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計画は密かに

ユーイン・セタロットは、午前2時になる

と必ずレンガの家の自宅を寝間着姿のまま

出て、舗装のない森の中を歩いて行った。

向かう場所は、いつも決まって《黒魔道の

おかしな店》だ。

ユーイン・セタロットは赤褐色の頭髪の上

に、ダークグリーンの大きなローブを被り

ながら、先を行く。

時々、冷たい川の水に靴が濡れたり、枯れ

枝が行く手を制しようとも、彼女は耐え抜

き、振り切って進んでいった。

冷たい風が彼女のローブを脱がそうとする

が、なんとか抑える。
間もなく、森の住人たちとの小さな戦いに

終わりが見えてきた。
彼女は車道のそばまで出たのである。

あとは、東を目指して歩けば、例の店にたどり着く。
そしたら、私の計画は漸く動き始める……



道を進んでしばらく経つと、店に着いた。

「いらっしゃい」
黄緑色の髪を刈り上げた男らしい外見の店

員が声をかける。
店員は、ユーインを見るなり、そばにあっ

たカートをよこす。
「ばあさんや、これを使うと買い物が楽に
なるぜ」

店員には、ユーインの顔は60代かそれ以上に見えるのだ。

実はこの外見、魔法によってユーインが自分で施したもので、
ユーインは本来16歳のうら若き乙女なのである。

ユーインは手で制し、礼を言うと、店員をレジに置いたまま、
自分はお店のロゴの入ったカゴを持ち、
すたすたと店内を見回していく。

背後で、「杖もカートもいらないなんて…
…なんて元気なばあちゃんなんだぜ……」

なんて声がしたが、そういうことは、
ユーインの耳には入らない。

結局、ユーインは15cmほどの長さの赤いキャンドルと、
コウモリの死体を適体、カゴに入れて、
先刻のレジに戻ってきた。

「ばあさん、普段、何飲んでんの? プロテイン? 
いやぁ、すげぇパワフルだよねぇ」

ユーインはクスクスと笑いながら、店員に
言われた金額を払った。

「特にこれといって飲んではいないんですがねぇ。
ふふふ」

「また来てね~」

店員に手を振り返しながら、
ユーインは自宅に帰る。

蔦の這い上がったレンガ造りの洋館の、
マホガニーのドアを開けると、つま先の尖ったロングブーツの
まま玄関に入り、正面から斜め奥の梯子に上っていく。

上った先はユーインの部屋だ。

四隅には勉強机やらベッドやらぬいぐるみ

が置かれているが、ひときわ目立ったのは

、中央に――ユーイン自身が描いたであろ

う――魔法陣があった。
窓辺から風がわずかに吹き込んでくるとき

。それは魔法陣の向こうにユーインを呼ん

でいる何者かがいるということ。
ユーインは先刻買ってきたコウモリの死体

を魔法陣の端に並べていき、赤くて長さの

あるキャンドルを束ねて、魔法で火をつけた。
部屋に訪ねる者も、見回りに来る親もいない
この秘密基地のような、隠れ家のような
部屋の中央の魔法陣――。

その真ん中に、

キャンドルを持った赤い髪のサイドアップや
そばかすに幼さ残る16歳の乙女の姿、
ユーイン・セタロットは独り、呪文をとなえ
、その場から木枯らしのように跡形もなく
消え去った。

彼女が向かった先は、尋問塔の屋上だった。

仲間たちはそこで彼女の登場を待っていた様子で、
そのうちのひとり――頭のサイドに角を生やした者は
葉巻をくわえながら地面に座り、
足を投げ出した状態でユーインを見上げている。

「遅かったじゃねぇか、ユーイン」
 ユーインはペロッと愛らしく舌を出して誤魔化す。
「ちょっと店員にバレそうになってね。
でも、ここまで来れば問題ない」
頭部のみカエルで、首から下が人間の少年
も会話に混ざる。

「僕は何をすればいいの? ここ、寒いし
、早いとこやっちゃおうよ。ミス・ユーイン」

 間もなく、ユーインとその仲間たちによる楽しい血の飛び交うフェスティバルが始まろうとしていた。


◆◆◆◆◆◆◆
◇◇◇◇◇◇◇◇

仕事を終えて、官僚ハウス(学生寮のようなもの)に帰る途中、
メイデンは自分の部屋番号のポストを開けた。
中には一通の手紙が入っているだけで、他には何も無かった。

「ん? 宣戦布告ですって?」

羽ペンで殴り書きされたその文字にやや驚

いたメイデンは、封書の中身を取り出し、
中身を読んで呆気にとられた。

「まーた、彼らのお遊びに付き合わなきゃ
ならないなんて……。何度戦いを挑んでこようと、
あんたたちに勝算なんてないのに」

メイデンは本気にはせず、宣戦布告の紙を

ビリビリに破いて近くのゴミ箱に捨てた。

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