他校詰め込み




『――卒業生退場』

帝光中学、本日は卒業式。
体育館から三年生がぞろぞろと出て来る。
校庭に出れば後輩たちが群がる。


おめでとうございます

高校頑張って下さい

部活に顔出して下さいね

また遊びたいです


そんな、普通に感動するような場面で


オレは一人動けないまま――…



* * *


「黄瀬くん」

「あ、黒子っち」

「珍しいですね、一人なんて」

「なんか…実感わかなくて」

「卒業、ですか?」

「…うん」


中庭のベンチに黒子っちと二人、並んで座る。
見上げればほんの少し、色づいた桜のつぼみが見える。


「黒子っち、なんでここにいたんスか?」

「校庭は人で溢れかえってて、まだ帰るのも惜しかったので」


少し思い出に浸ろうかと。

そう言った黒子っちは寂しそうに桜の樹を見上げた。


「ここが好きでした」

「お昼とかよく食べたよね」

「読書もしやすかったです」

「オレはよく寝てたなぁ…」

「そうでしたね」


クスッと黒子っちが小さく笑う。


…あぁ、この顔だ。
唇の端を軽く持ち上げて、笑う、

でもその目は誰よりも何よりも
優しくて 優しくて



オレがバスケ部に入ってすぐ、ちょっと馴染めなかったオレに声をかけてくれたのは君だけ。
他のみんなは黒子っちを『影が薄い』とか言うけれど
オレにはそんなのわかんなくて、


ただ、一緒にいるうちに

その笑い方だとか

その優しい目だとか

バスケが本当に好きなところとか


いろんな黒子っちを見つけて
嬉しくて
一緒にいたくて
バスケもすごく楽しくなって



――いつの間にかそれは

こんなにもあったかい気持ちになって

そして悲しい気持ちにもなって




「…黒子っち」

「はい」

「オレ…さ、」

「はい」

「…………黒子っちのこと、好きみたいだ」

「………………………え」



あーあ、言っちゃった。
でもね、多分後悔すると思ったんだ。

ここで言わなきゃ、

もう二度と、こんな風に話せることなんてないかもしれないって


絶対言わなかったことを後悔するって……




「…え、と」


長い沈黙を破ったのは黒子っち。
下を向いて顔が見えない。


「…き、黄瀬くんがそんな風に思ってた、なんて…その…」

「ごめんね」

「え」

「…おかしいってわかってる」

「あの」

「でも言いたかったんス。黒子っちにね、ずっとずっと」

「……」

「今日、今これで、『終わり』だから気にしないで」


ふぅっと、少し肌寒い風が吹く。
顔を上げた黒子っちにオレは笑いかける。
ちゃんと笑えただろうか、


「…すみません」

「うん、いいよ」


黒子っちはオレを見て、
そして申し訳なさそうに俯いた。


「…びっくり、しました」

「はは、そりゃそーだよね」

「ボクは…ボクでは黄瀬くんに応えられないです……でも」


『ありがとう』


***


――ピピピピピピ…


「…っ」


ぱちんと目が覚める。


「……」



夢、


幸せな、夢――


「…黒子っち…」


『――今週末、誠凛高校と練習試合をやる。各自調整しておけよ』


昨日の監督からの言葉。
誠凛は黒子っちがいるところだ。


「――っと!今日も頑張ろっ」


パシンと両頬を軽く叩いて、ベッドから出た。


…ねぇ、黒子っち。

オレ嬉しかったんスよ?

拒絶、しないでくれて


――黒子っちに告白した後はわかれて


オレは一人、桜の樹の下に立ち尽くした


柄にもなく、泣いたりした



黒子っち、今、楽しい?

みんなとやらないバスケは、

オレのいないバスケは

楽しい?





――オレ?




オレは、黒子っちが笑っているなら



それだけで 嬉しい、よ






時間よ、動け

(オレの心はあの日、あそこにまだ置いたまま)
(今でも君を想っているんだろう)





END

090223
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