他校詰め込み
3月も中旬、だんだんと春の足音が聞こえるようになってきた。
とは言っても、まだまだ朝夕は冷え込むし下手をすると雪が降ったりもするのだが。
「………」
「あ~、岩村いらっしゃい~」
「まだ火燵出てるのか…」
「えー…だって今日も雨だしさみーんだもん~」
がちりとドアを開けると、部屋の住人が振り返る。
ぬくいよー、と言いながらふにゃりと笑う春日に岩村は苦笑しながら溜め息をついた。
確かに今日は雨模様、気温もぐっと下がって寒い。
「…苺でいいんだったか?」
「アイス買ってきてくれたのー?サンキュー」
岩村がストロベリーって言ったら似合わないね~なんて春日が笑いながらアイスの蓋をめくる。
「結局こたつ入るくせにね~」
「お前がいるから入るんだろうが…」
「うん、知ってるー」
シトシトと窓の外で小気味よい音が響く。
向こうの空が明るくなってきた。もう少ししたら、雨は上がるのかもしれない。
「一雨ごとに暖かくなるって言うけどな」
「そうなの?知らねー」
「だから寒さは我慢」
「え~………それなら、まだこのままでいいかもー」
「…前は『早く暖かくならないと死ぬ』とか言ってたじゃねぇか」
「ん~…それはそうなんだけどさー…」
ほんとはね。
冬はそんなにキライじゃない。
くっつく口実が沢山あるから。
冬は夏より互いの距離が近づくのは、気のせいじゃない。
「…と、いうことです~」
「そんなことか」
「オレにとっては重大なのー」
テーブルに顎を乗っけて、春日はむー、と口を尖らせた。
岩村もアイスを食べ終わり、スプーンを静かに置いた。
「……そんなん理由なんかなくったっていいのに」
ぽつり。とまるで独り言のように言葉が浮かぶ。
数秒遅れて、春日の目が見開かれた。
「…ちょっと待ってもっかい言って岩村ー!」
「言わん」
「もっかいー!」
春日は思わずこたつから出て向かいに座る岩村に詰め寄る。
上に乗るな!と慌てる岩村をよそに春日の頬は緩む。
バッチリ聞きました。聞いちゃいました。
小さなことが、岩村絡みになると一回りも二回りも大きな幸せに変わる。
雨が小降りになってきた。
向こうの空から柔らかく陽射しが差してくる。
ほら、きっと春はすぐそこ。
ハルアメ
(桜が咲いたら見に行こうね)
END
100327
岩春の日企画参加作品