他校詰め込み




【Dear,】



二歳差って結構ツライものがあったりするんスよ。
と、この馬鹿が肩に頭をもたれ掛からせながらぽつりと呟いた。

「どういう意味だよ」
「一緒にいられる時間が、なんか気持ち少ないように感じるっス」

いつもの軽い調子ではなく、声も少しトーンの低いものだった。
また変なことを考えてるんだろうか、こいつは。

「あと2年早く生まれたかったっス」
「えー…」
「何スかその嫌そうな声!?」
「オレはお前と同学年とか嫌だね。バスケがなかったら関わんねぇよ」
「ひっど!!オレそんなに!?」

うわあん、とかなんとか言いながら黄瀬にがっしり腕をつかまれる。しかし結構本音だ。こいつと同学年の自分とかは考えたくない。
だから。出会いが高校で、二歳差でオレは良かった。

「センパイがいない学校で二年も過ごすとか考えらんないっス…」

…あぁ、そういうことか。

「お前ってホント馬鹿…」
「えぇ!?」

わざとらしくため息をついてみせると黄瀬はやたらと大袈裟にそれに反応する。

「センパイは寂しくならないっスか?」
「さあな」
「そこは嘘でもいいから否定してほしかったっス…!」
「だって、お前絶対来るだろ」
「…へ?」
「オレのとこ。」

あといくらかもすれば、大学生と高校生という枠組みになる。黄瀬が感じた「寂しさ」は多分そこだろう。
でも。絶対的確証なんてものはないけれど、こいつは。

「…押しかけるっスよ」
「今とちょっと距離できるだけでやってることは変わんねェだろ」
「……確かに」

別れる気はない。ていうか、多分離してやらない。

名前や顔は知っていた。「有名なキセキの世代の一人」として。
春、出会ったのは、そんなイメージとは掛け離れた「黄瀬涼太」という一人の人間。
今に至るまで、それなりに黄瀬を理解してきたつもりだ。

「会いたいなら、お前は真っ直ぐ来るだろ。……時間ぐらい、いくらでも作ってやるよ」

そう言って視線を落とせば、ちょうどオレを見上げた黄瀬と目が合う。

「…笠松センパイのそういうとこ好きっスよ」
「そりゃどーも。オレは欝陶しいお前は嫌い」
「セ、センパイ…!」
「…でも」
「…?」
「…………言ってやんねぇ」
「えっ!?なんスか!?めっちゃ気になるじゃないっスか!!」
「黙れ黙れ察しろってんだよ!」
「センパイ顔真っ赤!」
「うっせぇ!!」

ひとしきり騒いだあと。
空っぽの教室はやけに広くて。

「…帰るか」
「オレんち来ません?」
「………勝手にしろ」

ガタリと音を立てて椅子を戻す。
学校を出て二人肩を並べて寒空の下。
こうして帰ることができるのもあと数えるほどしかない。

冬が終わらなければいいのに。
そう呟いた黄瀬の背中を「ばぁか」と叩きつつも、同じことを考えた自分を笑った。


それなら、と差し出された黄瀬の掌。


「…バーカ」


ゆっくりと手を重ねる。ぎゅっ、と強く包み込まれた温度がとてつもなく心地良くて、何故だか涙が出そうになった。



春の手前、今日も二人の影は長く伸びている。





END


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