01.その部長、制御不能につき
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日も派手にやっとるのう、名前」
「見てたなら助けてよ、仁王。私の部長としての威厳が瀕死なんだけど」
「元から威厳なんてあったか?」
「失礼な!あるに決まってるでしょうよ!…多分」
「たぶんなんじゃな」
仁王はフェンスにもたれたまま、肩を揺らして笑った。
この人は、いつもこうだ。
からかっているのか、心配しているのか、ただ面白がっているだけなのか。
いまいち分からない顔で、私の前に現れる。
でも、不思議と嫌ではなかった。
「それより、男子テニス部は? 練習中じゃないの?」
「休憩中じゃ。そっちから聞き覚えのある悲鳴が聞こえたけぇ、様子を見に来ただけぜよ」
「聞き覚えのある悲鳴って何」
「お前さんの声じゃろ」
「私の声を悲鳴で覚えないで」
「特徴的で覚えやすい」
「褒めてないよね?」
「プリッ」
否定しないあたりが仁王雅治である。
フェンス越しに軽口を交わしていると、背中に少しだけ視線を感じた。
振り返らなくても分かる。
椿だ。
彼女はたぶん、こちらを見ている。
心配そうに。
そして、少しだけ不機嫌そうに。
私が仁王と話しているとき、彼女はいつもあんな顔をする。
あの日のことを思い出しているのかもしれない。
私の腕に残った、もうほとんど分からない傷のことを。
「……黒瀬も、相変わらずじゃのう」
仁王が、私の肩越しにちらりとコートの方を見た。
「まあね。うちの副部長は警戒心が強いから」
「警戒されとるのは、わしだけじゃろ」
「自覚あるんだ」
「あるような、ないような」
「便利な返事だなぁ」
私がじとっと睨むと、仁王は楽しそうに目を細めた。
こういうところだ。
この、のらりくらりと逃げるところ。
椿が仁王を苦手に思う理由は、たぶんこういうところにもある。
「で? わざわざ私の悲鳴を聞きに来たわけ?」
「半分はのう」
「半分なんだ。残りの半分は?」
「お前さんの一本下駄を見に来た」
「他にもっとましな理由はないのか!」
思わず声を上げると、仁王はまた笑った。
「1年の間で噂になっとるぜよ。女子テニス部の部長が、妙な下駄でコートを歩いとるって」
「妙な下駄じゃない。体幹トレーニング用のありがたい下駄です」
「ほう。ありがたいんか」
「ありがたいよ。たぶんこれ履いてるだけで強くなれる」
「本当か?」
「……たぶん」
「さっきから返事が全部たぶんじゃのう」
痛いところを突かれた。
私は悔し紛れに、一本下駄の歯でこつんと地面を鳴らす。
「別にいいじゃん。物珍しさで見学に来た子を囲って入部させる!大量に部員を確保できるってわけ!役に立つなら、この珍妙な格好も悪くないね」
「なんじゃ漁みたいじゃのぅ」
「まぁそんな感じ!で、そっちはどうなの?」
そう聞くと、んー…と少し考えるそぶりをした。
口元に手をやり少し考えるそぶりをすると、「まぁまぁじゃ」と答えた。
なるほど。
この様子だとかなりの入部希望者が集まったのだろう。
常勝と呼ばれる男子テニス部はただでさえ目立つ。
それに加え、容姿の良いメンバーがそろっているのだから部活に関係なく毎年多くの見学者が来るのだ。
見世物になることに辟易しているのだろうな。
私は心の中でそっと合掌した。
「今日も派手にやっとるのう、名前」
「見てたなら助けてよ、仁王。私の部長としての威厳が瀕死なんだけど」
「元から威厳なんてあったか?」
「失礼な!あるに決まってるでしょうよ!…多分」
「たぶんなんじゃな」
仁王はフェンスにもたれたまま、肩を揺らして笑った。
この人は、いつもこうだ。
からかっているのか、心配しているのか、ただ面白がっているだけなのか。
いまいち分からない顔で、私の前に現れる。
でも、不思議と嫌ではなかった。
「それより、男子テニス部は? 練習中じゃないの?」
「休憩中じゃ。そっちから聞き覚えのある悲鳴が聞こえたけぇ、様子を見に来ただけぜよ」
「聞き覚えのある悲鳴って何」
「お前さんの声じゃろ」
「私の声を悲鳴で覚えないで」
「特徴的で覚えやすい」
「褒めてないよね?」
「プリッ」
否定しないあたりが仁王雅治である。
フェンス越しに軽口を交わしていると、背中に少しだけ視線を感じた。
振り返らなくても分かる。
椿だ。
彼女はたぶん、こちらを見ている。
心配そうに。
そして、少しだけ不機嫌そうに。
私が仁王と話しているとき、彼女はいつもあんな顔をする。
あの日のことを思い出しているのかもしれない。
私の腕に残った、もうほとんど分からない傷のことを。
「……黒瀬も、相変わらずじゃのう」
仁王が、私の肩越しにちらりとコートの方を見た。
「まあね。うちの副部長は警戒心が強いから」
「警戒されとるのは、わしだけじゃろ」
「自覚あるんだ」
「あるような、ないような」
「便利な返事だなぁ」
私がじとっと睨むと、仁王は楽しそうに目を細めた。
こういうところだ。
この、のらりくらりと逃げるところ。
椿が仁王を苦手に思う理由は、たぶんこういうところにもある。
「で? わざわざ私の悲鳴を聞きに来たわけ?」
「半分はのう」
「半分なんだ。残りの半分は?」
「お前さんの一本下駄を見に来た」
「他にもっとましな理由はないのか!」
思わず声を上げると、仁王はまた笑った。
「1年の間で噂になっとるぜよ。女子テニス部の部長が、妙な下駄でコートを歩いとるって」
「妙な下駄じゃない。体幹トレーニング用のありがたい下駄です」
「ほう。ありがたいんか」
「ありがたいよ。たぶんこれ履いてるだけで強くなれる」
「本当か?」
「……たぶん」
「さっきから返事が全部たぶんじゃのう」
痛いところを突かれた。
私は悔し紛れに、一本下駄の歯でこつんと地面を鳴らす。
「別にいいじゃん。物珍しさで見学に来た子を囲って入部させる!大量に部員を確保できるってわけ!役に立つなら、この珍妙な格好も悪くないね」
「なんじゃ漁みたいじゃのぅ」
「まぁそんな感じ!で、そっちはどうなの?」
そう聞くと、んー…と少し考えるそぶりをした。
口元に手をやり少し考えるそぶりをすると、「まぁまぁじゃ」と答えた。
なるほど。
この様子だとかなりの入部希望者が集まったのだろう。
常勝と呼ばれる男子テニス部はただでさえ目立つ。
それに加え、容姿の良いメンバーがそろっているのだから部活に関係なく毎年多くの見学者が来るのだ。
見世物になることに辟易しているのだろうな。
私は心の中でそっと合掌した。
