企画跡地




「センパーイ!今日の練習なんスかっいっただだだ!」

「ま・と・わ・り・つ・く・な!暑いウザイ!!」


部室に向かっていた笠松に後方から黄瀬が飛びついた。
勿論ここは廊下で、向かいを歩いていた女子が黄色い声を上げてパタパタと走って行く。
笠松は飛びつかれると同時にヘッドロックをかました。
鈍い音と共に黄瀬が低い声を上げて倒れた。


「つ、ツレナイっスね…」

「キモい」

「そんなっ!!」


大袈裟なリアクションをとりながら泣く黄瀬に、男がそんなすぐ泣くなと笠松がその背中をひっぱたいた。











「ラスト10本、いくぞー!」

「オォッ!」


体育館に部員の声が響く。自分のノルマを終え一足先にコートを出る。
なかなか良い調子のチームメイトに声をかけつつ、現在コートで走り込む黄瀬にチラリと目をやる。
…真剣な顔は、まあ流石モデル、といったところか。
普段とは全く違う雰囲気を出す黄瀬にブツブツと悪態をつきながら笠松はドリンクを手にした。
渇いた喉を通って流れていく冷たさが心地いい。
フゥ、とひとつ息をついて顔を上げれば、黄瀬が走ってきた。


「センパイ、さっきオレのこと見てくれてましたよね!?」

「全員見てたし」

「オレ嬉しいっスー!」

「人の話聞きやがれ!!」


…いつもの会話。周りからは仲が良いと言われても、笠松にはどうでもよかった。
黄瀬はものすごく嬉しがっていたが。


「…ぜんっぜんわかんねぇ」

「何がっスか?」

「お前が」

「えっ!気にしてくれてるんスかセンパイ!?」

「…お前と話してると疲れるのはなんでだ」

「?」

「聞いたオレが馬鹿だったよ」


センパイ意味不明っス…と頭の上に疑問符を浮かべる黄瀬にため息をつきながらちゃっちゃと着替える。
黄瀬の行動が笠松には全く理解できなかった。
例えば、すぐ抱き着こうとしたりだとか。
例えば、いつも傍にいる気がするんだとか。
例えば、どうしてそんなに嬉しそうなのかとか。


―――どうして、オレはそれを不快に感じないのか、とか。


全く以て、理解できなかった。
黄瀬も、自分自身も。
他人にこんな風に接されるのは初めて、だからなのかもしれない。
そうだ、きっと。


「センパイセンパイ!今日ちょっと寄り道しないっスか?」

「ハァ?なんで」

「オススメの店見つけたんス!」

「ちょっ、待っ…手ェ引っ張るなよ!!」


ぎゃあぎゃあと煩くも楽しそうに帰る姿を見られ、後日『デートだ』なんだと言われるとは、思いもせず。







スタートラインはまだ先

(自覚まで、あとどれくらい?)






END
100215/香夜
サイト一周年&六万打記念企画
黄瀬は自覚している


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