紀委員会の監視対象になっていたわけではないらしい。
「名前、ずいぶん親しそうに話しておるのう」
隣から、仁王が私と柳生くんの間へ顔を覗かせる。
「近い!」
「何じゃ、柳生には随分愛想がええのう」
「初対面の人には普通こうなの!」
君に対するこの態度は、二年間かけて積み上げた信頼と実績の賜物だ。
主に悪い方向の。
「それより仁王君」
柳生くんが眼鏡の位置を直しながら、仁王へ冷たい視線を向ける。
「私たちを席に残したまま、何をしているのですか」
「面白そうなことをしとったから、つい」
「つい、ではありません」
「えっ、みんなで来てたの?」
私が聞くと、柳生くんは小さく頷いた。
「ええ。先ほどまで、あちらの席に」
柳生くんが指し示した先には、少し離れた場所にある四人掛けのテーブル。
その上には、飲みかけの紅茶が二つとメロンソーダが入っていたであろうグラスが置かれていた。
「では、最初から私たちのやり取りを見ていたのでは…?」
「…………」
柳生くんがそっと目を逸らす。
「見てたんだね!?」
「巻き込まれたくなかったもので」
まさかの見て見ぬふり!
紳士にも見捨てられるほどの惨状だったらしい。
「ですが、事情はおおよそ理解しています。あなたが本当に二人の男性と交際しているとは思っていませんので、ご安心を」
「二股って言葉をぼかしてくれた優しさが、逆に胸に刺さる……!」
少なくとも柳生くんからの第一印象が、とんでもない女で確定しなかったことだけは喜ぶべきなのだろう。
「あの…」
遠慮がちな声に振り返る。
そこには、カメラを持ったまま完全に置いてきぼりにされていた店員さんが立っていた。
「お写真は、どうなさいますか…?」
そうだった。
まだ撮影の途中だった。
というか、この騒ぎの間ずっと待っていてくれたのか。
申し訳なさすぎる。
「す、すみません! すぐ撮ります!」
私が慌てて席へ戻ろうとすると、仁王も当然のようについてくる。
「なら、今度こそわしも――」
「戻りますよ、仁王君」
柳生くんが仁王の襟を掴んだ。
「苦しいぜよ、柳生」
「先ほど彼女が同じ目に遭っていたでしょう」
「俺も写真に入りたいッス!」
赤也くんまで手を挙げる。
「切原君も戻りなさい」
「まだ何もしてないッスよ!?」
「顔を見れば分かります」
すごい。
この人、仁王と赤也くんを同時に制御している。
風紀委員長というより、猛獣使いなのでは?
「ほら、早く座れよ。アイス溶けちまうだろ」
すでに席へ戻っていたブン太くんが、空いている隣の椅子を叩く。
「誰のせいで時間がかかったと思ってるの…」
私はため息をつきながら、再びブン太くんの隣へ座った。
さっきとは違い、肩が触れてもそれほど緊張しない。
あまりにもいろいろなことが起こりすぎて、私の心臓もついに適応したらしい。
「それでは、改めて撮りますね!」
店員さんがカメラを構える。
「はい、笑ってくださーい!」
ブン太くんと顔を見合わせる。
すると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
ほんの数分前までは、顔を寄せるだけであれほど緊張していたのに。
今となっては、隣で仁王が柳生くんに引きずられ、赤也くんがそれを追いかけている光景の方が気になって仕方がない。
「三、二、一――」
シャッターが切られる直前。
「プリッ」
私の背後から、仁王がひょいと顔を出した。
「俺も!」
反対側からは赤也くん。
「あなたたちは――!」
二人を止めようとした柳生くんまで、勢いよく画角へ飛び込んでくる。
パシャリ。
再び、眩い光が弾けた。
「…………」
店員さんがゆっくりとカメラを下ろす。
「とても…賑やかなお写真が撮れました」
