他校詰め込み




「おい良、メシ」

「は、はいっ!」

「ん」


青峰希望のマイちゃんデコの弁当を差し出すと、当たり前のように青峰は顔に箸をぶっさした。
大口でもごもごと頬を膨らませつつ弁当を口に運んでいく様子を見て、桜井はホッとして自分も弁当を開けた。
雲ひとつない昼下がり、屋上にて可愛らしい弁当をつつく男子が二人。
ハタから見たらなんと滑稽なことか。

桜井が弁当を自分で作っていると青峰が知ったあの日から『オレの分も』といつもと変わらない調子で言われたときは、さすがに少しびっくりした。
冗談だろうと思って作って行かなかったら、翌日『昨日言ったじゃねぇか』と怒られた。
…で、びくびくしながらもこうして青峰に弁当を作って行くようになって暫く経つ。
食事中は特に会話もなく、というか桜井が終始何を言われるかと肩を縮こまらせている状態である。


「ごっそさん」

「あ、」


横に置かれた弁当箱に目をやって、受け取らなくてはと焦る。
わたわたしていると、不意に青峰が口を開いた。


「お前、マジで朝これ作ってんの?」

「っ!」


急に話し掛けられて思わず口の中にあった卵焼きを飲み込んでむせてしまった。
日本語喋れと青峰に流される。


「ス、スイマセン…!」

「別に謝るとこじゃねーよ」

「ひっ、ススススイマセン…」

「質問答えろよ」


いらついたような声を出すもんだから、余計に肩が震える。


「あ、えと、その…ハイ。」

「毎朝?」

「う、うん」

「…ふーん」

「な、なんかまずかった…?」

「は?」

「いいいいやなんでもない…!」

「フツーに上手いじゃん、料理」

「…へ」


一瞬耳を疑った。…だって、あの、青峰君が?


「いいい今…なんて」

「ん?良ってフツーに料理上手いよな…って何してんだよ」


呆れたような顔の青峰が容易に想像できる。
無理…顔上げられない……
聞き間違いじゃなかった言葉が、こんなにも嬉しい、なんて。
青峰が言ってくれたということが、こんなにも嬉しいなんて。
思わず体育座りで頭を抱える。


「あー…次サボるか…」

「っ!?」


いきなりガシッと肩に腕を回されて無理矢理顔を上げさせられた。


「道連れ。」


ニッと笑った青峰に、何も言えない桜井はただただ流されるまま午後の授業をサボるはめになった。
…それすらも嫌じゃないなんて、そんなこと絶対言えないけど、と桜井は顔を朱にして思った。







讃歌

(戯れる人影ふたつ、)



END


091109
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