他校詰め込み




「…ふー…」


すぅ、と冷たい空気を取り込む。暖房でほてった体に染みていく感覚も鼻の奥がツンとする感覚も案外嫌いじゃない。
そんなことを考えながらもうすぐ来るであろう恋人を待つ。
マフラーを巻き直して、制服のポケットに手を突っ込む。携帯を取り出して時間を見ればただ今17時10分。
ほんの少しずつ日は長くなるものの、まだ2月。すぐに真っ暗になるだろう。


「…春日」

「あ、岩村…遅いー」

「約束した、か?」

「してねーよー?オレが一緒に帰りたくなったの~」


歩幅を合わせて、隣を並んで歩く。時折北から風が吹いて、肩に力が入る。


「寒いー」

「まだ冬だから仕方ないだろう」

「まーそうだよねー」


二人して白い息を吐きながら、どうでもいい会話をしているこの時間が心地よくて、甘えてしまう。
…会話がなくても、居心地はいいんだけど。


「早くあったかくなんねーかなー…」

「今週いっぱいは底冷えらしいぞ?」

「えー…!オレ死ぬ…布団から出れないー」

「……それは一年中変わらんだろうが」

「気分の問題だもーん…」


ふわりと自然に口元が緩む。
さむいさむい、でも、岩村とのこの距離はあたたかい気がして。

視界の隅で何かがちらついたように思ってフッと視線を上げれば、一等星がひとつ、薄暗く染まった空に輝いている。


「…晴れかな、明日ー」

「多分な」

「……岩村~」

「なんだ?」

「…よかったらー、手ェ繋ぎませんかー?」

「………」


わざわざ言うかそんなこと、という代わりのため息を岩村が吐く。
ダメかと思って唇を尖らせていると、しばらくして腕を掴まれた。
ポケットに入っていた手を引っ張り出され、乱暴に掴まれる。


「…いーわーむーらー…?」

「寒いから」

「……おー、ありがと~」


だらしなく緩んだ顔はとりあえず放っておく。暗いからきっと見えない。
……そう、暗いからだ。
なんだかんだ言って、繋いでくれちゃって。
そういうところ、好き。


辺りはすっかり闇に包まれた。
この色なら、きっと手を繋いでたって遠目じゃわからない。
寒いけれど、繋いだ手は熱いくらい。この温度はオレだけのもの。
しあわせな時間を、今日はまだ感じていたい。
久々に、遠回りでもしようか。





掌にひとつ、

(ぎゅっ、て、幸せ効果音。)





END


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