05.生意気な後輩
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「あれ?」
思わず声が漏れた。
部活を終え、備品を戻すために倉庫へ来たのだが――物陰に、一人の男子が座り込んでいた。
人目を避けるように膝を抱え、深くうなだれている。
よく見れば、着ているのは男子テニス部のジャージだ。
それに、あの特徴的なくるくるした黒髪。
男子テニス部の二年生。
先輩相手でも遠慮なく噛みつくことで有名な問題児。
確か、切原赤也くんだったはず。
でも、こんなところで一人、何をしているんだろう。
ま、まさか具合が悪いとか!?
でも、面識ないし急に声かけたら怖がられてしまうかもなぁ…。
いやしかし…。
考えあぐねている最中も、微動だにしない切原くん。
こりゃ相当重症なのでは!?
今は見て見ぬふりをしている場合じゃない!
そう決意した私はポケットに手を突っ込み、足早に彼のもとへ向かった。
そして、膝を抱えて小さくなっている彼と目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「よかったら、これ」
ポケットから取り出したものを、そっと差し出す。
突然声をかけられた彼は、驚いたように顔を上げた。
私の顔と差し出された手のひらを交互に見たあと、怪訝そうに眉を寄せる。
「……なんスか、コレ」
「酢昆布」
そう私が言うと、訳が分からないとでもいいたげな顔で、彼は手の上に鎮座するそれを凝視する。
「いや、それは見れば分かるッス。なんで酢昆布?」
「具合悪そうだったから」
「具合悪い奴に食わせるもんじゃないでしょ!」
なんだ、元気じゃないか。
心の中でホッと一息つく。
「じゃあ、具合が悪いわけじゃないんだね。よかった」
私は酢昆布をポケットへ戻し、立ち上がろうとした。
「ちょ、待ってくださいよ!」
「え、酢昆布やっぱりいる?」
「いらないッス!」
言いながら首を大きく左右に振る。
そんなに嫌がらなくてもいいじゃん…。
おいしいじゃん、酢昆布…。ミネラルも取れるし余計な砂糖入ってなくてヘルシーなんだよ?
内心少しだけ落ち込んでいると、切原くんは気まずそうに視線を逸らした。
「そうじゃなくて……俺がここにいたこと、誰にも言わないでください」
「別に言わないけど」
「仁王先輩にもッスよ」
「なんでそこで仁王が出てくるの?」
びっくりしすぎて先ほどポケットへ入れた酢昆布が飛び出す。
それを落とすまいとアワアワしてる私を見ながら、ふてくされたような表情で、
「だって、アンタ仁王先輩といつも一緒にいるじゃないスか」
そうつぶやいた。
あー、なるほど。わかったぞ。
仁王は日頃から部内で私の悪評を広めている。
↓
そのせいで、切原くんにも私の存在を知られている。
↓
しかも、私と仁王がいつも一緒にいると誤解されている。
↓
ここにいたことを私に知られたら、仁王にも筒抜けになる。
↓
THE END
ってそう思われてるってことね!?
絶対そうだ!確実に!100パーセント!
我ながら完ぺきな方程式だと思う。
それはそうと、仁王、許すまじ…。
無事、自分の手の中におさまった酢昆布を今度こそポケットの奥に突っ込む。
そして、未だに口をとがらせている不機嫌そうな彼の隣に、少し距離を空けて座った。
切原くんがわずかに身を引く。
露骨ではないが、「なんで座るんスか」と顔に書いてある。
「別に、何でもないッスから」
私が何かを言い出す前に、そう口を開いた。
「まだ何も聞いてないけど」
「これから聞く顔してるじゃないスか」
顔を俯かせ、再び膝を抱えるような体勢になる。
それがなんだか小さな子供のようで、思わず笑ってしまう。
「…何笑ってんスか」
すぐさま鋭い視線が飛んできた。
眉間にはくっきりと皺が寄り、不機嫌そうだった顔が、今度は明確な怒りに変わっている。
「いや、ごめん。なんか可愛くて」
「はあ!? ふざけないでくださいよ!」
そういうや否や、膝を抱えていた腕を解き切原くんは勢いよくこちらへ向き直った。
「アンタ、確か女子テニス部の部長ッスよね?一本下駄履いてるって噂の」
「え…まあ、一応部長だけれども…」
そう答えた途端、眉間に寄っていた皺がほどけた。
代わりに、口元へ挑発的な笑みが浮かぶ。
「へえー? じゃあ、アンタ強いんだ?」
さっきまで膝を抱えて小さくなっていたくせに、急に態度がでかくなった。
「まあ、たとえアンタが男だったとしても、俺のほうがテニス強いけどね」
「今テニス関係なくない!?」
何この子!?話が飛躍しすぎて、先輩はついていけないわ!!!
それにこの顔!
チロリ、横目で盗み見ると、切原くんは勝ち誇ったように口角を上げた。
ああ、腹立つ。
今すぐその自信満々な鼻っ柱をへし折ってやりたい。
……のだけれど。
挑発的に細められた大きな目も、子供っぽさの残る顔立ちも、悔しいことにすこぶる整っている。
くるくるした黒髪まで、腹立たしいほどよく似合っていた。
クソー…顔がいいと多少生意気でも許されるんだもんな…。
悔しさをかみしめながら黙って見ていると、切原くんが訝しげに眉を寄せる。
「……なんスか」
「別に」
思っていることを言ったら調子に乗るのは目に見えていた。
絶対に褒めてはやらない。
思わず声が漏れた。
部活を終え、備品を戻すために倉庫へ来たのだが――物陰に、一人の男子が座り込んでいた。
人目を避けるように膝を抱え、深くうなだれている。
よく見れば、着ているのは男子テニス部のジャージだ。
それに、あの特徴的なくるくるした黒髪。
男子テニス部の二年生。
先輩相手でも遠慮なく噛みつくことで有名な問題児。
確か、切原赤也くんだったはず。
でも、こんなところで一人、何をしているんだろう。
ま、まさか具合が悪いとか!?
