他校詰め込み




あと10本、と心の中で呟いて腰を上げた。
一人になるまで残るのは久々だ、と黄瀬は体育館を見回した。
これをやりきって、今日の自主練は終わり。
思っていた時間より少し遅くなってしまったから、きっと部室にも人はいないだろう。
マイペースでいいか、と黄瀬はボールを手にした。




***




残りのノルマを終え、ボールを倉庫に片付けて部室に向かう。
ぬるくなったドリンクを口にしながら部室のドアを開けた。


「…あ」


センパイ、とそこまで声は出なかったが。
視線の先には机に突っ伏して丸まった背中があり、笠松だと認識できた。
ひょいと顔を覗けばその目は閉じられている。


(寝ちゃってるっス…!か、かわい…っ!)


抱きしめたい衝動に駆られつつもぐっとそれを抑えこんで、とりあえず破壊力抜群の寝顔から数歩離れる。
と、笠松の腕の下のノートに気付いた。


(部誌…だけじゃない、レポートかなんかかな…?)


ペンを握ったまま寝ているところからして、書き進めていたのだろうと想像できた。
しかし部誌だけならまだしも、何故ほかのものまで部室でやっていたのだろう。
今日の自主練の量はいつもと同じのように見えたから、普通に帰宅できるはずだ。


「……」


着替えながらそんなことを考えて、振り返ってその背中を見る。
歩み寄って、その髪に優しく触れてみた。
なんだかいつもと逆だ、と黄瀬は緩く笑う。


「……センパイ、」


腰を落として、目線をその寝顔と合わせてみる。


「…あんまり無理し過ぎちゃ、ダメっスよ…?」


センパイは頑張り屋さんっスから、と小さく呟いた。
わかったような口をきくな、とか言われるかもしれない。
それでも言わせて欲しい。
自分にだって、笠松が頑張っていることくらいはわかる。
きっと他の誰よりも、この人のことを見ているのだから。


「……ん…」

「!」


小さく笠松が反応したのに驚いて、黄瀬は思わず飛び上がった。
起こしてしまったかと思ったが、そうではないようだ。
さっさと着替えよう、そして一緒に帰ろう。


「……あ、」


と、その前に。


(このセンパイは写メるべきっスよね…!)


そう思って起動した携帯のカメラ越しに、不機嫌そうな目の笠松と目線がバッチリ合ってシバかれたのは言うまでもなく。




気が向いたら。
(オレにも寄り掛かって欲しいっスよ!)




END


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