水金SS




「みーとーべー腹減ったー!何か持ってねー?」

「……」

「パンはもう昼休みに食べちゃったんだよ…うー…鳴る…」

「……」


部活が始まる前の空き時間。
部室に向かう水戸部と小金井。
小金井は腹減ったと眉を八の字に下げ、水戸部はそんなこと急に言われともと眉を八の字に下げて歩いていた。


「ちわーっす」


小金井がガチャと音をたててドアノブを回し部室に入る。


「あれ、オレら一番乗りー?」

「……」

「あ、なんだ日向のバッグあんじゃん」


部室の鍵が開いてるんだから、と水戸部が言うように微笑んだ。


「だよねー」


もそもそとTシャツに着替えながら小金井が笑う。
水戸部も自分のバッグからタオルやらを取り出した。


「…!」

「そんでさーそんときあいつがさー…」


ロッカーの中をあさりながらも勝手に話を進めていた小金井の肩を、水戸部がトントンと叩いた。


「ん、なに………………!」

「……」


ロッカーを背に、振り向いた小金井の動きが止まる。
水戸部とロッカーに挟まれた小金井に水戸部が重なった。


「……っ…」


水戸部が離れていくと、ふわっと広がる甘酸っぱい味。
指で唇に触れる。

数十秒経って、やっと理解した。


「っみみみみとべお前…!」


小金井の顔が一瞬で朱に染まる。


きき、キスされた、キスされた!
しししかも部室で!
誰がいつ来るかもわかんねぇのに…っ!


「……」


名前を呼ばれた水戸部は小金井の唇にちょんと人差し指で触れる。
そして小さく、

やる、

と唇を動かした。


「え、あ…」


口の中にころんと音をたてて転がる、


「あめ、?」


水戸部を見上げて小金井が聞く。
こくんと水戸部が頷いた。
そして自分のロッカーの所へと移動した。


小金井はちょっとポカンとした目で水戸部を見つめ、


「みとべ、」

「?」


それからポスッと音をたてて自分より広いその背中に抱き着いた。


「…ありがと」


そう言って、ニカッと笑って水戸部を見上げた。
振り向いた水戸部も、ふっと微笑んだ。







Lemon Kiss


(あの夏の日の味がした、)





END

090323


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