でも、面識ないし急に声かけたら怖がられてしまうかもなぁ…。
いやしかし…。
考えあぐねている最中も、微動だにしない切原くん。
こりゃ相当重症なのでは!?
今は見て見ぬふりをしている場合じゃない!
そう決意した私はポケットに手を突っ込み、足早に彼のもとへ向かった。
そして、膝を抱えて小さくなっている彼と目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「よかったら、これ」
ポケットから取り出したものを、そっと差し出す。
突然声をかけられた彼は、驚いたように顔を上げた。
私の顔と差し出された手のひらを交互に見たあと、怪訝そうに眉を寄せる。
「……なんスか、コレ」
「酢昆布」
そう私が言うと、訳が分からないとでもいいたげな顔で、彼は手の上に鎮座するそれを凝視する。
「いや、それは見れば分かるッス。なんで酢昆布?」
「具合悪そうだったから」
「具合悪い奴に食わせるもんじゃないでしょ!」
なんだ、元気じゃないか。
心の中でホッと一息つく。
「じゃあ、具合が悪いわけじゃないんだね。よかった」
私は酢昆布をポケットへ戻し、立ち上がろうとした。
「ちょ、待ってくださいよ!」
「え、酢昆布やっぱりいる?」
「いらないッス!」
言いながら首を大きく左右に振る。
そんなに嫌がらなくてもいいじゃん…。
おいしいじゃん、酢昆布…。ミネラルも取れるし余計な砂糖入ってなくてヘルシーなんだよ?
内心少しだけ落ち込んでいると、切原くんは気まずそうに視線を逸らした。
「そうじゃなくて……俺がここにいたこと、誰にも言わないでください」
「別に言わないけど」
「仁王先輩にもッスよ」
「なんでそこで仁王が出てくるの?」
びっくりしすぎて先ほどポケットへ入れた酢昆布が飛び出す。
それを落とすまいとアワアワしてる私を見ながら、ふてくされたような表情で、
「だって、アンタ仁王先輩といつも一緒にいるじゃないスか」
そうつぶやいた。
あー、なるほど。わかったぞ。
仁王は日頃から部内で私の悪評を広めている。
↓
そのせいで、切原くんにも私の存在を知られている。
↓
しかも、私と仁王がいつも一緒にいると誤解されている。
↓
ここにいたことを私に知られたら、仁王にも筒抜けになる。
↓
THE END
ってそう思われてるってことね!?
絶対そうだ!確実に!100パーセント!
我ながら完ぺきな方程式だと思う。
それはそうと、仁王、許すまじ…。
無事、自分の手の中におさまった酢昆布を今度こそポケットの奥に突っ込む。
そして、未だに口をとがらせている不機嫌そうな彼の隣に、少し距離を空けて座った。
切原くんがわずかに身を引く。
露骨ではないが、「なんで座るんスか」と顔に書いてある。
「別に、何でもないッスから」
私が何かを言い出す前に、そう口を開いた。
「まだ何も聞いてないけど」
「これから聞く顔してるじゃないスか」
顔を俯かせ、再び膝を抱えるような体勢になる。
それがなんだか小さな子供のようで、思わず笑ってしまう。
「…何笑ってんスか」
すぐさま鋭い視線が飛んできた。
眉間にはくっきりと皺が寄り、不機嫌そうだった顔が、今度は明確な怒りに変わっている。
「いや、ごめん。なんか可愛くて」
「はあ!? ふざけないでくださいよ!」
そういうや否や、膝を抱えていた腕を解き切原くんは勢いよくこちらへ向き直った。
「アンタ、確か女子テニス部の部長ッスよね?一本下駄履いてるって噂の」
「え…まあ、一応部長だけれども…」
そう答えた途端、眉間に寄っていた皺がほどけた。
代わりに、口元へ挑発的な笑みが浮かぶ。
「へえー? じゃあ、アンタ強いんだ?」
さっきまで膝を抱えて小さくなっていたくせに、急に態度がでかくなった。
「まあ、たとえアンタが男だったとしても、俺のほうがテニス強いけどね」
「今テニス関係なくない!?」
何この子!?話が飛躍しすぎて、先輩はついていけないわ!!!
それにこの顔!
チロリ、横目で盗み見ると、切原くんは勝ち誇ったように口角を上げた。
ああ、腹立つ。
今すぐその自信満々な鼻っ柱をへし折ってやりたい。
……のだけれど。
挑発的に細められた大きな目も、子供っぽさの残る顔立ちも、悔しいことにすこぶる整っている。
くるくるした黒髪まで、腹立たしいほどよく似合っていた。
クソー…顔がいいと多少生意気でも許されるんだもんな…。
悔しさをかみしめながら黙って見ていると、切原くんが訝しげに眉を寄せる。
「……なんスか」
「別に」
思っていることを言ったら調子に乗るのは目に見えていた。
絶対に褒めてはやらない。
