水金SS
※水金とちょっと順リコとちょっと日←月
「なー、いつもスルーしてるけどさ、何で小金井は水戸部の言いたいことわかんの?」
昼休み、C組に水戸部と伊月と来ていた小金井に日向はぽつりと言った。
「あー、オレも前から気になってた」
「あたしもあたしも!」
「え、何みんな今更」
日向の言葉に伊月とリコも続く。
「今更じゃないわよ!去年会ったばっかりのときはホントに大変だったんだからね!」
リコが、『言うことはちゃんと聞いてくれるけど水戸部君の言いたいことは全然読み取れなかったんだから』と唇を尖らせる。
それに水戸部はちょっと眉を下げて、申し訳なさそうに笑った。
「ま、私らだって去年よりは読み取れるようにはなったけど」
「でも小金井は去年から完璧にわかってたじゃん?なんで?」
伊月も懐かしいな、なんて笑いながら小金井に問う。
小金井はとなりに座っている水戸部を見上げ、それからうーんとちょっと唸ってから、
「多分ね、」
「うんうん」
「そーしそーあいだから?」
「そんな真顔で言わないでくれ」
「なー水戸部オレのこと好きだよなー!」
小金井の声に、水戸部は当然のように首を縦に振った。
「ほら、オレも水戸部のこと好きだし」
「知るか!!」
リコが期待した私がバカだったわと日向のペットボトルを取り上げた。
「ちょ!それまだ一口しか飲んでねぇよ!」
「たった今私のものになったの」
意味わかんねぇよと日向がうなだれる。
伊月が横でくつくつと笑いを堪えていたが、このやろーと日向に小突かれた。
リコは理不尽に取り上げたペットボトルに口をつける。
それを見た小金井が、
「カントク日向と間接キス」
「ブッ!!!」
「何で日向君が吹き出すのよ」
「えーカントクは何もないのー」
「そんな、日向君にドキドキしろって言うの?」
「いや完全にそういう流れ…」
「いーよ小金井ー、なら日向はオレがもらう」
「いや伊月も意味わかんないよ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐバスケ部はもうC組では見慣れた光景であるから、クラスの生徒も別段気にすることではなかったのだが、
「水戸部、次なんだっけー?」
「……」
「う、物理?やだなー」
「……」
「え、しかも実験て何やんだよ…じゃー移動かーめんどい…」
午後の授業5分前の予鈴が鳴る。
「じゃーオレら次移動だから行くなー」
「ハイハイ」
並んでC組を出て行った二人の会話には、まだ慣れないものだ。
***
『なんでさ、小金井は水戸部の言ってることわかるの?』
『小金井だけは完璧に理解してるよなー』
みんな口を揃えて言う。
もう答えるのも面倒だった。
完璧に、なんて解るわけないじゃん。
オレ超能力とか使えないし。
水戸部との間に適当な距離を保ちながら、伊月って絶対日向のこと好きだよなーとかどうでもいいことを言いながら廊下を歩く。
だいたいみんな水戸部が喋らないイコール会話できない、って言うけどオレはそんなことないと思うわけで。
みんなだってわかるはずだ、水戸部が実は表情豊かだってこと。
それをだいぶ前に水戸部に言ったら顔真っ赤にされたけど(見すぎだって言われた)
「水戸部はさ、なんでしゃべんないの」
唐突に、小金井が言う。
誰だって疑問に思うことだろう。
「言いたくないなら別にいーんだけどさ、」
オレ、時々わかんなくなる。
小金井が水戸部の袖の端をぎゅ、と掴んだ。
ぴたりと立ち止まって水戸部が視線をやると、小金井は顔を俯いていて。
あ、ちょっとなんで、なんで泣きそうになってんだオレ……
「……っ、」
水戸部がオロオロとした様子で、何か言いかけた。
そして、前に言わなかったっけ、と(多分)そんな感じに口を動かした。
水戸部の言い分はこんな感じだ。
水戸部は昔から話すのが苦手、てか口下手で、相手に言いたいことがうまく伝えられないそうで。
なんて言ったらいいかわからないって。
でも感情が表情には出るからそれでなんとかやってきたらしい(だいたいそこまでみんなの中心とかにいるタイプじゃないから、特に支障はなかったって)
「……うん、聞いたかも」
去年の夏前くらいだったかな、細かく覚えていない。ごめん水戸部………
俯くオレの頭を、いつもみたいに軽く撫でる。
大きな掌は、あったかくていつも安心する。
オレガキみてぇ……
ちらりと時計に目をやれば、とっくに授業は始まっていたのだが、今更行ったところで叱られるのは変わらないんだからもうサボりたいと言ったら、珍しく水戸部が怒らなかった。
オレも小金井と話したいって言った。……多分。
教室の端っこで、誰もいないのをいいことにオレは水戸部の膝の上に座る。
いつの間にか定位置になっていたそこにいれば、水戸部のとる行動は頭を撫でるか抱きしめるか。
でも学校でここまで密着したのは初めてかもしれない。
なんだかそう思ったら急に体温が上がった気がした。
「水戸部さ、」
「?」
「オレのこと好き?」
さっきだって冗談っぽくオレは聞いたけど水戸部は頷いてくれた。
いつもはそれで満足するのに、今は、
あの時みたいに、
好きだって 言ってほしかった。
「…ね、水戸部」
くるりと水戸部に向き直る。
ちょっとだけの袖の端に手を重ねて水戸部を見上げる。
「………っ」
「へ、わっ」
すると水戸部は何を思ったかオレをぎゅううと抱きしめた。
「ちょ、水戸部、」
うあ、真っ正面からっての久々かもしんないなんて考えながら、いきなりの行動にはびっくりしたりして。
「っひ、」
水戸部の髪が首筋に触れて変にくすぐったい。
顔、埋めるなんて珍しい。
「っ………、」
「うん」
久々に聞く、水戸部から紡がれたオレの名前。
そして唇を耳元に寄せたかと思えば、途切れ途切れに、二言三言囁かれた。
囁かれている間は、妙に鼓動が速くてものすごく、恥ずかしかった
でもそれを言ったあとに照れてる水戸部を見たらもうなんでもいいやって思った。
オレもね、水戸部が好きです。
心の中ではいつも言えた言葉
(小金井が、すきです)
(俺を捕まえたのは、小金井なんだからな)
END
090425