他校詰め込み




恋人がいます。
可愛くて可愛くてついからかってしまうような、そんな相手がいます。
ツンデレという要素はなかなかに破壊力が強く、最初は面倒だとも思いましたが一度その魅力を体感してしまったらこれはもう、手放すわけにはいかなくなりました。


「高尾、さっきから何をぶつぶつ言っているのだよ」
「んー?真ちゃんの可愛さについて考えてた」
「……」
「真ちゃーん?」
「……それは今考える必要があるのか」
「オレはいつだって真ちゃんのこと考えてるよー、だって好きだもん」
「言ってろ」
「真ちゃんマジツンデレ!そこが好き!」


いつだったか、可愛い恋人が言うにはこういう軽々しく好きだと口にするところが苦手だと言っていた。
オレからすれば、お前があんまり好きだとか言わない分言ってるみたいな気持ちなんですけど。

そんなわけで、今はどうやったらあの口からぽろっと好きの言葉を引き出せるか駆け引き中なのだ。

安全運転で行けよ、と言いながらおしるこを啜るこいつに適当な相槌を打ちながら足の動きを一定にして進める。

練習後にも関わらずこれだけ漕げるようになったのは慣れと体力アップのおかげかなあと頭の隅で考える。
そしてそうこうしているうちに目的地へ着いた。


「緑間家到着~」
「ご苦労」


自分で言うのもなんだが、なんだか執事にでもなった気分だった。
随分絆されたもんだ。


「じゃあね、真ちゃんお疲れ」
「ああ、……おやすみ」
「え」
「……なんなのだよ」


さらりと言われた「おやすみ」の言葉に耳を疑った。と言うのも、今までは「ああ」だの「お疲れ」のオウム返しくらいしか反応がなかったのだ。
初めて、お、「おやすみ」…!!

数秒固まったオレに疑問符を浮かべながら、早く帰るのだよと言って背を向けようとした奴の腕を引きとめる。


「なんだ?」
「……おやすみ、大好き」
「なっ…、お、」


学ランを思い切り引っ張って、触れるだけのキスをした。


「な、たか、」
「…じゃあな!」
「この、おま…さっさと帰れ!」
「真ちゃん顔真っ赤!」
「う、うるさい黙れ!……ああもうっ」


ドカドカと音を立てて家の中に入るのを確認してから、自分も帰路につく。
好きだとは今日は言ってもらえなかったが、それよりもいいものを聞けた気がして足取りは先ほどよりも軽かった。
不意討ちにはオレだって弱いんだ、バカヤローなどと呟きつつ。



特技は駆け引き

(真ちゃんが可愛くて発揮できないときもあるけど、な)



END

121006
高緑の日企画「主従関係の模範生」様参加作品

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