「ねぇ、メアリー。今夜はそばに居てくれないかしら？」

ある夜のこと。貴族の令嬢サリーは、今夜だけは珍しく、小間使いのメアリーを呼びとめました。

「どうかなさったんですか、サリーお嬢さま」

メアリーは不思議そうにたずねます。

何せ、いつもなら「私だってもう16歳。1人でだって寝れるわ。夜なんて怖くないもの」なんて言って大人ぶるサリーが、今夜はいつになく怯えたような表情をしているのですから。

「こわいのよ、今夜は。今夜だけは、どうしてもこわいの。夜がおそろしくってしょうがないの。だから、そばにいてくれないかしら、メアリー？」

メアリーはサリーを寝かせる他にも仕事はいくつか残っていましたが、サリーのことも心配でした。

「明日の夜は、一人でも寝られそうですか、お嬢さま？」

「えぇ、寝るわ。約束する」

サリーから手を握られるメアリー。
さて、困ったことになりました。

メアリーはしばらく迷ってから、「今夜だけですよ」と言って、サリーの寝ているベッドに入りました。

「やったぁ。メアリーと一緒に居られるわ」

サリーはお母さんやお父さんにバレないよう、小声で嬉びました。

「さぁ、どうなさいますか。お嬢さま」
「そうね……」

メアリーに優しくハグされながら、サリーは考えました。

「何か、夢のある話をしてくれないかしら？」

メアリーは自分が仕事中によく考える妄想について、サリーに聴かせました。

「何だかワクワクする話ね。じゃあ、次は、私が寝るまで、好きな動物の話をしてくれる？」

メアリーは犬の魅力や、猫を飼っていた頃の苦労話、最近見つけた珍しい動物――タヌキの親子のことなどを話して聴かせました。

サリーが寝息をたて始めると、寂しい反面、達成感を抱きつつ、そっと静かにベッドを離れます。

「おやすみなさいませ、サリーお嬢さま」

流れ星が夜空を渡った瞬間、メアリーはウィンクして、サリーの部屋を後にしました。

サリーが幸せな夢を見ていることを願いながら……。





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