他校詰め込み
忘れてた、けど。
オレと先輩は2歳差だった。
その日は、雲ひとつない快晴で。
門出を祝うには持ってこいの日で。
ぱちぱちと力なく手を叩きながら卒業生を見送る。
――せんぱい、だ
体育館から出ていく列の中に見つけた、先輩はちょっとだけ目が潤んでた。
1年、か。
先輩と逢ってからもうそんなに経つんだとふと思う。
引退してからも先輩はちょくちょく部に顔を出してくれて、うれしくっていつも真っ先に先輩のところに飛んでった。へらへらしてんなって蹴られたけど、この間の試合も勝ったんだよな、お疲れ。なんて頭ぽんぽんしてもらうのがうれしくて。
……うれしかった。けど、ちょこっとだけ胸がいたかった。
「笠松先輩」
「おー黄瀬」
「…卒業おめでとうございます」
「んだよ、そんなかしこまって気持ちわりー」
「えー!ひどいっス先輩!」
「ハハッ、その顔久々に見た!」
さっきまで潤んでた瞳はもうなくて、いつもの先輩がそこにいた。
くったくなく笑って、笑って。
オレは精一杯、いつも通りに振る舞って。
「…まぁ時間空いたら時々顔出しに来るけど」
「いっぱい来てくださいっス!先輩いないとさみしいっスよー」
「おま…そんなんで海常のエースつとまんのかよ」
「むー、頑張るっス!…………だから、先輩…も、」
せんぱいも、がんばって。
そう言ったつもりだったけど、声にならなかったらしい。
奥から奥からこう、あついものが込み上げてきて先輩に「あーあ」って背中を叩かれた。
「…う、せん、ぱ……」
「ったく、こんなんじゃ先が思いやられんぜ…」
ま、今日は許す。
そう先輩が笑ったから、オレはもうとまらなかった。
ぼろぼろぼろぼろ涙がとまらなくて、拭っても拭ってもやっぱり溢れてきて。
「せん、せんぱい、」
「うん」
「かさまつ、せんぱい…」
「うん」
こんなときに肩パンとか、してくれたらいいのに、先輩は優しく頭撫でてくれてて、やだ、先輩いないとオレやだ、部活楽しくないよせんぱい、先輩とバスケ、したいっス、よ………
「…せんぱい」
「ん?」
「ありがとう、ございました」
「うん」
いっぱい構ってもらった。
いっぱい「黄瀬」って呼んでもらった。
いっぱい、先輩から、うれしいをもらった。
それで、十分だろう。
「笠松ーっ」
「あ、うん今行く!」
じゃあな、と笠松先輩がオレから離れて行く。
いかないでいかないでせんぱい、
オレまだ、
「……はい、」
笑え
笑え、オレ!
「………さよなら、っス」
ひときわ大きな水滴が頬を伝う。
制服の袖で、ぐいと涙を拭った。
憧れだと、ずっと言い聞かせてきた
この胸の奥底に、蓋をし続けてきた
溢れそうだ、誰にも聞かれないならいいかな、ねぇせんぱい、
オレはずっと、ずっと、……ずーっと
「………っ」
せんぱいが、すきでした。
春風に乗せて
(今度会えたら、その時は)
END
090817
これはそのうち笠黄になるやつ